農業で地域活性化に取り組む帰国隊員

【画像】高坂友三さん(平成10年度第1次隊・野菜・ミクロネシア)、つかささん(平成10年度第2次隊・野菜・タイ)夫妻

青年海外協力隊OV
高坂友三さん(平成10年度第1次隊・野菜・ミクロネシア)、つかささん(平成10年度第2次隊・野菜・タイ)夫妻

 「食」に対する関心が高まっています。世界では豊かな国に食料が集まる一方で、日々の食べ物に困る人々はあとを絶ちません。国内に目を転じると、産地偽装など食をめぐる問題が相次ぎ、安心・安全意識の高まりから地域で生産したものを地域で消費する「地産地消」が脚光を浴びています。また都市と地方との格差是正には、地方の基幹産業である農業の存在は欠かせません。そんな中、農業の道を選んだ元青年海外協力隊員の高坂友三さん、つかささん夫妻は、安全な食べ物の生産と地域の活性化を目指し、毎日汗を流しています

昔ながらの田植え

 南信州下伊那郡阿智村。中央アルプスと南アルプスに囲まれた風光明媚な地に5月下旬、昔ながらの手による田植え体験に精を出す人々の姿がありました。その数約20人。遠くは東京、愛知から来た家族もあり、あいにくの雨にもかかわらず、皆楽しそうに作業をしていました。この田植えイベントを企画したのは高坂夫妻。「農家として作物を作るだけではなく、農業を通じ人と人とのつながりを育みたい」との思いからでした。そして、それは協力隊の経験があったからこそ生まれた気持ちでした。

 阿智村出身の友三さんは中学時代、アフリカの砂漠化防止を目指す植林活動をリポートした新聞記事を読み、環境問題に興味を持つようになりました。海藻の生態研究に打ち込んだ大学を卒業後、国際NGOで発展途上国の農業指導に従事。これを契機に農業の面白さに目覚めます。そんな時、かねてより関心があった協力隊に合格。「20代でもできることがたくさんある。やりようによっては、すごいことができる」と、ミクロネシアへ飛び立ちました。

 当時から友三さんとお付き合いしていたのが、名古屋市出身のつかささん。大学のサークルで先輩、後輩だったのが縁で知り合いました。そんなつかささんも農学を専攻していた大学時代に研究室の先輩の影響で協力隊参加を志し、卒業後間もなく、隊員としてタイへと赴きました。ほぼ同じタイミングでの派遣となった2人ですが、「離れてしまうけれど、前を見ていたから迷いはなかった」そうです。

充実の2年間

 ミクロネシアでは職業訓練校の教官として活動した友三さん。学校で10代の若者に農業を教える傍ら、農業があまり根付いていなかった現地で、家庭菜園の普及活動にも尽力しました。一方、つかささんはタイの小中学校で「子どもたちと遊びながら」野菜の作り方や家畜の飼い方などを指導。友三さんもつかささんも慣れない土地で苦労しながらも、多くの人に支えられ充実した2年間を過ごしました。

 協力隊時代は手紙と、たまの電話で近況を報告しあっていた2人ですが、帰国後間もなくゴールイン。ともに友三さんが派遣前に所属していたNGOでの活動を経て、平成20年、阿智村に帰郷し就農しました。現在は約40種の季節の野菜に加え、キウイ、ウメなどの果樹も生産。村内の産直市場をはじめ、販路の開拓にも力を注いでいます。

広がる人の輪

 「おいしいコメや野菜を作ることはもちろん、担い手不足や農業荒廃地の拡大など農村地域の抱える問題に挑戦したい」と語る高坂さん夫妻。「協力隊の活動があったからこそ、単なる商売ではなく、地域貢献という視点が持てた」と言います。取り組みが花開く日を目指し、また自分の子どもたちに自信をもって勧められる農業を目指し、日々土と向かい合う2人。こだわりの有機野菜のニーズとともに、農業を通じた人との輪も徐々に広がっています。

【画像】

田植えをする友三さん

【画像】

畑仕事をするつかささん

【画像】

そろって農作業をする高坂さん一家