2017年11月20日
中庭社長
「災害時に世界から頼りにされる企業になる」- トレードマークの豪快な笑顔と力強いまなざしでそう語られたのは、クモノスコーポレーション株式会社の中庭和秀社長です。
大阪府箕面市で誕生したこの企業は今、世界中のインフラを守るべく、世界初「ひび割れ計測システム“KUMONOS”」を携えて海外展開を進めています。
今回は、会社創業からJICA中小企業海外展開支援制度への応募の経緯、そして今後の挑戦について中庭社長に伺いました。
以前は別の測量会社を経営しておりました。しかし、阪神淡路大震災(1995年)が関西を襲った時に、「災害復興や防災・維持管理といった“守る”測量技術に特化した企業を作ろう」と決意し、前の会社は別の方に譲り、その年に「関西工事測量株式会社」(現:クモノスコーポレーション株式会社)を起業しました。
ある時、お客様から「ひび割れは計測できないか?」と聞かれ、私の発明心に火がつきました。試行錯誤のうえ、測量機であるトータルステーションを用いた、安全で正確に、離れた場所からでもひび割れを計測できるシステム“KUMONOS”を開発しました。今では、当社を代表する製品となり、現在の社名にもなりました。
沢山の資料をお見せいただきながらお話して下さいました
「中庭さん、この仕事は断れない仕事です」と突然電話が掛かってきたのは、2004年の新潟中越沖地震の時です。短期間の工期でトンネル復旧事業を担った大手ゼネコンから、崩落したトンネルの測量を1日で仕上げてほしいと連絡を受け、夜通しの測量を終え、悩んだ挙句、強気の金額で請求書を提出したところ、「なんだ、この請求書は!」と言われました。高すぎて怒られてしまった!と思ったのですが、「この仕事は、この金額の10倍の価値がある仕事ですよ」と言われ、仕事は1日いくらかでするものではなく、“価値”でやるものだ、と気づかされました。ちなみに、「では、ゼロを1つ書き足します」と言ったのですが、「いや、この請求書はこのまま受け取っておきます」と懐にしまわれてしまいました。“価値ある利益を追求する”。これは今の経営理念になっています。
その後の東日本大震災、熊本地震の時も、当社は被災状況を計測することで復興支援のお手伝いをさせていただきました。災害があったらすぐに現場へ向かうことができるフットワークの軽さが、当社の強みですね。
海外展開を視野に入れたきっかけは、経営の行き詰まりです。“KUMONOS”を開発したにも関わらず、売り上げが伸びず悩んでいた時、ある先生に「海外で認められれば、日本でも評価されるはずだ」と言われ、海外進出を決意しました。しかし、当時の会社には英語を話せる人材もいなければ、海外とのコネクションもありませんでした。まずは需要があるのかを調べるため、ドイツの展示会に出展したところ、“KUMONOS”は大変好評で、世界に通じる技術だったのだと確信しました。しかし、いざ海外展開をしようにもお金はありません。そこで2012年にマレーシアでのJICA中小企業海外展開支援事業に応募しました。そして幸運にも採択されたのです。
JICA事業の採択は、当社のターニングポイントの1つでした。次第に国内でも海外でも売れていき、お陰様で売上は6期連続20%超増です。また、「JICAの事業に応募する」と報告した時、社員の方から「自分に担当させて下さい!」と声が上がりました。とても嬉しかったですね。その若手社員も今では東京支社を任せるまでに成長してくれました。
後日、タイでのセミナー風景の写真をご提供いただけました。
マレーシアでのJICA事業が完了した後、次に進出国に選んだのはタイです。タイでは建設事業に予算が割かれ、メンテナンスは軽視されていました。しかし、担当者間では、維持管理が必要だと囁かれており、予算管理をしている上層部にはその声が届かず、歯がゆい思いをしていることを知りました。そこで、点検時のコストを削減できる技術でもある“KUMONOS”を活用できるのではと思い、再びJICA事業に応募しました。2015年に採択され、2017年11月7日には事業の一環として、在タイ日本大使館で「インフラ構造物維持管理セミナー」を行いました。今後老朽化したインフラ構造物の増加が見込まれるタイで、技術者レベルだけでなく、計画・予算に決定権のある人物に維持管理の大切さを伝えることができました。
ネパールからの感謝状
次にJICA事業の応募を考えている国は、ネパールです。現在、経済産業省の補助金事業「飛びだせJapan!」にて、バックパック型の3次元計測器を用いたパイロット計測を実施しています。このバックパック型の3次元計測器は、背負って歩くだけで周囲の建物や道路、樹木等全ての現況を3次元データとして取得することができます。ネパールは、2015年の大地震からの復興がなかなか進んでおらず、崩れかけた歴史的建造物もまだ補修されずに放置されています。本事業では、歴史的建造物の現況を計測し、その後の補修設計のための図面作成に使用される予定です。既に第1回パイロット計測は終了し、そのときに計測したネパールの由緒ある大学の総長から感謝状をいただきました。
社内で実施する英語勉強会
海外展開のためには、社内の語学力向上が必須でした。現在の語学力を基にクラス分けをし、英語の勉強会を社内で実施しています。今後海外出張が考えられる技術者が集められたチームは、フライトの変更等のトラブルに対応できること、最後は現地のBarで出会った隣の方に一杯おごることができるようになることを目標としました。もう一方は、すでに業務で英語を使用している社員を集めたチームで、こちらはビジネス英語に重きを置いており、最終的に会社の技術を英語でプレゼンテーションできるようになることが目標でした。事前・事後でTOEICの試験を受けてもらうのですが、それはもうメキメキとスコアを上げています。若手社員もどんどん海外で活躍してくれるようになりました。
海外進出にあたり、外国人社員も増やしましたよ。最初は商工会議所からロシア語と英語が堪能なベラルーシ人を紹介してもらい、その後に中国人、ネパール人などが入ってきて会社が一気にグローバルになりました。また、マレーシアでのODA案件化調査時に知り合った、マレーシア日本国際工科院の学生インターンシップを毎年2名受け入れています。2014年から受入れを開始し、今年で4年目になりますが、今後も続けていきたいと思っています。20年続ければマレーシア人の知人が40人になります。マレーシアにこれだけ知人がいるということは、当社がマレーシアへ進出する際の現地での足掛かりにもなりますし、心強い味方になってくれると信じています。
離職率を下げることが目下の目標でした。仕事に不満があったり、人間関係で悩んでいたりすると会社に行きたくなくなりますよね。そこで、「個人PRシート」を作り、社員の希望の業務や不満の声を拾うようにしました。例えばある社員が、希望の勤務地欄の大阪に◎、他の拠点に全て×を書いていたら、その社員は大阪以外の支店へ転勤させないようにします。また、PRシートの最後には「会社のいいところ」を書き出してもらったのですが、全社員分集めてみると今年はなんと2341個もありました。結果は大成功。集計したものを見ると、社員も私も少し嫌なことがあっても「なんだ、うちはいい会社だな」って思えるんですよ。離職率は下がり、辞める社員もほとんどいなくなりました。まずは、辞める気にさせないことが大事ですね。
保育園に一輪車を寄贈。地域貢献も大事なミッションです。
今計測したいと思っているのが、2025年万博の誘致活動をしている大阪です。万博の舞台である夢洲の地上と水中を測り、両データを合わせた3次元データを使用することで、万博のプロモーションに貢献できるのではないかと思っています。
また、平時にデータを取り溜めておくことは、防災にも繋がりますし、有事の時にもすぐにお役に立てるでしょう。災害が起きた時に、「測ってほしい」と国やJICAから声を掛けられる存在になりたいですね。そのためには、みなさまのニーズに101パーセントで応えられるような会社へと成長し続けていこうと思います。
「人ができないことをする。皆ができることは当然する」という言葉がコンセプトのクモノスコーポレーションはその言葉通り、これまでも誰もやったことがない、全く新しいモノを世の中に提供してきました。「この方だから社員はついていくのだろう」と感じさせる中庭社長のお人柄とリーダーシップが、これからも“KUMONOS”を世界へ拡げていくのだと思います。
JICAでは、企業の皆様の海外展開をサポートしています。少しでもご関心をお持ちいただけましたら、お気軽にご連絡くださいませ。
(企業連携課 中井光佐)