~近江商人の哲学から学ぶ~
役職名:ナイジェリア ラゴス商工会議所
名前:Mr. Okoroafor Eze Kingsley (オコロアフォ エゼ キングスレー)
研修コース名:中小企業振興のための経営強化・金融支援
研修期間:2018年8月27日から 9月29日まで
エゼさんは、昨年秋に「中小企業振興のための経営強化・金融支援」研修に参加し、帰国後は母国ナイジェリアのラゴス商工会議所で中小企業振興のために精力的に活動しています。エゼさんからの活動報告です。
私は、ラゴス商工会議所の中小企業会員関係担当のオコロアフォ エゼ キングスレーです。私は常日頃から担当地域の中小企業の状況を改善したいという情熱を持っています。これまで中小企業を対象とした政府や民間セクターの一連の支援事業に従事してきました。特にナイジェリア中央銀行の中小企業への融資や企業経営の専門家を推薦する等の事業です。中小企業は国を問わず経済の重要な構成要素であり、もちろんナイジェリアにおいても経済のエンジンといわれています。ナイジェリアには3,500万以上の中小企業(零細企業含む)があり、国のGDP(国内総生産)の一翼を担っています。
私はJICAの研修プログラム通じて、自然資源の乏しい日本がその国民の性格と強い決意によって世界の先進国に発展できたということを知りました。このプログラムに参加できたことを感謝しています。日本では、民間セクターは政府機関に対して強い信頼を持っており、産・官・学が協力して人々のより良い暮らしのために責任を分かちあうという高い意識があることを理解しました。この健全な関係が、国の発展のために全員が積極的に参加するという信頼構築の道筋を創るのです。
ナイジェリアにおいて、特に中小企業が必要な金融サービスを利用できる環境整備や人材の能力開発においてやるべきことが多いと論じるまでもありません。日本での研修プログラムでは、将来の大きな展望を心に留めておきつつもスタートスモール(まず小規模に展開し、順次規模を拡大していく)で始めることを学びました。私がナイジェリアの中小企業に関するすべての問題に対処できるわけではないことはあきらかですが、信用保証制度の創設については提唱できるという強い信念を持っています。それに向けて、私たちは中小企業と金融機関双方の金融サービス及び貸出制限の問題に取り組んでいくつもりです。
ラゴス国際見本市(2018年11月)で日本パビリオンでの学生たちへの説明場面
JICA同窓会メンバーとの記念写真
帰国後の昨年2018年11月に、ラゴス国際見本市がラゴス商工会議所主催で開催されました。この見本市はサハラ砂漠以南の西アフリ地域で最大のものです。昨年は日本、中国をはじめ16か国から200団体以上の出展があり、国内からも500以上の企業が出展し、国の内外から50万人以上の入場者数を記録しました。
この見本市で、日本の展示館で中小企業への金融及び経営支援のついての発表の機会を与えられたことは私にとって大きな名誉でした。日本の中小企業支援の枠組みに高い関心を持つ入場者や学生の前で、日本の中小企業支援について熱弁しました。会場の雰囲気は素晴らしいものでした。多くの日本企業からの出展者も観衆に含まれていました。
私は、ここぞとばかりに日本での研修で得た学びの一つである「近江商人の哲学(三方よし)」*1について語りました。聴衆には近江商人について学ぶよう勧めました。近江商人のこの経営哲学の精神は、誠実さと、売り手と買い手双方が利益を得るwin-win関係を強調し、品質の確保と管理を重要とする価値観を示しています。近江商人は中世から19世紀まで活躍し、その時代の日本において最も成功した商人であり、繁栄を享受するのみならず、人々に尊敬されていました。彼らが強く信じていたことは売り手・買い手・地域社会が満足することであり、そのために扱う商品は売り手・買い手に加えてその地域も満足させるものでなくてはならないとしています。日本における企業の社会的責任の概念はこの近江商人の活動に起源をたどることができます。この精神は、誰もが繁栄して幸福になり7代後の未来までもその繁栄が受け継がれる環境を提供するというものです。
私は聴衆に対して、批判的思考力を発展し、積極的に課題に取り組むよう勧めました。学生たちには、グローバリゼーションの結果として国境を越える機会と競争がますます増加していくことを理解し、怠けず勤勉であれと強く促しました。
ラゴス商工会議所幹部に対するアクションプランの説明風景
日本での経験は私の知識の基盤を活性化してくれました。私の抱いていた課題はハイリスクといわれる中小企業と脆弱な金融機関のギャップを埋めるのにどのような仕掛けが必要かということでした。日本において信用保証制度が運用されていることを知り、この課題についての解決への光が見えてきました。帰国以来、私はこの使命の実現に向けて、ラゴス商工会議所の承認を得るべく精力的に働いてきました。その結果、今年の2月に商工会議所の幹部を前に「中小企業のインフォーマルセクターからフォーマルセクター(きちんと納税し政府の支援も享受できる公式経済部門)への移行を促進するための信用保証制度創設の提唱」と銘打
った私のアクションプラン*2について発表し、幹部からの賛同を得ることができました。
そして、次の段階として、10月に予定されている商工会議所関係者フォ
ーラムにおいて、このプランを提唱するための準備を開始しています。このフォーラムには国の中小企業庁、民間団体、州政府関係者、金融機関、技術者らの代表が集う予定です。
日本での研修は私の期待以上のものでした。そして日本は礼儀正しく親切な人々が住む、整然とした国でした。
私は、日本での経験で得た知識を活用して自分たちの地域をより住みやすくそして繁栄していくよう、これからも活動を続けていきます。
最後に、あたたかく手を差し伸べてくれた日本とJICAに対し感謝申し上げます。ありがとうございました。
日本の研修現場においても、彼の熱意が感じられました。実行力のあるエゼさんの情熱が実る日が早く来ることを祈ります。
(JICA関西 業務第二課 横谷)
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*1「近江商人の哲学(三方よし)」:
「売り手」よし、「買い手」よし、「世間」よしとする近江商人の商売の哲学です。「売り手の都合だけではない、買い手のことを第一に考えた商売を行い、商いを通じて地域社会への貢献」を表します。「三方よし」は多くの経営者の指針となっています。
*2 アクションプラン:
多くのJICAの研修プログラムでは、参加者は帰国までに、研修で習得した知識・技術を活用して課題を解決するために行動計画(アクションプラン)を作成します。