日本の教科書を世界へ!関西企業の挑戦

岡村俊紀さん

「啓林館の教科書」- 皆さん、学校で一度は手にしたことがありませんか?大阪に本社を置く株式会社新興出版社啓林館はJICAの中小企業海外展開支援制度を活用し、途上国の教育の質の向上に取り組んでいます。
今回は、当事業に携わるコンテンツクリエーション事業部部長の岡村俊紀さんにお話を伺いました。

剣道がすべてのはじまり

学生時代は剣道に打ち込んでいて、海外とは縁の無い生活をしていました。当時、お世話になっていた先生がブラジルやフランスへ渡り、剣道の普及活動を行っている姿を見て、「将来は日本の良さを海外へ発信したい」と漠然と憧れを抱いていました。そして、大学で物理学を学び、高校の物理の教科書の編集がしたいと啓林館に入社しました。

海外への挑戦

海外事業や国際協力の想いなど、様々なお話をしていただきました

数年前、初めてJICAの事業にコンサルタントという形で協力する機会がありました。そこからご縁があり、ケニアの初等教育改善のプロジェクトや研修事業への協力、青年海外協力隊の国内訓練所とJICA在外事務所への教科書の寄付など、様々な形でJICA事業に関わりました。その積み重ねがあり、今度はビジネスとして途上国に携わろう、という流れになりました。
事業のはじまりは、NPO法人e-educationからの提案でした。JICAが中小企業の海外展開を支援しているということを聞き、事業の海外展開を少しずつ検討するようになりました。しかしJICAのイメージから「慈善的な事業」でないとダメなのではないかと先入観があったり、「教材がビジネスに繋がるのか」と疑問視されたりと、船出までには時間がかかりました。そして、まずは事業に関する理解を深めようと、JICAが開催するセミナーやイベントへ参加をし、事業化に向けた相談をすることで海外事業が少しずつ現実味を帯びてきました。

いざ、途上国へ!

最初に海外展開の候補として挙がった国はバングラデシュでした。バングラデシュは受験産業が盛んでしたので、単語帳などの英語学習教材を売れないかビジネスチャンスを探ることにしました。そこで展示会やカンファレンスでのプレゼンを通して、製品を紹介しました。しかし、現地での学習方法および教科書が、長文の中から単語を覚える、というスタイルであったため、単語帳などの英語学習教材の市場可能性が無く、別の事業および対象国を検討することになりました。

フィリピンとの出会い

現地の先生とスマートレクチャーの現地語版の制作中

そして、出会ったのがフィリピンでした。知人から、 フィリピン・ミンダナオ島への渡航を勧められました。フィリピンは教育に課題があり、国際的な数学のテストにおける学力は2003年時点で45ヶ国中41位と、良くありませんでした。特にミンダナオ地域の教育課題は深刻で、高校卒業時に実施される学力診断テストでは、全国達成目標スコアを30%以上も下回っていました。
実際にフィリピンに渡航し、ミンダナオ島・カガヤンデオロ市の教育現場を訪問したところ、能力がある子ども達とやる気のある教員にお会いしました。彼らの真面目な姿を見て、「啓林館の教材で彼らの力を伸ばすことが出来ないか」と考えるようになりました。フィリピンの調査をする中で、「スマートレクチャー(※)」がフィリピンの教育現場に合っているのではないか、と思いました。フィリピンの高校では、子どものスマートフォン保有率が非常に高く、また、デジタル機器を使用した勉強方法が日常的に浸透していたからです。数学のレベルが低い点や、現地の教科書に解説が無い点などの課題もあり、啓林館の教科書がフィリピンの教育現場が抱える課題を改善できるかもしれないと思いました。

※スマートレクチャーとは
同社が発行する高校生用教科書に、「手書き」と「音声」による解説を加えたデジタル教科書ガイド。パソコンやスマートフォンなどから使用することが可能。

失敗から学ぶビジネス

フィリピンの新聞で活動の様子が特集されたそうです

当初「教員の質の向上プロジェクト」と銘打ち、教員をターゲットにしたプロジェクトを実施しようと考えていました。海外の先生から日本の指導書は素晴らしい、と評価いただいていましたが、他方面 から「それは商売になるのですか?」とご指摘がありました。JICAの中小企業海外展開支援制度に応募したものの、結果、残念ながら採択に至りませんでした。
それまではボランタリーの意識が強かったですが、この失敗があり、ビジネスとして成り立つのか、プロジェクトを突き詰めて議論し、持続可能性を考えるようになりました。そして、現地で本格的に調査をするために再度JICAの中小企業海外支援制度に応募し、ついに採択に至りました。
事業開始後、現地校でスマートレクチャーを試験導入したところ、テストの平均点が40点以上も上昇し、教師、生徒、保護者から高い評価をいただきました。具体的な活用や購入に向けて検討したいとのうれしいコメントもあり、私自身、この成績の上昇と現地の反応にビックリしました。

一人の人生を変えた瞬間

ポストテスト終了後の記念撮影

フィリピンで事業を実施しているパイロット校にいた女子生徒の話です。彼女は図形が苦手で、今までの数学のテストでは悪戦苦闘していました。しかし、今回試験導入したスマートレクチャーで勉強したことで、苦手だった図形問題も解けるようになり、成績が大幅に伸びました。保護者が喜んでいたことはもちろん、何より彼女自身が勉強の楽しさを学べたことに感銘を受けました。「将来は数学の先生か数学を活用できる仕事に就きたい」と言ってもらえたとき、本当に感動したことを覚えています。彼女のように、誰かの人生を良くすることが仕事へのモチベーションになっています。

成功に欠かせないモノ

カガヤンデオロ市教育局と事業実施に向けた覚書を締結

それは「人と人の繋がり」です。日本でお会いした方々、活動した方々から提案やアドバイスがあり、現在取り組んでいる事業が実現しました。現地で活動するうえでも、人と人の繋がり、つまり「信頼関係」が無いと活動が上手くいかないと思いました。
私は「現地の方々が一緒に働きたいと思ってくれるような人」になることを目標としています。フィリピンの方はホスピタリティが高いですし、今後も一緒に仕事を続けたいと考えています。

教科書から国際協力へ

途上国での調査を実施して感じたことですが、勉強の基礎レベルでつまずいている子どもたちが多いと思いました。今後、継続の可能性があれば、フィリピンの各地域および州での事業展開を検討しています。そのためにもまずは、現在取り組んでいる事業を会社として成功させ、海外事業の礎を固めたいと考えています。このようなプロジェクトは個人で完結させることはできないので、人とのつながりを大切にして、毎日の仕事に励みたいですね。目標は日本の理数科教育を通して、世界に貢献することです。

編集後記

プロジェクトに携わったことで、今ではご家族でフィリピンに旅行するほど、フィリピンのことが好きになったという岡村さん。
インタビューを通して、岡村さんの国際協力への熱意がひしひしと伝わってきました。

JICAでは、企業の皆様の海外展開を支援しています。ご関心をお持ちの企業様は、どうぞお気軽にご相談ください。

(企業連携課 インターン 改田孝一)