役職名:日系社会シニア・ボランティア
名前(ふりがな):與浦幸二(ようら こうじ)
派遣国:ブラジル
派遣期間:2016年6月から2018年6月まで(2017年8月現在派遣中)
ブラジルで日系社会シニア・ボランティアとして活動している與浦幸二さん。中日ドラゴンズで投手を務めた経験を持つ與浦さん(現役時代は高橋幸二)は、JICAボランティアとして初めて、元プロ野球選手の野球隊員として派遣されています。
2011年3月11日に発生した東日本大震災です。私は岩手県釜石市の出身で、地元の子どもたちがキャッチボールする姿を目にしました。
子どもたちの笑顔は「宝物」だな、そう感じたのです。自分にも何かできないか、そう考えていたところ、JICAのシニアボランティアで野球の職種を見つけました。子どもたちの笑顔が宝物なのであれば、海外の子どもたちに目を向けてみてもいいのではと思ったのです。
日本からアメリカを経由してブラジルのサンパウロに着きました。住んでいるマリリア市は、サンパウロからプロペラ機で1時間ぐらいかかります。ヨーロッパを経由してくる経路もありますが、どちらにしても日本からは40時間ぐらいかかると思います。気候は冬でも10度ぐらいですが、昼間は25度ぐらいまで上がります。日本より寒暖の差が激しいです。
生活の中で大変なのは水。シャワーを浴びるにしても塩素がきつく、プールに入った後のように感じます。飲料水の調達にも気を遣っています。食事はシュハスコという肉の塊を焼いて薄切りにしたものや、フェジョアーダといって豆とホルモンを煮込んだような料理が現地の定番です。日系コミュニティで生活しているので、現地で日本食も手にいれることができますが、なかなか日本と同じクオリティのものはありません。日々工夫ですね。
マリリアは20万人程度の町で、ブラジルの中では小さいほうです。その中で6万人位が日系人。日系社会で活動しているといっても世代が変わってきていて、あまり日本語は通じません。全ての内容が日本語で書かれている新聞も1つだけありますが、日々の生活では大変ながらもポルトガル語を使っています。
サンパウロ州マリリア市にある、マリリア日系クラブに配属され、野球の指導をしています。活動を開始した1年前は約180名であったクラブ在籍者数は、現在約220名に増加しました。そのうち日系人が6割ぐらいです。クラブの指導方法としては30年前位のものになっている印象を受けました。キューバのプレイヤーが監督をしているので、キューバ式の叩き上げ型「ベースボール」と、日本式のきめ細やかな積み上げ型「野球」の差が激しく、当初は意思疎通が大変でしたが、少しずつ歩み寄れるようになって進められています。普段は曜日ごとに年齢でチームを分けて練習しています。
夜まで保護者が働いている家庭もある中、学校が終わった後、子どもたちが野球クラブに参加することが、薬物や犯罪への抑止力になっています。クラブに来ている子どもの保護者と話した際、「もしこの子が野球をしていなかったら、薬物中毒になっていたかもしれない。この子の友達はギャングになってしまった。」と聞き、衝撃を受けました。日本では身体を動かしたりチームワークを伸ばしたりする役割が一般的ですが、ここでは、家族以外の大人が子どもに関わってあげられることで保護者も安心して預けられ、子どもの居場所づくりという役割を大きく感じています。その側面から州と市から予算がついて、小学生向けの野球プロジェクトが始まったところです。
派遣前の表敬訪問の際、現地の道具の話になっていました。現地に行ってみると、戦後直後の物を使っていたり、ボールも中の芯だけが残ったものにビニールテープを巻いていたりしました。投げる・打つ・走るはできても、安全な道具を使わないと怪我に繋がるなと思いました。野球用品を買おうと思っても国内ではほとんど売っていませんし、関税があるので外国で調達しても少ししか持って入れません。その状況を泉佐野市へ報告し、野球道具の寄付を依頼しました。
ブラジルは関税が高額なのですが、中古の物品ということで、いくらの税がかかるのか誰も予想ができませんでした。日本から野球用品を送ってもらう取組みは過去に他のコミュニティでも行われましたが、関税がネックで、実際送ってもらうところまで辿り着いたことはありませんでした。日本からの寄付物品ということで、日系社会のネットワークを活かし、国会議員に声かけをするなど、ブラジル国内でも受け取るための様々な努力をしました。また、泉佐野市からは千代松市長が一筆書いてくださり、書簡の中で、郵送物の意味をしっかり表してくださいました。
結果は、免税。「ブラジルでは有り得ない!」と現地の方が言っていました。免税で受け取れるとわかった時は、関係者が握手とハグで大喜びしました。また、届いた荷物の量にも驚きました。泉佐野市教育委員会が進んで協力してくださり、市内の公立学校の体育用具を中心として、バット約150本、ボール約150球、グローブ約90個、ベース類約20枚、キャッチャー用具7セットが届けられました。
送っていただいた野球用品のおかげで、非常に効率よく活動ができるようになりました。練習を終えるときに、ボールをはじめとした物の数を数え、足りなかったら探すということを進めています。徐々に、物を大事にするということや、声を出す野球など、できなかったことができるようになったと実感しました。
現地では、前例のない免税での野球道具提供を受け、野球用具の提供や輸送をはじめ、協力してくださった多くの方に対して感謝の声がたくさん寄せられています。小学生向けのプロジェクトが始まったとても良いタイミングで提供いただいたので、マリリア以外でも野球道具の共有ができればと話し合っています。今回は一時帰国に合わせて泉佐野市を表敬訪問し、千代松市長と教育委員会に感謝状と来年に開催されるマリリア移民110周年記念式典への招待状をお渡ししました。
クラブには、2020年の東京オリンピックに行きたい!という子どもたちがいます。まず、声に出して「行きたい!」と言えることが良いところだと感じています。マリリアのクラブには野球8チーム、ソフトボール7チームの合計15チームあり、最近の大会では14チームが優勝、1チームが準優勝という結果が出てきています。また、赴任してからブラジルで5名がマイナーリーグと契約をしました。実はそのうち3名がマリリア出身で、赴任直後でしたがトライアウトに対しての指導やフォローをしました。子どもたちの夢が少しでも前に進むよう、自身の野球経験を最大限に活かしたいと思います!