九州エコ通信 2011年5月号

背中で語る男の物語:築上町から中国へ、環境教育への取組み

日本の地方自治体が自らの地域の問題を解決するために蓄積してきた行政ノウハウを国際協力でも有効活用してもらおうという、地域提案型草の根技術協力事業。

日本の地図を見ても、アジア大陸に最も近い九州では、「アジアへのゲートウェイ」といわれる如く、韓国や中国を初めとして、アジアとの様々な自治体レベルでの協力・交流関係が展開されています。

JICAとの関係においても、九州では多くの地域提案型草の根技術協力事業の実績があり、今年度は18件のプロジェクトを実施することになっています。

今回登場するのは、昨年度から始まった福岡県築上町が中国の金壇(きんだん)市に環境教育分野の協力を行うプロジェクトと、築上町産業課課長補佐(兼)資源循環係長の田村啓二さんです。

プロジェクトの名前は、「中国・金壇市における環境教育に基づく豚糞尿液肥利用の耕畜連携支援プロジェクト」。

築上町と金壇市は、ともに大都市近郊の農村を抱えていて、農業や畜産業などの第1次産業の発展が町や市の将来を左右するという共有点があります。また、気候や、稲作を中心とした農業形態もよく似ているという特徴もあります。

築上町は住民への啓発・生産者への指導といった「環境教育に基づいた有機性廃棄物の液肥化利用事業」において日本の先進地域であり、既に国内のいくつかの自治体に技術移転をしてきた実績があります。

こうした築上町の取組みに、九州大学の中国人留学生を通じて、金壇市が興味を持ち、自らの環境対策に築上町の技術や経験を活かしたいと、自治体レベルでの活発な情報交換や相互訪問が行われるようになりました。

そして、より本格的な国際環境協力へと進化する形で、昨年度から、JICA九州と共に、地域提案型草の根技術協力事業として、金壇市への協力を進めることになったのです。

田村さんは、築上町の液肥利用を現場で粘り強く支えてきたプロジェクト・マネージャー。自ら教壇に立って、多くの子供達に環境の大切さを教えてきた、異色の地方行政官です。新聞やテレビで、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

JICA九州の担当者も、田村さんに、その背中で語る姿に、男惚れ(?)しています。

22年度JICA草の根技術支援事業(地域提案型)報告

福岡県築上町産業課 田村啓二

1.金壇市での循環授業

【場所】金壇市薛埠鎭中央小学校
【対象】5年生 約100名
【時間】平成23年1月6日2〜3限目(40分×2)

田村:みなさんお米を毎日食べていますか?

児童:はい!

田村:お米を作るには肥料が必要です。
お米を作る場合、化学肥料を使う方法と有機肥料を使う2つの方法があります。
(米袋を2つ取り出して——)
この薛埠鎭川内村のお米は有機肥料で作ったお米です。
この有機肥料は豚の糞尿からできています。
豚の糞尿が肥料になることを知っていますか?

児童:はーい、知っています!

【写真】
【写真】

田村:このお米から豚のおしっこやウンコの臭いがするかもしれませんよ…。

児童:しないよ〜。

【写真】

田村:では実際に臭いをかいで確認してみて下さい。

児童:普通のお米のにおい。いいお米のにおいがします。

田村:稲はいろんなものを吸収してお米を作ってくれるとても大切な植物です。
今日は日本からもお米を持ってきました。この米は豚ではなくて人のウンコとおしっこからできています。ということはみなさんが肥料を作っているということですね。このお米は築上町に小学生が食べています。(中略)。
——発酵すると有機物は分解されて肥料になります。豚の肥料の中には窒素、リン酸、カリがバランスよく含まれています。豚だけではなくて人間の糞尿の中にも窒素、リン酸、カリがあります。私達がおしっこやウンコとして排出して、それを肥料にすることを「循環」と言います。さらにそれを利用して農業をおこなうことを「循環農業」と言います。これは永遠に繰り返すことができます。

【写真】
【写真】

田村:この方法を日本では約1500年前の平安時代に中国から学びました。
循環農業の先生は実は中国です。近年、化学肥料を使い、この循環農業を忘れていましたが、また最近この循環農業を日本や中国で始めようとしています。今日はこの農業を紹介できて嬉しいです。
何か質問がある人は手を挙げて下さい。

【写真】【写真】

児童:人間の排泄物には肥料の成分は豊富に含まれていますか?

田村:はい、豊富に含まれています。

児童:肥料にするときに汚くはありませんか?

田村:あなたは自分のウンコの臭いは好きですか?

児童:いいえ!

田村:臭いのもとはアンモニアです。これを肥料に変えるには先ほどの発酵をさせるといいです。人間のウンコやおしっこで作ったお米のにおいをかいで下さい(築上町の米のにおいをかいでもらう)。

児童:とてもいい香りです。
そうですね、とてもあのウンコやおしっこからできたとは思えませんね。

児童:発酵はどのようにしますか?

田村:おしっこやウンコを発酵させる方法は2つあります。
ひとつは密閉した中で発酵させる嫌気発酵。そうするとメタン菌という地球で最も古い菌が分解してくれます。もうひとつは好気性発酵です。空気を入れて発酵させる方法です。では時間が来ましたので、ここで1時間目を終了したいと思います。

(2時間目は省略)

2.築上町での研修

【写真】

築城小学校で6年生と一緒に給食を食べました

【写真】

液肥の分析について機械を使った研修。
指導は、佐賀大学農学部の田中准教授

平成22年12月20日江蘇省金檀市5名が福岡県築上町を訪問しました。豚糞尿液肥利用を促進するために築上町で行っている人のし尿液肥りようについて学ぶためです。

本年度は、金檀市で豚糞尿液肥を使ってお米を栽培しており、豚糞尿液肥がお米栽培に有効である事も証明され、例年に向けてさらに、技術的研修を重ねるために来日しました。

液肥でお米を栽培している田中さん宅を訪問したり、30,000羽の採卵養鶏を行ってる城井ふる里村を視察したり、「あまおう」を栽培している築別さんの苺高設栽培ハウスを見学して農家交流と農業研修も行いました。

12月24日九州大学農学研究院会議室で研修終了しきを行い、JICAから研修終了証書を授与しました。25日全員無事に帰国の途につきました。

皆様、お疲れ様でした。