海外展開を目指す日本企業が増えるにつれ、グローバルに活躍できる人材の確保が課題となっています。そのような中、海外事業の担当者として青年海外協力隊経験者に注目する企業がひそかに増えてきています。協力隊経験を活かし、アフリカに関わる仕事がしたいという夢をかなえた林佐紀さんにお話を伺いました。
辻プラスチック株式会社
取締役 辻 喜勝さん、海外部主任 林 佐紀さん
タンザニアでの調査の様子
タンザニア関係者が本社工場を視察
滋賀県東近江市にある辻プラスチック株式会社は、プラスチック製品や自発光道路鋲(びょう)などを製造するメーカーです。数年前から、海外、特にアフリカ市場への展開を目指し活動しています。
2017年にJICAの中小企業海外展開支援事業「案件化調査」、2018年に中小企業・SDGsビジネス支援事業「普及・実証・ビジネス化事業」に採択され、タンザニアで自発光道路鋲による交通安全対策に取り組んでいます。現地では経済成長に伴い交通量が増加する一方、街灯が少なく夜間は真っ暗になる道路が多いため、電力が不要な同社の自発光道路鋲によって交通事故を減らすべく、現地調査や現地政府との協力を進めています。
海外事業のリーダーである辻取締役にお話を伺いました。
JICAの海外展開支援事業に採択され、アフリカ展開の準備が本格化するにつれて困ったのが「人材不足」です。海外展開は社内で賛同されるものの、一般的な日本人の感覚ではアフリカは遠い未知の国。「アフリカは怖い」「アジアなら良いが、アフリカへの出張はちょっと・・」という人が多く、アフリカ向けの営業活動や現地調査などは辻取締役がほぼ1人で対応するような状況でした。「アフリカ展開の右腕となる人材が欲しい!」と思っていたときに、知り合いの中小企業の社長から青年海外協力隊経験者の採用を勧められました。
早速、JICAの人材募集サイト「PARTNER」※に募集要項を掲載。このサイトは、青年海外協力隊経験者をはじめ途上国に関わる仕事がしたいという人たちが注目している国際キャリア総合情報サイトです。求人情報に応募条件として明記したのは、「アフリカに1人で出張できる人」であること。ハローワークからは「こんな条件では誰も来ない」と言われましたが・・・
条件にピッタリの人材が応募してきたのです。
協力隊時代の活動の様子
滋賀県出身の林さんは日本で体育の教員として働いた後、アフリカのニジェールとガボンで青年海外協力隊として現地の子どもや若者に体育を教えました。国土の多くをサハラ砂漠が占めるニジェールは「世界で最も暑い国」とも言われ、気温が50度を超えることもある地域。クーラーがなく、夜は家の外で水に濡らしたシーツにくるまって寝るような生活を送っていたそうです。
帰国後は国際協力関係の団体や商社で働いていましたが、協力隊をきっかけにめばえた「ボランティアではなく、アフリカの人たちと対等なパートナーになりたい」「自分が作った製品をアフリカに導入し、恩返ししたい」という思いを持ち続けていました。そんなときにPARTNERで見つけたのが、辻プラスチックの求人情報です。
「地元の滋賀県で、アフリカでのビジネスを目指している企業がいることに驚きました。」応募の決め手は、①中小企業であること、②ものづくりをしている企業であること、そして何より③アフリカビジネスに携われること。幅広い業務に携わることができ、何でもチャレンジできそうな雰囲気であることにも惹かれました。
1人でアフリカ出張
アフリカ人留学生と打合せ
無事辻プラスチックに採用された林さんは、入社して5か月後にはウガンダに1人で出張。その後もモザンビークやナイジェリアに出張し、アフリカでの事業に加えて、アフリカ人留学生のインターンシップ受入や、製造などにも携わり活躍されています。
林さんにお話を伺いました。
Q. 協力隊時代の経験が活かせていると思う点は?
A. どんなときでも「なんとかなる」と思える気持ちの持ち方です。ニジェールの厳しい環境で過ごすなかで、予期せぬことやトラブルがあっても「なんとかなる」と思えるようになってきました。この考え方は、海外とビジネスをするうえで役立っていると思います。
また、「アフリカが好き」という強い気持ちは、今の仕事のモチベーションになっています。
Q. 今の仕事で一番面白いと感じる部分は何ですか。
A. 応募の際はまさか自分が製造に関わることになるとは思っていなかったのですが、製品の組み立て作業を自分で行っているので、文字通り「自分で作った製品」をアフリカに持っていくことができます。自分の手で組み立てているので製品の構造にも詳しくなり、現地の人たちに説明できることにやりがいを感じます。
辻取締役も、「現地対応力が素晴らしいだけでなく、アフリカ事業展開における企画書作成などビジネススキルのバランスが良いと感じています。採用後、アフリカでの事業展開が順調に進んでおり、今後は益々アフリカ出張が多くなり、活躍を期待しています」と林さんの実力に太鼓判を押しています。
語学力だけではなく、その国に対する強い思いや、厳しい環境で培った精神力・異文化への対応力なども協力隊経験者の強みのひとつ。それに加え、日本で養ったビジネスマナーや礼儀正しさも林さんの魅力です。日本の常識が通用しないアフリカでのビジネスにおいて、林さんの経験と能力が大いに発揮されそうです。
「アフリカとパートナーになる仕事がしたい」という林さんの思いが、辻プラスチック社のアフリカビジネスでの成功につながる日は近いはずです。
※PARTNER
国際協力分野で活躍を目指す方とグローバル人材を求める団体を結び付けることを目的とし様々な情報をお届けする「国際キャリア総合情報サイト」です。