お花を通じてビジネスと国際協力を両立させる ~一部の人のみが行う国際協力の時代は終わった~(株式会社 姫路生花卸売市場 鍛冶英樹さん)

【写真】鍛冶 英樹(かじ ひでき)さん戦略事業部 課長
鍛冶 英樹(かじ ひでき)さん

あなたが手にしているそのお花は姫路生花卸売市場で購入され、運ばれたものかもしれません。そのお花を通じて国際協力とビジネスを両立させている株式会社姫路生花卸売市場で働く鍛冶さんにJICA関西に来ていただきインタビューしました。

姫路生花卸売市場は「花卉※を取り扱う卸売会社として、生産者・小売店業界にはもちろんエンドユーザーの皆様に、正確で豊富な情報を発信し、社会のために、お客様のために、生活と環境に潤いの花を提供する」という経営理念のもと、1972年に設立されました。商品を販売することにとどまらず、日常的に花をもっと身近に感じてもらうための啓発活動・情報発信・生産者とのコミュニケーションに力を注ぎ、地域から日本全国へそして今度は海外へビジネスの場を広げようとされています。

2015年度よりJICAが行う中小企業海外展開支援事業を活用し、ベトナムにて育苗及び生産の近代化による高品質花卉の産地育成案件化調査を行いました。その後2018年度3月より同スキームを新たに利用し、案件化調査で明らかとなった問題点や課題を自社が持つ技術やネットワークで解決するため、高品質花卉の産地育成を目的とした普及・実証事業を行っています。

今回のインタビューでは今やベトナムで行われている本事業において、なくてはならない存在となった鍛冶さんの学生時代やご経験なども伺い、鍛冶さんの魅力に迫っていきたいと思います。

※観賞用になるような美しい花をつける植物の総称

なぜ国際協力とは無縁だった私が・・・

「実際に現地に何度も足を運ぶことにより、徐々に現地の人々の生活改善をしたいと考えるようになりました」
 小さい頃よりお花が好きなお母様の影響で常に身近なところにお花があったことや、お花を母の日に渡したときにお母様が大変喜ばれたご経験などがあり、将来はお花にかかわるお仕事に従事したいと思われたそうです。そんな鍛冶さんの学生時代はというと、海外とは無縁の生活を送り国際協力という単語は聞いたことがあっても、あまり関心がなかったとのことでした。姫路生花卸売市場に入社後、お花の輸入に関する視察のためマレーシアやシンガポールなど海外にも訪れましたが、ビジネスといった視点のみで物事を観察し、現地の人がどのような生活をしているかは当初あまり気になさらなかったそうです。
 ある日JICAが行う企業向けのセミナーに社長と参加し、そこでJICAと出会います。その後JICAとのコンサルテーションを重ね、案件化調査の事業が採択され、鍛冶さん自身がベトナムに行く機会が増えました。何度も実際に訪れることで徐々に意識が変わりました。それまではビジネスの視点、日本からベトナムを見ることしかなかったのが、現地の人々はどのような生活をしているのだろうかといったことやベトナムから日本はどのように見えるのかといったように視点が変わりました。それからは、いかにして現地の人が持続的にビジネスに取組み、生活改善にまでつなげられるかについて考えるようになりました。それ以降ベトナムでの本事業が業務の中心となっています。

待ち受ける困難!!そこで大切にしたもの

日本人の指導者の方が現地の農家の方に技術を指導している様子

持続的な人材育成を目的とした拠点の開所時写真

「私は日本人であるという意識が最も大きな阻害要因になり、その意識を改めることで状況は大きく変わりました」
 事業が始まり、高品質の花卉を生産するためにベトナム人を育成しようと意気込み、現地に行きましたが、現地で働く上で困難にぶつかります。共に働く現地の人々の動機付けがなかなかできませんでした。ベトナム人の国民性からか「また明日があるから」といって物事を後回しにする傾向があったり、すぐに成果が目に見えてこないものに対してはあまり乗り気にならないといったことがありました。こういうことが重なり、事業が思ったように前に進まない状況に陥りました。
 しかし、それにもめげず、鍛冶さんは困難解決に取組み続けました。そこで大切にされたことを二つ挙げてくださいました。一つ目は日本人とベトナム人は違うといった先入観を捨てること。二つ目は日本人が何かをしてあげるといった姿勢ではなく、ベトナム人を対等なパートナーとして認め、彼ら自身に考えさせ、彼らだけではできないことを支援するといった姿勢で活動することです。そうでなければ彼らが持続的に花卉生産能力を高め、生活改善にまでは結び付かないと考えたからです。また、成果がすぐに見えないと動機が下がる傾向があることに対しては、お花の性質上すぐに目に見える成果を実感できるようになるといったことは難しいのですが、肥料に工夫を加え次の成長過程で変化が目に見えるよう工夫もしました。これにより、ベトナム人も次第に前のめりに事業に取組み始め、それを見た日本人の指導者も意識が高まり、事業全体として士気があがりました。今となってはこういった困難は良い思い出となり、少しずつ見えてくる成果に共に心を躍らせることも増え、この事業が楽しくて仕方がないという状態だそうです。

日本をそして世界を良くしようとする熱い思い

現地の方が培養の為の練習を実践している様子

「ベトナム人の方が主体的に考え、彼らの生活が持続的に豊かになることが最も重要で、そのお手伝いができればよい」
 本事業を通して自分たちで考え、主体的に生産技術を学び、その技術を用いて生活を豊かに改善できる人材をベトナムで育成することを目標としています。そこでは、技術のみを教えるのではなく、日本人の良さ、例えば気配りや清潔感(ごみを指定のところに捨てるといったことなど)も同時に教えるよう心がけているそうです。しかし、より多くの人々が持続的な生活改善を実現するためには現地で人材を育成するだけでは十分ではないとおっしゃっていました。現在、日本国として途上国の人々を受け入れ、花卉を含む日本の最先端の農業技術を学ぶ人材育成制度もありますが、帰国後に雇用の場が無いといった問題が起こっていました。これではいつまでたっても現地に新しい技術は根付かず、発展していくことは期待できません。彼らが学んだ技術を生かして帰国後仕事に就ける仕組みづくりを行い、彼らと一緒に新たなビジネスを展開する道を模索したいと強くおっしゃっていました。
 「姫路生花卸売市場は市場であるため、特別な技術や機材があるわけではないけれど、本事業を実施するにあたり協力してくださる農家の方々や販売店等、たくさんの関係者とのネットワークを持っていることが強みだ」とおっしゃる鍛冶さん。もともと花が好きで姫路生花卸売市場にご就職された鍛冶さんは花ビジネスに関わる方々とのネットワークが求心力となり、さらにそのネットワークをベトナムにも広げていこうとされています。花は人々を喜ばせ、幸せにする力を持っていることを知っている鍛冶さんの花への思いがその原動力となっているのだと感じました。

編集後記

 私自身、企業は利益追求が主目的であり、CSRなどの社会貢献は二の次に行われるものだと考え、利益と社会貢献の割合は9対1ぐらいだと思っていました。また、利益追求と社会貢献は矛盾するものであり、同時に実現することなど不可能であると思い込んでいました。しかし、鍛冶さんのお話の中で企業の利益を最優先にしたり、企業の意向を押し付けるのではなく、まずは相手がどのようにしたいかを聞き、それを踏まえて支援することが重要であり、それが持続的なビジネスの発展及び彼らの生活改善につながるとのご意見を聞き、利益追求と社会貢献が両立可能であるということを学ばせていただきました。
 ビジネスを通じて利益のみではなく、同時に国際協力も行う姫路生花卸売市場さんのような企業が増えることできっと社会は大きく変わると信じています。この度はインタビューに快くご協力いただきました鍛冶さん、誠にありがとうございました。

JICAコラボデスク(大阪市)やJICA関西(神戸)にて、企業の皆様の海外進出や事業の疑問にお答えしています。ぜひお気軽にお問い合わせいただければと思います。

(企業連携課 インターン 西川 智貴)