「学びの道のり」(「理数科教育強化計画プロジェクト」より)

2009年5月21日

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ケニアの小学校(初等教育学校):日本の小学校1年生〜中学校2年生対象

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ケニアの中学校と高校(中等教育学校):日本の中学校3年生〜高校3年生対象

人が、何かを初歩から学んで一人前になる道のりを例えて「守・破・離」という言葉があることを、(恥ずかしながら)最近知りました。初心者はまず先生の教えを素直に学びます。教えを「守」る、つまり先達が積み重ねてきた知恵、ノウハウ、定石といった基本の型を模倣することから、学習の過程は始まるわけです。ある程度のレベルにまで上達すると、今度はその基本形からはみ出して、自分なりの工夫・修正を試すことが出来るようになります。この「破」の段階であれこれと試行錯誤し、先生の指導を受けながら、自らの特徴や個性を見出します。そして最後に、先生の庇護の下から「離」れ、一人前となるわけです。

1998年7月、ケニアに中等理数科教育強化計画(SMASSE)プロジェクトが誕生した際、この国には「中学校と高校の教師が継続的に学び続ける仕組み」、つまり現職教員研修制度というものがありませんでした。もちろん大多数の教師は教員養成カレッジや大学の教育学部を卒業して教員免許をもっているのですが、一旦教職に就いてしまえば、授業の指導技術や、教材の活用方法など、時代とともに進歩していく新たな知識を習得する場所がありませんでした。

そんな状況の中、このプロジェクトでは生徒中心の学習を普及させるため、教員の日々の工夫や努力を促す「ASEI/PDSI(Activity活動、Student生徒、Experiment実験、Improvisation創意工夫/Plan計画、Implementation実施、See評価、Improve改善)アプローチ」というスローガンを掲げ、「教師たるもの、その仕事を続ける限り、生徒のために自己研鑽を続けなければならない」というメッセージを粘り強く発信しつづけて、もうすぐ満11年。

その成果として、50人余りのケニア人専任スタッフと92名の宿泊施設を擁する中央研修所がナイロビ郊外に設立され、研修施設はいつも教員研修や行政官ワークショップを実施して賑やかです。全国に108ヶ所の地方研修センターと約1200名の地方研修講師が誕生し、2万人の中学校と高校の理数科の先生が毎年の研修に参加しています。ケニア教育省は現職教員研修を実施するための経常予算を確保しました。

人材・施設・お金、すべてゼロからのスタートだったことを思えば、手前味噌ながら、日本・ケニア双方のプロジェクト関係者は良く頑張ったなぁ…と思います。しかし、そこで歩みを止めず、さらに大きなステージ、さらに難しいハードルに立ち向かっていくところが、このプロジェクトの真骨頂と言えましょうか。

今年1月からは理数科教育強化計画(SMASE)プロジェクトと改称し、中学校の先生のみならず、小学校の先生も対象とした現職教員研修の仕組みを作りあげていくことになりました。

現時点での小学校の理科や算数の授業の様子はどんなだろう?私達が理想とする小学校での理科や算数の授業はどんなだろう?そのギャップを埋めるため、全国6万人と推定される小学校高学年の先生達に、私達はどんな研修カリキュラムを提供したら良いのだろう?全国3000ヶ所以上の学校を利用して地方研修を実施するために、地方の教育行政官や小学校の校長先生の理解・協力を得るための説明会の内容はどうしよう?研修の中でどんな教材を利用するのが効果的だろうか?研修運営経費は誰がどのように管理・支出するのが効率的だろうか?

日本人とケニア人のスタッフがひざ詰めで話し合い、決めていかなければならないことは山積みです。これまでの経験やノウハウを下敷きにしつつも、初等教育という新たな分野で大きな仕事に取り掛かるべく、小学校教員養成カレッジから人材や施設の協力を得るなどして、ケニアに既に存在する資源と知恵をフル活用して準備作業を進めています。

「ケニアの将来を担う子供達の学力向上のために、すべての教師は学び続けなければならない」という基本的な哲学はしっかりと守りながらも、その時の状況や社会ニーズに応えるべく工夫・修正を重ね、一人前の教員研修機関を設立してなお、新たな分野への挑戦を続けるSMASEプロジェクト。現状に満足せず、どこまでも高みを目指し、成長の螺線階段を登り続けていくその遺伝子は、SMASE関係者がその先達から受け継いだ宝物。800万人を超えるケニアの小学校の子供達には、その遺伝子と心意気こそ、しっかりと受け取って欲しいのです。

SMASEプロジェクト チーフアドバイザー
長沼 啓一