【途上国・日本の電力分野で活躍する女性を紹介】電力系統の研修から(2019年7月14日)

右:エリザベス・カバガンベ さん(ウガンダ)
ウガンダ電力送電会社 プロジェクト実施部 チーフ・エンジニア
左:五十嵐 文江(いがらし ふみえ)さん
日立三菱水力株式会社 水車部 計画グループ 専任技師(エンジニア)

研修コース名: 系統運用事業者幹部職員研修(A)
研修期間:2019年5月15日から6月8日まで

2019年5~6月にJICA関西で実施された「系統運用事業者幹部職員研修」。何やら物々しいタイトルの研修ですが、途上国の発展に不可欠な電力を安定的に届ける技術についての研修です。JICAは途上国の国づくりの中核となる人材を育成する目的で、行政官や技術者などを技術研修員として受入れています。日本は世界一停電の起こりにくい国と言える程、発電・送電・配電が効率よく安定的。災害時には停電が起こることもありますが、その復旧の速さには定評があります。今回はそんな日本の電力送電技術を、途上国の電力送電会社や電力省の幹部職員10名が学びました。

JICAは持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、Goal 5「ジェンダー平等な社会」を目指すため、女性の研修への応募を推奨し、研修員のジェンダー・バランスに配慮しています。この系統運用研修は、電力エンジニアでかつ幹部が対象ということもあり、なかなか女性の参加研修員が集まりません。日本で理工系分野に進む女性が少ない*と言われる中、途上国も現状は同じなのかと思われます。そんな中、今回の研修に参加いただいた、唯一の女性研修員、ウガンダ電力送電会社のエリザベスさん、また視察先でご講義をいただいた、日立三菱水力株式会社の五十嵐さんにお話を伺いました。

Q:エンジニアになるきっかけは何でしたか?

系統運用研修でタービンの説明をする五十嵐さん

エリザベスさん:14歳の時、村で停電がありました。電力会社の人たちが来て、私の家から200メートル程離れた電柱で修理をし、その後すぐに私の家に灯りが戻りました。「そんな離れた所からどんな魔法を使って家の停電を治したの?」と、それは当時の私には驚くべき出来事で、こんな素晴らしいことを私もできるようになりたい、電気を灯して皆の役に立ちたい、と強く感じました。電力分野への関心はそれ以降今も続いています。

五十嵐さん:子どもの頃から宇宙が大好きで、理科系の勉強が好きだったこともあり、エンジニアを目指しました。海外と関係のある仕事で、スケールの大きな物を作りたい、また環境を守るような仕事がしたいと思ったことから、水力発電にかかわる仕事に就きました。今は、タービンの計画・見積を担当しています。

Q:今までのキャリア形成で大変だったことはありますか?

ウガンダの送電設備の改良計画について発表をするエリザベスさん

エリザベスさん:私の父は測量技師、母は看護師です。私が数学や物理を専攻するため、両親は常に応援し、様々なサポートをしてくれました。女性が理系の勉強をすることが珍しいウガンダでは私はラッキーな方でした。大学の工学部では学生100人中女性15人でスタートし、そのうち卒業できた女性は3人でした。ウガンダでは男性の方が優秀で女性は勉強を続けるものではないという文化通念が根強くあり、様々なプレッシャーから勉強を諦めていく友人がたくさんいました。逆境の中でも私が勉強を続けられたのは、強い信念とそれを支えてくれる家族の力があったからだと思っています。

五十嵐さん:大学・大学院では工学部の航空宇宙工学を専攻しましたが、約45人の学生のうち、女性は私1人のみでした。入社15年目になりますが、2年前に出産し、昨年10月に職場復帰しました。近所に両親がいないこともあり、家事育児と仕事の両立が課題です。同じくエンジニアの夫と家事・育児をシェアしながら協力しあって日々乗り切っています。

Q:これから理系に進みたい女子へメッセージがあればお願いします。

他の研修員・研修関係者と共に研修修了を祝うエリザベスさん(後方右より3人目)

エリザベスさん:ウガンダでは、海外からの開発援助の一環で「ジェンダー平等」の価値観が入ってきました。おかげで今では女性も経済発展に欠かせない価値のある国民だという認識が広まっています。女子教育への意識改革やエンパワメント・奨学金等、女子が理系分野を専攻するための様々なサポートがあります。就職における女性差別をなくすための組織もあります。前副首相は女性が務めました。理系への興味は自分の中で決まるもの。それを社会通念によって曲げられてはもったいないです。ぜひ強い信念を持って理系の道へ進んでください。

五十嵐さん:企業では育児と仕事の両立をサポートする制度が充実してきています。以前よりは随分と働きやすくなってきていると思います。職場の意識も、男性だけが外で働き、女性は家事育児という価値観から、男女共に家事・育児・仕事を担うという価値観に変わりつつあるように感じています。やりたいことが決まったなら、是非それを実現させるべく頑張ってください。

変わりつつある途上国、変わりつつある日本?

JICAを含め海外からの援助組織が女子教育や女性のエンパワメントについて尽力してくれている、というエリザベスさん。その成果もあってか、学校・職場・政治の各レベルでジェンダー平等への意識が変わりつつあるのを感じるそうです。ウガンダでは女性エンジニア育成のため、理系大学受験時に女性のスコアを一律+1にする制度まであるそうです。同じアフリカで、議員の少なくとも30%は女性にするよう憲法で定められているルワンダでは、国会議員の55.7%が女性(IPU, 2019)ということはよく知られています。

政府開発援助としてジェンダー平等を目指した援助を行ってきている日本ですが、残念ながらジェンダー指数は世界144カ国中114位 (World Economic Forum, 2017)。それでも日本国内で状況は少しずつ変わりつつあるようです。今回お話を聞かせていただいたエリザベスさんと五十嵐さん。お二人の共通点はエンジニア女子ということだけではありません。お二人とも、パートナーは「お料理好き」。ここに重要なヒントがあるのかもしれません。

(業務第二課 大井佳子)

*科学技術分野の研究者全体に占める女性の割合は、14.4%(総務省統計局, 2013)