『世界で一番若い国、南スーダンで職業訓練を立ち上げた熟練専門家』

【写真】佐々木修さんJICA専門家
佐々木修さん

【画像】2011年7月に独立を果たした今世界で一番新しいアフリカの国、南スーダン。佐々木さん(松本市在住)は、2010年8月から3年間、JICA専門家として南スーダンで技術協力プロジェクト『基礎的技能・職業訓練強化プロジェクト』 に携わり、事業終了のため7月に帰国されました。技術協力専門家として長いキャリアを持つ佐々木さんに、お話を伺いました。

プロジェクト開始の背景

新しくなったジュバの職業訓練校(Multi-Service Trainig Center)の新入生たち

南スーダンは、20年以上続いた北部(現在のスーダン)との内戦によって疲弊し、約400万人近い難民が近隣国や北部へ避難。2005年の南北包括和平合意の締結後、人々は南へ戻り始めましたが、彼らが基礎的な職業技能を身に付け、起業や就職につなげることは、南部地域の復興と安定をもたらし、国の平和構築に必要であるという考えのもと、本プロジェクトがスタートしました。佐々木さんはJICAの調査団員として2006年6月に現地入り、その後たった3カ月でプロジェクトが開始。その後はエリトリア等で専門家として他国での業務に携わっていましたが、2010年8月から再び南スーダンへ。

平和構築のための職業訓練

平和構築に向けた復興と開発のため、訓練後の就職と起業の拡大を目標に、労働・人事・人材開発省における職業訓練政策の能力向上と、3つの職業訓練学校の再建(ジュバ、ワウ、マラカル)、訓練の実施・強化を行いました。コースは、自動車整備、電気、建築、金属加工、大工、コンピュータ等の8分野。佐々木さんはコースの運営と新しいカリキュラムの作成を主導、標準化しました。プロジェクト開始前と後での変化は、と聞くと「訓練修了後、生徒たちが就職できるようになりました。また今年9月から始まるコースへの応募者が格段に増え、最近現地からのメールで、『倍率が二倍以上にもなった』と連絡がありました。」と、うれしそうに語っていました。

今後の南スーダン

ジュバの職業訓練校の先生たちに説明をする佐々木さん

とにかく若い国なので、当初は政府組織が確立しておらず、白紙の状態。そんな中、他の専門家と共に、労働省に職業訓練担当の局を設立してもらうように要請、平和構築に向けた復興と開発のために欠かせない人材育成の重要性を説き、設立にこぎつけました。
日本からは、通常はドバイとナイロビを経由して入国していましたが、北部のスーダンでもプロジェクトに参加していたため、北部の首都ハルツームからの移動もありました。北部のスーダンでは、南スーダンの独立をあまり歓迎しない人もいるようで、やりにくいところが多々あり、北から南への移動は一苦労。スーダンからの出国とともに南スーダンへの入国手続き等がなかなかスムーズにはいかなかったそうです。
これからこの国はどう変わっていくでしょうか、との質問に「国家予算の98%近くを原油に頼っており、財政が脆弱。最近はあまり報道されていないが、南部と北部の国境付近では石油資源をめぐる紛争が未だ続いていて、政情が安定せず、治安が悪くなってきている。海外からの援助も54%が人道支援であり、今後いかに自立していくかにかかっているでしょう。若い国家ゆえに今後発展する余地はあるが、指導者の資質や能力、考え方によっても方向が変わってくると思います。」

『専門家』とは

1981年のペルーを始めとし、過去10か国以上でJICA専門家として従事されてきた経験豊富な佐々木さん。専門家になるには?と聞いてみると「現地で何をやってきたかは大切ですが、専門家にはそれ以上に自分がしてきたことへの具体的な成果が求められる。関わった組織がどう変わったのかを常に意識すべきでしょう」と。また「自分自身の専門性を磨くこと。小さなことでも自分の専門性を高めていくことが大事。」と強調されていました。それは、「専門分野での基本的なデスクワークを含む、資料作成等の作業ができ、さらに技術や指導力を高めるよう努力できること。そうすることによって現地で効果的に技術移転ができ、成果を生み出せる能力が発揮できる。」また、「成果の定着に数年はかかるけれども、少なくとも、成果が出るぞという確信が持てなくてはならない。」とのことでした。

南スーダンと日本での人材育成のために

現在は、松本市で人材能力開発の会社を経営しておられ、県内の中小企業向けに、人材開発のためのプログラム作成や研修実施へのアドバイス等を行っているとのことです。「もう南スーダンへは行かないのですか?」との質問に、「必要があればいつでも。」とのお答え。また、JICA集団研修や国別研修での講師も務めていらっしゃる佐々木さん。これまでの豊富な経験を生かし、国内外での人材育成に力を注いでいらっしゃいます。