実験中の藩さん
北九州市立大学大学院に在籍中の中国研修員 藩双叶(Pan Shuangye)さん、そして約2年間ご指導いただいた門上希和夫教授と、日本での滞在を振り返りながら、中国に繋げていきたい環境への想いについて語っていただきました。
藩さんは2009年9月に来日してから、修士課程の2年間、門上希和夫教授のご指導の下、東京湾の約1000種類にも及ぶ微量環境汚染物質を分析・調査し、2011年9月に研究活動を終えます。
藩さん:東京湾の堆積物中の微量汚染物質を調査しました。東京湾の19箇所からサンプルを採取し、約1000種類もの化学物質について、最新の技術で分析しました。結果、東京湾の化学物質による汚染源は、主に生活由来であることが判明しました。
藩さん:はい。一日中実験室にこもって、測定と分析を繰り返す日々でした。はじめは測定機器の使い方もわかりませんでしたが、門上教授に丁寧にご指導いただきました。
門上希和夫教授
門上教授:研究ももちろん大事ですが、日本を知ってもらって、好きになってもらうことですかね。せっかく日本まで来てもらっているので、学会の帰りに景勝地に立ち寄ったり、苅田山笠(北九州地域のお祭り)に連れて行ったり、九州を少しでも好きになってもらえたら、と。お正月には家にも招待しました。
藩さん:最愛の夫と10歳になる息子と離れて生活をしなければならないことが辛かったです。インターネット電話で週に何回か会話をしますが、寂しさは中々軽減されませんでした。しかし、家族との時間を犠牲にしても、この貴重な経験は私にとって大変価値あるものでした。
藩さん:北九州以外の都市はあまり知りませんが、とてもクリーンなイメージです。来日する前も、社会的にも技術的にも先進的な国であるのはテレビや新聞で知っていましたが、特に公共交通機関が整備されて、移動が速くて便利であることが印象的でした。北九州市においては、工業化による環境汚染から克服し、環境モデル都市となった経験は貴重だと思います。
藩さん:中国で顕著な環境問題は、水汚染、海岸沿いの公害、酸性雨、騒音などが挙げられます。出身地である寧波市(中華人民共和国浙江省に位置する沿海部の港湾都市)では、農薬使用量が増加しているため、土壌、水質や農作物への影響が懸念されています。東京湾の調査と並行して、寧波市における農薬の化学物質についても、調査しました。
門上教授:東京湾の研究で習得した分析技術や知識は、農薬などの有害化学物質の分析にも十分役立ちます。藩さんの研修をきっかけに、今後寧波市と連携して中国の環境改善に貢献できればいいですね。
門上教授(右)と藩さん(左)、門上教授の研究室にて
藩さん:北九州市立大学では、環境技術や政策、そして環境マネジメントシステムなど、様々なレベルや局面から環境の取り組みを学ぶことができました。寧波市にはまず環境モニタリング技術の導入が必要だと思います。寧波市が直面する環境問題を把握し管理していくことに繋がります。同時に、市民の環境への意識を向上させることも重要になりますね。
門上教授: 藩さんには2つのことを期待しています。まず、日本、北九州で学んだことを活かして、中国の環境改善に貢献することです。第二は、日中友好の架け橋になってもらうことです。彼女の能力と努力を持ってすれば、共に実現可能だと思います。帰国しても、密接に交流を続けて行く予定です。
藩さん:東日本大震災のニュースをテレビで拝見したときは、本当に怖く、心が痛みました。2008年の四川省地震のことも思い出しました。被害に遭われた方々、ご家族やご友人を亡くされた方々に、心よりお悔やみ申し上げます。日本の方々は本当に親切で熱心、そしてなんと言っても勤勉だと思います。必ずこの困難を乗り越え復興に向かうことを信じています。