マイヤンさん
南スーダン共和国 Mr.ZIATH Mayen Muorwel Mayom (マイヤンさん)
紛争解決と共生社会づくりのための実践的参加型コミュニティ開発手法」コース(2016年10月10日〜11月26日)
南スーダン共和国でスポーツ全国大会「結束の日」(National Unity Day)が開催されました。日本での研修で知識や手法を習得し平和への熱意を新たにしたマイヤンさんは、そのスポーツ全国大会の中で自分も何か力になりたいとJICA南スーダン事務所に申し出て、若者対象に平和や和解のレクチャーをしました。
サッカー決勝戦観客席で
南スーダン共和国の首都ジュバで、平和構築のための最大級のイベントが開催されました。3年にも及ぶ内戦のあいだ、あらゆる状況下で戦いの場と化したこの都市で開催された和解への希望の灯をともすイベントです。今年で二回目になる”National Unity Day”は、南スーダンの文化・青年・スポーツ省の主催で、JICAの支援を受け1月27日から2月5日まで9日間にわたり開催され、サッカーや陸上競技が行われました。Salva Kiir大統領は、社会が和解に向けた準備ができるよう、犠牲者の不満や加害者の有罪判決に取り組むための国家的な対話を求めていくという立場を明確にしており、この平和構築のためのイベントは、この国の平和への願いが具体化する重要な時期に実施されることになりました。
ピッチ上の闘い
このイベントには南スーダンの主要都市から500人もの若者が参加しました。参加者は平和構築活動のみならず、サッカーや陸上競技といった競争に参加しました。
参加した若者の中には、昨年開催された第一回”National Unity Day”に続いて参加した人もいますが、大多数が今年初めての参加で、異なる民族の若者をひとつにする目的で実施される初めての合宿を経験することに非常にワクワクしていました。この合宿を経験することで、お互いの信頼と友情を築くことができ、国内の若者を大きなネットワークで繋がることが期待できます。
フェアプレイのはじまり
このイベントは、南スーダン第一副大統領Taban Deng Gai閣下のご臨席を賜り、政府や国際機関からも様々な要人に参加いただきました。
第一副大統領は主催者を高く評価し、若者に平和を推進するよう激励されました。
「スポーツは平和や南スーダン国民どうしの結束をもたらす最善の方法である。私たちが今置かれている紛争においては、もっといい機会があるが、必要なのはその機会を楽しめるよう結束することである。」と第一副大統領閣下。JICAの北岡伸一理事長からも、「豊かな国をつくるには、多様性の中における結束が重要である」と力強いメッセージを寄せていただきました。
南スーダン共和国は推測全人口1230万人の内、75%が30歳未満という若者の比率が高い国です。世界で一番新しい国家ですが、独立からの3年間は内戦状態にあります。本来政治的なものであるこの紛争により、南スーダン国民が民族間で対立するようになりました。暴力により社会は悉く寸断され、地域社会間の争いが蔓延しています。地域住民の間に募った不信感は、中傷固定概念により煽られ、知識不足やお互いへの否定的な思い込みにより、国の持続可能な平和や安定をもたらす上での障害を引き起こしています。
陸上競技:応援も真剣
民族を固定概念で判断してしまうことで、南スーダン共和国の多くの地域社会間の争いを激化させています。紛争を煽ったり暴力の使用を直接的に促進する人の多くは、暴力を向ける民族に対して何ら具体的な問題を感じておらず、ただその民族に対する怒りや固定概念に左右されています。”National Unity Day”は、その固定概念を減らし、ピッチの外でも中でも若者の結束を強化していく上で中心的な役割を果たします。ステークホルダー間に存在する緊張関係を和らげることで社会資本をネットワークでつなぎ構築したり、また前向きな平和実現に向けた共通責任を促進するために平和構築におけるステークホルダーをひとつにまとめ土台をつくることができるからです。
陸上競技表彰式 メダルも授与
国民が、民族に属するものよりも、国家の中のひとりとしての存在を見いだせるよう共同体として国のアイデンティティを育てるためには、文化的多様性を資産としてとらえて、いろどり豊かな国を築くために活用していくことが重要で、そうすれば国民ひとりひとりが国家という集団の一員であることを感じることができます。これを実現するには、国民を巻き込んで、国民どうしが信頼し協力できる関係やネットワークといった社会資本を後押しする基盤を作ることが理想的であり、これはスポーツを介せば簡単に到達可能できることに着目し、南スーダン文化・青年・スポーツ省がJICAの支援を受けました。
ピースワークショップは大賑わい
スポーツは、南スーダンのすべての国民をひとつにし、独自の社会資本を築く言語であり、意思疎通・交流の手段です。交流により共通の関心を確認し、国内の様々なサブグループ間に存在する社会機構が強化され、社会の統一に勢いがつきます。
世界一若い国で紛争が継続していることに若者が大きく関わっているのは、彼らが暴力を長期化させる仕組みになっているからです。若者をひとつにすることは紛争に歯止めをかけ、民族の垣根を越えた交流や民族にとらわれない若者のネットワークを通した社会資本を構築することに大きな影響を与えます。
NGO・Helping Handsは、日本・南スーダンの友好国間における技術協力での資金援助を受け、そのプログラムディレクターである私は、この歴史的なイベントで、平和活動のファシリテーションを行いました。Helping Handsが働きかける平和活動の概念は、参加者に平和構築の基本的な知識を身に着けてもらい、彼ら自身の様々な地域社会において、変化をもたらす主体になってもらうことです。この理念は、地域における平和促進や期待されるプロジェクトの影響の拡大に関して、プロジェクトの持続可能性を確保するものです。
私は南スーダン共和国で長いあいだ平和活動家として独力で平和活動に携わってきましたが、JICA関西で実施された課題別研修「紛争解決と共生社会づくりのための実践的参加型コミュニティ開発手法」コースに参加し、崩壊状態に陥った社会において和解や平和的共存の構築に関する幅広い知識や手法を学ぶことで、平和促進におけるさらに高いところへ導いてくれました。
Helping Hands が実施する平和構築活動では、1)和解と平和構築、2)ジェンダー、の二つの主要テーマにおける若者のキャパシティを体系的に育成することができます。JICA研修では、研修テーマにおける研修員の理解をさらに幅広くするために実践的な演習やディスカッションが用いられています。実践的な手法を学んだ研修員は、その手法をコミュニティレベルで活用し、和解や平和、ジェンダーの平等を促進するために、行動変化キャンペーンの推進力となり、それぞれの地域社会で変化をもたらす主体になることが期待されています。
サッカー 決勝戦!
“National Unity Day”が成功裏に終わったことで、すべての民族が力を合わせれば、問題を抱える国でも平和を構築することができるという希望が膨らみ、このプロジェクトを通して、自分の国が最も高いところに突き進むことを待ち望んでいる多くの若者は愛国の誇りに気づきました。勝利チームRumbekの熱狂的なファンである Majok Amach kuocniin は「優勝杯はチームとしてのRumbekのものではなく、これは南スーダン全国民、特に若者の勝利である」と述べています。トーナメントで見られたフェアプレイは、若者が民族や政治的結びつきを超えて立ち上がり、国中に再び誇りを取り戻すことができることを示しています。勝利は、私たち平和を愛するみんなのもの。決勝でRumbekに負けたチームAwielのファンであるMakur Long Acholは、負けを認め、こう言いました。
「Rumbekに負けた悔しさは感じません。私たち全員が勝者だから。私たちは「結束」を勝ち取りました。私たちが今目指すものは持続可能な平和です。」
昨年末に掲載されたマイヤンさんの記事「思いがけない出会い」が縁で、彼の帰国後の活動についての報告が届きました。南スーダンで、このような平和への基礎づくりへの明るいイベントがJICA支援の下に開催されたことを、日本の方にも読んでいただければ幸いです。サッカー準優勝チームのファンのコメントは、スポーツならではのもので、民族を超えたフェアプレイこそがこのイベントの大きな成果です。JICA研修に参加し平和への熱意を新たにしたマイヤンさんとJICAがこのような関係を続けることができ、とても心強く感じます。
JICA関西 研修監理課 西大條 希