「止める技術」 で安心安全な鉄道車両の運行を−上田ブレーキ株式会社

2017年12月22日

【画像】この記事をご覧くださっている皆さんの中には、毎日電車で出勤している方、今日すでに電車でお出かけした方、これから新幹線で出張する方、いまちょうど路面電車に揺られている方など、鉄道車両にお世話になっている方がたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

その鉄道車両を「止める」大事なブレーキ部品を製造しているのが、大阪市都島区に本社を置く上田ブレーキ株式会社です。
同社は、2017年9月より、JICA中小企業海外展開支援事業を活用し、タイ国鉄にブレーキ部品を供給するとともに品質管理能力の向上を支援することを計画中です。

今回、本社を訪問し、主力商品である鉄道車両のブレーキ部品、明治時代に始まる会社の歩みや最近の動向、そしてタイの鉄道産業の発展に寄せる想いについて、代表取締役社長の上田博之氏、常務取締役の宮地豊氏、新規事業プロジェクト主幹の松島守氏から、たくさんのお話を伺いました。

鉄道車両のブレーキ部品ってどんなもの?

写真左上は鋳鉄制輪子、右上は研摩子。
下の青い部品は合成制輪子。

見えますか?車輪の右側に付いている茶色の部品が制輪子です。

そもそも、鉄道車両のブレーキ部品とは、どんなものでしょうか?
上田ブレーキの主力商品は、大きく分けると「制輪子(ブレーキシュー)」と「研摩子」の2種類。

制輪子は、鉄道車両の車輪踏面(車輪のレールと接する面)に押し付けられることによって、そこにブレーキ力が発生し、車輪を止める働きをする装置部品です。同じ制輪子でも、天候に左右されず環境の厳しい山間部の鉄道に用いられることの多い鋳鉄制輪子に対し、軽くて長持ちする合成制輪子は都市圏の高速大量輸送用車両に用いられるなど、気候や環境によって使い分けられているそうです。

そしてもう一つの研摩子は、滑走防止を目的として新幹線などに使われる摩耗部品。長い距離を走行するうちに車輪の踏面にはゴミや錆びなどが付着するのですが、これを放置しておくと、車輪が空回りをして滑走することになります。そこで、こうした異物や汚れを取り除きながら、踏面に適度な粘着力を保つ役割を果たすのが、研摩子なのだそうです。

大きな車両のほんの小さな部品ですが、車両の安全な走行に欠かすことのできない、とても重要な役割を果たしているのですね。

創業は明治43年、ものづくりの歴史は100年以上

同社岡山工場に展示されているダイヤモンドクロッシング(2つの軌道が同一平面上で交差する場合に用いられる装置)。大正15年(1926年)から阪急電鉄西宮北口駅で使用されていた実物。専用軌道でかつ直角のものとしては日本国内で唯一。

上田ブレーキは、現在の上田社長の曽祖父にあたる上田佐一郎氏が、明治43年(1910年)に大阪市北区に創業した銑鉄鋳造業に始まります。そして、大正12年(1923年)、当時の阪神急行電鉄株式会社(現在の阪急電鉄株式会社)に採用されたことを受けて鉄道車両用の制輪子を専門的に製造する工場となり、以降、代々その技術を大切に受け継いできたそうです。
日本の鉄道産業の発展とともに歩んできた同社の歴史に重みを感じると同時に、その間もずっと鉄道車両の安全で快適な運行を追求し続けてきたものづくりの精神に、大きな感銘を受けました。

現在では、1世紀にわたって受け継がれてきた同社固有の技術を活かしながら、新しい分野の新しい事業にも挑戦中とのこと。例えば、心臓の血管を広げる治療に用いる「ステント」など高度医療デバイス用素材の研究・開発や、産学連携による航空・宇宙関連の耐熱素材の適用研究等、既存製品以外の技術開発にも取り組んでいるそうです。

上田ブレーキのタイとの出会い

タイ国鉄(SRT)のマッカサン工場の風景。日本ではなかなかお目にかかれない、貴重なSLの動輪を発見!

そんな上田ブレーキがタイと出会ったのは、今から2年半ほど前。タイで自動車部品を取り扱う日系企業から、一緒に上田ブレーキの技術を活用できないかとの打診があったのです。まずは誘いに応じてバンコクに降り立った上田社長は、タイの交通渋滞とその対処法としての鉄道計画の説明を受け、日本で入手していた情報以上にその必要性を感じたそうです。特に、タイ国鉄関係者の案内のもとアユタヤまで特急列車に試乗した際には、現状ではかなり多くの問題を含んでいるものの、沿線改良と中・高速化計画の進捗が現実のものであることを実感し、と同時に、その実現に向けた実行力とスピードにも目を見張るものがあると感じたそうです。

タイはASEAN各国の中でも鉄道車両数が多い国で、鋳鉄製の制輪子は約80%の車両に使われているとのこと。国営企業であるタイ国鉄(SRT:State Railway of Thailand)が国内の鉄道車両のメンテナンスを行っていますが、現地では入札の結果、低価格の外国製の制輪子が導入されているケースも多く、ブレーキシューやその周辺部品も決して良いものではありません。また、何より中・高速化に向けてブレーキ性能と安全性の向上が求められるほか、タイ国内での鉄道関連裾野産業の育成も欠かせません。加えて、供給されている部品の技術基準の確認方法や、それらの部品を適切に検査し評価する体制がまだ十分でないため、品質検査にかかる体制の構築と技術者の養成も急務となっています。

タイ鉄道産業の発展の一助に

今回お話を聞かせてくださった上田社長(写真中央)、宮地さん(左)、松島さん(右)。NSTDAの下部組織であるMTECにて撮影。

2015年度よりタイで独自に調査を進めてきた上田社長ですが、現地でこうした課題の解決を図りつつビジネスを展開できないかとの想いから、2017年春、JICAの中小企業海外展開支援事業(案件化調査)に応募し、見事採択に至りました。
この案件では、タイ国鉄のほか、科学技術省傘下で検査技術の開発を担う科学技術開発庁(NSTDA:National Science and Technology Development Agency)や現地大学と協力しながら、現地のニーズを調査したうえで、同社製品の優位性や現地での適合性を確認するとともに、将来的な現地生産や品質管理を見据えた体制の構築を図っていく予定です。

JICAタイ事務所でこの案件を担当する酒井勇喜所員は、「タイの公共調達では製品の評価体制が未熟なため、粗悪でも初期投資が低い製品が調達される傾向があります。今回、上田ブレーキさんはこの課題解決にも挑戦されています。良質で経済的な製品が適切に評価される体制の構築は、タイにおける鉄道関連産業の発展に大きく寄与するでしょうし、他の鉄道部品を扱う日系企業の事業展開にも貢献するはずです」と期待を寄せています。
 
まさに鉄道路線の複線化や高速化が計画されているタイ——。
今回の案件が上田ブレーキにとってビジネス展開の大きな契機になると同時に、大阪で育まれた同社の技術が、タイの鉄道車両の安心で安全な運行、そして同国における鉄道産業の発展の一助になればと願ってやみません。

(JICA関西 企業連携課 松浦鈴香)