飯島町国際協力会会長
橋場 みどり さん
飯島町国際協力会は長年、地域の外国籍住民の方の抱える問題と向き合っています。日本での就労や住宅などに関する相談業務に加え、2004年からJICA駒ヶ根と協力し、パキスタン・ムルフン村の村おこしの支援をしてきました。一連のプロジェクトは今年度、いよいよ終了を迎えます。人口約1万人の町が手掛けた国際協力事業。それを担ってきた同会の橋場みどり会長にお話をうかがいました。
日本有数のリンゴの産地・長野県。中央アルプスと南アルプスに囲まれた飯島町に、ヒマラヤ山脈のふもと、パキスタン北部の人口約1000人の村から3人の研修生が飯島町に訪れたのは2004年の春でした。「村でおいしいリンゴを作り、収入を増やし、生活環境を向上させたい」。研修生の思いは切実でした。村の収入源だったヒマラヤ観光は、2001年のアメリカ同時多発テロ事件以来激減。新たな取り組みとして村が目を付けたのが、リンゴ栽培でした。
「最初は断ったんですよ」。パキスタンの日本大使館に勤務する知り合いを通じ、研修生受け入れの打診を受けた橋場さんは、当時の心境を振り返ります。「研修事業の経験もないし、言葉も通じない。でも、すごく熱心に説得されたので、一度、思い切ってムルフン村に行ってみたんです。そしたらすごく人柄も良く、真面目な人たちだった。これなら受け入れても大丈夫と思ったんです」。実際にパキスタンを訪れたことで芽生えた熱意が、町を巻き込んだプロジェクトへつながっていきます。
飯島町を訪れた研修生は、橋場さんらが用意した借家を拠点とし、町内3ヵ所の農家に分かれて1年間、リンゴ栽培を学びました。枝の剪定(せんてい)、花摘み、摘果など、初めて学ぶ技術ばかり。「すごく熱心に勉強していました。受け入れ農家の方も、教えることであらためて学ぶことが多かったようです」。研修生の3人は、08年、09年にも飯島町を訪れ、更なる技術の習得に努めました。
もともと外国の文化に興味があった橋場さん。ボランティアで日本語を教える教室に参加するなど、飯島に住む海外の方と活発に交流していました。その中で、外国籍住民の生活相談に関わることが増えてきたことを受け、「ちゃんと組織を作って対応しよう」との考えから2001年、仲間と飯島町国際協力会を立ち上げ、2005年、会長に就任。世界を視野に入れた地域づくりに取り組んできました。
「パキスタンのプロジェクトをやって本当に良かった。テレビやネットでの印象とはまったく違うパキスタンの姿を知ることができた」と橋場さん。「研修生が訪れることで農業が注目され、町民にとっても農業を取り巻く現状や、地域が持つ可能性を再認識するきっかけとなった」と、国際協力が飯島町にもたらしたプラスの側面も強調します。JICAと協力したプロジェクトは来年3月で終了しますが、今後もネットなどを通じ、ムルフン村のリンゴと、村づくりの支援を続ける予定です。
飯島町でリンゴ作りを学ぶパキスタン研修生(左)
研修の様子はマスコミにも注目されました