佐久市特別支援教育支援員/元青年海外協力隊員
古畑 美樹 さん
東京都新宿区出身の古畑美樹さんは、結婚を期に移住した長野県で、演劇などを通じた心のケアに関する活動をしています。4月からは精神保健福祉士の資格をいかし、佐久市内の中学校で心に悩みを抱えているような子どもたちのサポートにたずさわります。根底にあるのは「世界のすべての命が尊く、等しい価値がある」との思い。この信念を持つにいたったきっかけは、協力隊員として活動したニカラグアにおける、受刑者との心の奥底からのふれあいでした。
松本少年刑務所前で
松本市の松本少年刑務所。18歳から25歳までの受刑者を収容するこの施設で、古畑さんは2007年から2010年秋まで、社会復帰に向けた授業の一つ「被害者の視点を取り入れた教育」を担当しました。罪を犯した青年の更生に向け、演劇を取り入れたオリジナルの授業を展開。「劇を通じていろいろな人の視点に立つ練習になれば」との思いからでした。
授業は月に1回か2回。半年間に最大10回しかありません。その短い間に、古畑さんは青年たちとの心の距離を縮め、劇を作り、実施にこぎつけます。扱うテーマは話し合って決めますが、自殺や失業など、日本社会が抱える問題を選ぶケースが多いといいます。受刑者は制作過程で自分を登場人物と重ね合わせ、これまでの境遇や犯罪に至った経緯、そしてこれからの人生を見通す機会を得ます。これこそが、古畑さんが期待する演劇の効果です。
ニカラグアの刑務所で受刑者と活動する古畑さん
中学で演劇に打ち込んだ古畑さんは、大学卒業後、住宅メーカーに就職。人事部のスタッフとして充実した日々を送っていました。転機となったのは、2001年のアメリカ同時多発テロ事件に端を発するアメリカとアフガニスタンとの戦争でした。混乱の中で女性や子どもなど、社会的に弱い立場の人々がより苦しい状況に追いやられる姿を見た古畑さんは、国際協力の道に進むことを決意。協力隊の試験に合格し、青少年活動隊員として中米・ニカラグアに赴任しました。
配属された地方都市の市役所での任務は青少年の健全育成の促進。麻薬や若年妊娠、児童労働やストリートチルドレンなど、子どもを取り巻く深刻な問題が山積する中で、古畑さんは演劇を核とした情操教育を実施しました。対象は徐々に広がり、ついには受刑者を巻き込んでの演劇活動に発展。大人の意識を変えることで、子どもを取り巻く環境を改善しようと尽力しました。はじめは「ちょっと怖い」と感じていた受刑者ですが、接するうちに「取り巻く環境や、本当の意味での愛を経験できなかったために追い込まれただけ」と考えるようになったと言います。
日系ブラジル人との演劇活動
ニカラグアでの演劇活動に手ごたえを感じた古畑さんは、帰国後、松本少年刑務所での取り組みのほか、日系ブラジル人が抱える悩みを演劇で社会に伝える活動にも取り組んできました。2008年の長女出産後も自己研さんにも励み、子育てをしながら精神保健福祉士の資格を取得しました。「社会で疎外感を抱きかねない人々に直接働きかけ、その人が自信や輝きを取り戻すためのサポートをしたい」との思いからです。4月からは特別支援教育支援員として新たなスタートを切った古畑さん。悩みを抱える中学生と向き合う毎日です。