神戸港で築き上げたクレーン技術をラオスの人材育成に~盛興業株式会社

2018年11月、ラオスの首都ビエンチャンから約40kmの場所にあるナムスアン。完成したばかりのナムスアン自動車教習学校に、ビエンチャンを中心とする全国各地から20名が集まりました。年齢層は20代から50代まで幅広く、女性も2名含まれています。6日間の日程で行われる、ラオスで初めてとなるクレーンオペレーター育成のための講習プログラムです。

2019年2月1日

日本で培った経験を海外へ

盛興業による神戸港でのクレーン作業の様子。
(写真提供:盛興業株式会社)

このプログラムを主催したのは、神戸市灘区に本社を構える盛興業株式会社。ダム・道路などのインフラや工場など建設現場でのクレーン作業のほか、プラント機器の運搬や据え付けといった一連の物流事業を担う中小企業です。1971年の創業以来、神戸港において船荷の揚げ降ろしを行う荷役業務を手がけ、その技術と品質が長年にわたって高く評価されてきました。
1995年に発生した阪神・淡路大震災では、その神戸港が壊滅的な被害を受けます。盛興業は、横転した多くのコンテナや建機、車輌を持ち上げて移動させるなど、クレーンを使っての復興作業に必死になって貢献したそうです。そして2011年の東日本大震災では、発災直後から現場で復興作業に関わっていた関西の企業から「盛興業に来て欲しい」との要請を受け、阪神・淡路大震災時の経験を活かして女川漁港の復旧作業に携わりました。その業務はトータルで2年近くにわたり、このときに築いた新たな人脈と実績が自信にもつながり、自社のノウハウを今度は海外で役立てられないかと考えるようになったといいます。

JICA事業を活用してラオスでビジネス展開を

ラオス公共事業運輸省の前で、盛満久氏(写真向かって左)と神棒信彦氏(同右)。
(写真提供:セレンディル株式会社)

そのとき、同社の取締役部長を務める盛(もり)満久氏が着目したのがラオスでした。ラオスは今後の経済発展が期待される一方で、日本や欧米といった先進国からの企業進出がまだ少なく、中小企業でも参入のハードルが低いと考えたからだそうです。
2017年12月、JICAの中小企業海外展開支援事業(現 中小企業・SDGsビジネス支援事業)の基礎調査に採択され、その後JICAとの契約締結を経て、2018年8月に調査を開始しました。
このJICA事業において盛興業を二人三脚でサポートしているのが、同じ兵庫県の芦屋市にあるセレンディル株式会社代表取締役社長の神棒(かんぼう)信彦氏。盛さんと神棒さんは、2016年度にJICA関西が開催した「中小企業×コンサルタントマッチング会」で出会いました。このマッチング会は、開発途上国へのビジネス展開を目指す中小企業と、それを専門的な見地からサポートするコンサルタント会社に出会いの場を提供することを目的とした企画です。このときのお互いの第一印象を、神棒さんは「(盛さんは)経営者にありがちな独断専行や思い込みに陥ることなく、外部専門家の話を聞いて咀嚼をする度量のある人だと感じた」、盛さんは「(神棒さんは)気さくで無理な要望にでもすぐ動いてくれそうだと思った」とそれぞれ振り返るお二人。その印象は、案件をスタートして約半年が経った今も変わっていないそうです。

ラオスには建機オペレーターがいない!?

ラオス国内ではインフラ工事が数多く行われていますが、「安心・安全」の点では必ずしも十分とはいえない状況です。
(写真提供:JICAラオス事務所)

ところで、ラオスにおけるインフラ建設現場の現状はどのようなものでしょうか。
港湾に限らず、水力発電ダムや空港といったインフラ工事、ビルの建設等に欠かせないのがクレーン作業ですが、ラオスには、現在のところクレーンを含む建機の運転技術を持つ現地オペレーターが存在しません。そこで、ベトナムやタイといった周辺諸国の企業に作業委託が行われているのですが、両国から長距離にわたり重機を運び込んだりオペレーターを傭上したりすることから、輸送の過程で事故が発生するケースもあるほか、結果的にラオスから雇用機会が流出し、建機技術が国内に蓄積されないといった課題が指摘されています。
こうした状況を踏まえ、盛興業は、ラオスにおいて今後5年程度で20名超の現地建機オペレーターを育成し、2017年11月に設立した現地法人ラオジールで採用したうえで、ラオス国内でのインフラ整備事業のクレーン作業を請け負うビジネスを展開することを検討しています。
盛興業は、港湾職業能力開発短期大学神戸校の実技教習にあたり、クレーン車を貸与し、同校講師に対して操作に関するレクチャーを行うなど、公的な職業訓練にも貢献してきた実績があります。また、オペレーターにクレーンの構造を理解させ、適切なタイミングでメンテナンスを実施させることで、安全性の高い作業を実現する技術・ノウハウも有しています。今回の基礎調査では、建機オペレーター育成プログラムのノウハウが現地に適合するのかを調査するとともに、ラオス国内での雇用の創出や公共事業の作業請負につながる可能性についても調査を行う予定であり、ラオスにおける建設業人材の育成、ひいては産業の発展に寄与することも期待されています。

ラオス初のクレーンオペレーター育成プログラム

受講生一人一人に対する実技指導。通訳も一緒に車に乗り込み、指導内容を正確かつ即時に伝達しました。
(写真提供:盛興業株式会社)

今回の6日間にわたるオペレーター育成プログラムは、「教習学校が竣工して最初の講習は、ぜひ盛興業にお願いしたい」というラオス公共事業運輸省の要請を受け、完成したばかりのナムスアン自動車教習学校の校舎と設備を活用して実施しました。受講生に実用性の高い技術を習得してもらうために、①座学による装置名称と操作方法の学習、②実技、③座学によるその他の装置名称と操作方法の学習、④実技・・・と、座学と実技を反復して実施するという工夫を凝らしました。また、講習で使用するクレーンは、すでに盛興業の現地法人に導入している1台に限られるため、受講者を2つのグループに分けることで、クレーン操作実技を行う時間を確保することに努めました。なお、講習テキストは、日本最大手クレーン車メーカーの操作マニュアルをベースとして重要な装置や操作方法に関する内容を新たに追記しました。また、約70ページにわたるラオス語の座学講義資料も作成し、これに盛興業が作成したオリジナル動画を加え、座学講義資料との相乗効果を狙いました。

「玉掛け」で日本ブランドの発信を

良好なチームワークとコミュニケーションが求められる「玉掛け」作業の様子。
(写真提供:盛興業株式会社)

クレーン操作の重要な作業の一つに「玉掛け」があります。これは、荷をつり上げる際にワイヤーロープやチェーンその他の用具を用いて、クレーンのつり具に掛けたり外したりする作業をいいます。玉掛け作業者の合図に基づきクレーンオペレーターが操作するのですが、これには両者の良好なチームワークと円滑なコミュニケーションが必要とされます。まさに日本人の特性が出る分野であると考え、この日本式の玉掛け作業をビジネス戦略や日本ブランド構築に活用することを想定しています。
そこで、今回の講習では、「玉掛け」(英語ではLifting Work)をラオス語に翻訳することはあえてせず、日本語の発音による「Tamakake」を単語として用いることにしました。この玉掛け作業の合図は、国によって、さらには日本国内でも地域によって異なるのですが、今回のプログラムでは、盛興業が用いている神戸流の合図を繰り返し練習しました。

プログラムの実施を終えて

ディスカッションでは活発に意見が交わされました。
(写真提供:盛興業株式会社)

最終日は、これまでのプログラムの成果を測定する修了試験です。荷物に見立てたタイヤをクレーン操作で移動させ正確性とスピードを評価する実技試験と、設問に対する正しい選択肢を選ぶ学科試験を行いました。参加者の成績は、いずれも当初想定していた合格レベルに達しており、6日間という短期間ながらも大変充実した講習であったことが伺えます。全プログラム終了後のアンケートとインタビューでは、受講生より、「とても実用的だった」、「安全面で日本を見習うべき」、「先生方が優しく説明も分かりやすかった」、「ラオスの女性の代表として参加した」、「もっと学びたかった」といった声が聞かれました。
女性にとって建設業界はあまり馴染みがないように思われますが、クレーンはわずかな力で操作できるため実は女性にも適した仕事であり、今回のオペレーター育成プログラムに参加した2名も、実技試験と学科試験の双方において優秀な成績を収めたほか、グループ討議においてはリーダー的な役割も果たしました。クレーン運転経験や建設業界での実務経験もない彼女たちでしたが、受講者募集時点での「女性歓迎」の一言が後押しとなり、今回の参加が実現しました。今回の受講を通じて、彼女たちも自分が関心を持つ仕事に取り組んでいくといった自己実現に向けて、大きな一歩を踏み出せたのではないでしょうか。こうしたステレオタイプにとらわれない取り組みは、女性の積極的な経済・社会参画を促すうえで、他のJICAのプロジェクトにとっても有益な示唆を含んでいます。

最後に修了証書が授与されました。
(写真提供:盛興業株式会社)

今回のプログラム実施を通じ、盛興業が有する建機オペレーター人材の育成にかかるノウハウと経験は、ラオスにも適合し有効であることが確認されました。同時に、受講生の募集・選抜方法、プログラム運営方法等に関するインプットも多く得られたことから、今後はこれらを踏まえてさらにプログラムの改善を図り、ビジネスモデルの策定に反映させる予定です。
JICAラオス事務所で本案件を担当する本村公一企画調査員は、「盛興業様なら、ラオス人のラオス人によるラオス人のための建機オペレーター育成プログラムの確立、そして自社のクレーン作業請負ビジネスを実現していけるはず」と今後の展開に期待を寄せます。

ラオスの建設現場で神戸流のクレーン作業の合図と出会う日も、そう遠くないかもしれません。

(JICA関西 企業連携課 松浦鈴香)