一般社団法人 コミュニティ・4・チルドレン 代表理事
桑原英文(くわはらひでふみ)
フィリピンのルソン島山岳部は、その地理的困難さから、行政サービスへのアクセスが悪い地域です。特に、しょうがい児・者に対する福祉サービスは大都市に限られ、地方の住人は社会福祉の恩恵を受けることが殆どありません。
私と現地NGOであるJPCom-CARESは、15年間に渡って、しょうがい児の早期発見と療育のため、保護者等への協力を進めてきました。そして、周囲の人々の支えのおかげで、多くのしょうがい児の家庭内自立や普通学校への就学など、社会参加を実現してきました。
近年、しょうがい者や保護者からは「一人で自立生活したい。」、「将来親が亡くなった後も、一人で自立生活ができるようになりたい。」という意見や希望をたくさん聞くようになりました。しょうがい児が将来、大人になって自分の意思で支援やサービスを選択・利用し自立生活を営むためには、家族の理解の元、家族から離れた場所で、自分たちのしょうがいを理解する仲間たちと共に自立生活を送る必要があります。
そこで、しょうがい児・者のための自立生活支援センター設立のため、JICA関西の「国際協力!次の一歩プログラム」※にて、事前調査活動を申請しました。
審査の結果採択となり、日本でしょうがい児や高齢者の地域自立支援に取組む専門家にも同行いただくことになりました。専門家には現状を視察し、保護者やスタッフ、行政や保健・福祉関係者と様々な場面で協議やレクチャーをしてもらいました。
現地のしょうがい者を取り巻く現状を見て、様々な気づきを得ました。インフラなどのハード面での不足はもちろんのこと、幼児期の学習支援の必要性を感じました。驚いたことに、子どもたちの中には、学習機会そのものが無かったために発生したと思われる知的遅滞もみられました。さらにフィリピンのような福祉サービスが少ない場所では、JPCom-CARESが提供する無料の療育サービスは、子どものよりよい将来、しいては自立につながる重要な支援であると改めて認識しました。
しょうがい者や保護者との話し合いでは、フィリピンで自立生活を実践するためのヒントを見つけました。それは、しょうがいの程度や就労機会は、人それぞれであるので、自立の理解や方法もそれぞれ異なるということです。さらに、多くのしょうがい者は家族も含めて貧困であり、しょうがい者のみへの支援ではなく経済支援や教育支援等の総合的な支援も重要であることがわかりました。
また、日本人専門家の保護者やJPCom-CARESへのレクチャーはとても有意義でした。日本人専門家が画像や映像を使いフィリピンではまだまだ知られていない日本の統合的な自立生活支援(自立生活トレーニング、学習支援、就労支援)を紹介したことから、しょうがい者が自立生活できる社会像を現地に示すことができました。
さらに、現地で試験的に実施している自立生活プログラム※を日本人専門家に見てもらい、本格的実施に向けて、「共同生活のルールや生活表を作る」など具体的なアドバイスを受けることができ、より有効なプログラムとなりました。
この調査に際し、日本人専門家は現地の保護者とJPCom-CARESのスタッフの今までの活動を高く評価しました。日本人専門家は、施設や機材の整わない中でしょうがい児を支援しているスタッフを労い、保護者を応援してくれました。このことは、予想以上に現地スタッフやしょうがい児の保護者を大変喜ばせました。今後の彼らのモチベーションにもつながったのかと思います。同時に、C4Cの代表として私は、長年フィリピンに関わり、フィリピンの人たちの発意で進めてきた取り組みが間違っていなかったことを再認識することができました。そして、フィリピン社会で、しょうがい児・者が自立生活を実現するには、学習や就労機会の拡大とそのための法制化、社会環境の改善・整備、人の意識や関わりの醸成など、クリアしなければならないことが数多くありますが、しょうがい児やその家族のニーズとペースに合わせた息長い活動を進めて行きたいと強く考えるようになりました。
※自立生活プログラム:一軒家を借りて、センターの利用者3名(18から20歳までの女性、聴覚障害、軽度知的障害、多動性アスペルガー)を対象に日常生活のスキルを習得する10日間のプログラム
子どもたちの夢が広がる地域と暮らしを目指して
1992年フィリピン障害者連合(1990年設立)の代表ビーナス・イラガン(当時)と出会いました。フィリピン障害者連合は、子どもたちへの無料療育サービスを提供している団体です。彼らのモットーは、「家族、地域の相互扶助力を重要な社会資源として位置付け、しょうがいのある人々が身体的・精神的な能力を最大限発揮し、一般のサービスや機会にアクセスして、自尊感情を高めることで、地域および社会の人々に貢献する」というもので、地域に根ざしたリハビリテーションを目指しています。
私は、彼らの活動に大いに共感し、バギオ市の1997年リハビリテーションセンター設立と療育や就学支援活動に協力してきました。2008年には、しょうがい児の保護者と支援者が中心となって、現地団体JPCom-CARESが発足され、現在では2つのリハビリテーションセンターを設立し運営しています。
一方、日本からも現地団体の取り組みを支援することが重要と考えました。そして、2011年、日本を含むアジアのしょうがい児・者を支援するNGOとして、コミュニティ・4・チルドレンを設立しました。
※「国際協力!次の一歩プログラム」とは
JICA関西は、関西の諸団体等(NPO・NGO及び任意団体、教育機関、地方自治体など)を対象に、国際協力を実際の行動へと結びつけるきっかけとなる事前調査や、国際協力の知識の普及及び理解の増進を図るセミナー等を実施できる事業スキームを提供しています。詳しくは、JICA関西市民参加協力課宛てご連絡ください。
JICA関西 市民参加協力課 草の根技術協力支援担当
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