JICA関西教師国内研修 —研修の現場からー

2021年9月13日

JICA関西は、開発途上国における国際協力事業で培った知見・経験・人材を活用し、日本の諸地域や学校の教育現場におけるグローバル人材育成を目的に、開発教育支援事業を実施しています。今年度は特別企画として、「SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、私たちに何ができるかー地域の多文化共生から考えるー」をテーマとした「教師国内研修」を実施しています。研修の参加者は関西二府四県の小学校から大学までの教職員です。参加者は研修を通じて関西圏内における多文化共生の現状や課題に対する理解を深め、その知見を生かし、それぞれの所属校にて開発教育・国際理解教育の授業実践を行います。研修に同席したJICA関西インターン生より、研修の様子をお届けします。

外国人と生きていく

講演の様子

クリスマス会の様子(写真提供:ひょうごラテンコミュニティ)

出入国在留管理庁の統計によれば、2020年12月末の時点で在留外国人数はおよそ288万人にも及んでおり、これは入管法が改正された1990年の統計である約98万人と比べると3倍近くにもなります。街中でも英語以外の表示を見るようになり、学校の教室に外国人の児童・生徒がいることも珍しくはなくなりました。また最近では外国人技能実習生に関するニュースも頻繁に耳にします。もはや「外国人」は私たちにとって無縁な存在ではなく、社会の一員として共生していくことが求められています。今回の研修では兵庫県内で在留外国人の支援にあたる「NPO法人たかとりコミュニティセンター」から、日比野純一氏、吉富志津代氏、大城ロクサナ氏にご講演いただきました。

たかとりコミュニティセンターがある神戸市長田区は、今から約26年半前の阪神・淡路大震災において火災による深刻な被害を受けた地域でした。同地域は古くから外国人が多く暮らしてきた地域でもあり、震災当時は「地震」「避難所」「罹災証明」といった、生き残るために必要な日本語がわからない人も多くいました。被災の経験も生かしながら外国人との共生を目指して立ち上げられたのが「たかとりコミュニティセンター」でした。多言語でのラジオ放送や日本語教室からはじまり、現在は敷地内の10の団体などがネットワークを組んでセンターを構成するまでに規模を拡大しています。団体のうちの一つ「ひょうごラテンコミュニティ」の代表である大城ロクサナ氏は、「外国人」として被災された経験や、ご自身のお子さんのルーツの言語であるスペイン語の教育など、さまざまな経験を生かし、スペイン語での情報発信や通訳、母語教室や住民同士の交流を目的としたイベントなどの活動を行っています。大城氏の経験談から、参加者は、日本で「外国人」として生きる経験をしているからこそできる外国人同士の助け合いも、多文化共生の実現のためには重要であることを実感しました。

マイノリティとして生きた経験を語る

今回の研修ではたかとりコミュニティセンターが2000年代前半に行った、多文化な背景を持つ子どもたちによる表現活動プロジェクトを通じて制作された日系ブラジル人と在日コリアン三世の女子高生が作ったビデオも視聴しました。一見すると「普通の」高校生である二人が自分のルーツにまつわる経験や思いを語るその映像は、在日外国人という存在が決して遠い存在ではないことを強く実感させられます。映像には外国ルーツの子どもたちのアイデンティティの問題や進路選択の際の高いハードルなど、制作から長い年月が経っていても社会になかなか大きな進展が起きていないことを痛感する場面もありました。一方で映像からは、いわゆる「マイノリティ」の立場にある人たち自身が声をあげていくことや、人々がその声に耳を傾けることの重要性を改めて感じることができました。そしてインターンである私も実は外国にルーツを持っており、プログラムの最後には研修に参加している皆さんに向けて自分の経験を共有する機会をいただきました。参加者の先生方も熱心に話を聞いてくださり、私自身も嬉しい気持ちになりました。自分の経験を共有することはなかなか勇気がいることだと思いますが、実際に経験した人の言葉は特別な響きを持っているということも事実です。経験や思いを語る人、それを伝えていく人、そしてその「声」に耳を傾ける人が増えれば、社会を変えていく力になると思います。この研修に参加された先生方が、研修経験を基に「学校からの多文化共生」の担い手として子どもたちにそれを伝えていただけることを願います。