信州発国際医療〜地域医療から国際保健医療へ

【写真】出浦喜丈医師佐久総合病院国際保健医療科
出浦喜丈医師

 佐久総合病院国際保健医療科の出浦喜丈医師は、2011年より駒ケ根訓練所にて、青年海外協力隊の候補者へ「農村保健と国際協力」と題した講座を行ってくださっており、国際農村保健協力の経験を共有してくださっています。この3月に佐久病院を定年退職されましたが、引き続き国際協力にかかわっていらっしゃる出浦先生に、国際保健医療に携わるようになったきっかけ、またJICAとの関わり合いについて、お伺いしました。

地域医療と国際保健医療とのつながり

出浦先生は医学部を卒業する年に、地域医療のバイブルとも言われる、若月俊一医師(故人)の『村で病気と闘う』を読んだのがきっかけとなり、佐久総合病院に就職して若月院長のもとで地域医療を実践されてきました。血液の専門医として診療に従事していた1980年代はHIV患者が日本でも発見された頃。1986年に松本市でもHIV感染者が見つかり大きな社会問題になりましたが、このころ発見された患者の多くが不法滞在の外国人であったため、健康保険を持たない彼らは病院に来ることもありませんでした。佐久地域のタイ語を話せる友人と協力して、患者を探し出して相談に乗ったり、当時は治療法もなかったため、彼らをタイへ戻し、その後の患者のフォローの為に、現地の医学部や病院とネットワークを作ったりされたとのこと。自らもタイへ何度も行ったり、タイの医師を呼び寄せたりしているうちに、自然と国際保健分野に関わり始めました。
 1997年からは2年間、JICA専門家としてガーナ保健人材育成プロジェクトへ派遣され、母子保健の医療サービス向上のため、ガーナ医療従事者3万人の現職研修制度を作成。それまで様々な援助機関がばらばらに行っていた研修を、すべての医療従事者が平等に受けることができる仕組みづくりを行いました。
 その後、短期専門家としても、フィリピン、セネガル、ラオスなどに派遣され、JICA保健医療プロジェクトに多大なる協力をされてきた出浦先生。また、JICAのカウンターパート研修受け入れでは、10年以上、地域保健分野の研修をテーマに佐久病院で受け入れを実施し、駒ケ根訓練所が主催の青年研修にも長年にわたって関わってくださっています。また、これまで佐久総合病院を研修や視察に訪れた人数は900人以上、74か国にも上ります。
 出浦先生は、「これまでJICAが行ってきた様々な研修を、その後に実際にどう途上国では生かしていくのかなど、フォローアップをする必要があるのではないか、また自分が関わった青年研修員がJICAのプロジェクトなどで生かされる仕組みを組織的に作ってもらいたい」と研修後の取り組みについても希望されていました。

派遣されてから3カ月間は、とにかく観察。焦らない。

 駒ヶ根訓練所での協力隊候補者への講義では、「派遣後、3カ月は何もせず観察すること。焦らないこと。」「日本人の強みは実施することであり、コーディネーションが得意。5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)は日本では当たり前だが、これは途上国にて健康管理を実施する手法としても使え、活動成功のカギにもなる」、と海外での実践的なアドバイスもくださいます。また、協力隊が行く先々で、日本で研修したことのある人と繋がることは非常に大事だとも。Facebookを使って世界中の元研修員とつながっている出浦先生。先生を通じ、JICAボランティアが研修員とつながるきっかけも作ってくださっています。
 お話を伺う数日前に、カンボジアから戻られたばかりの出浦先生。佐久で地域保健研修を経験した多くの元研修員と協力して、国際的で普遍的な地域医療のモデルづくりを目標に、病院を定年退職された今も世界を飛び回っていらっしゃいます。