九州エコ通信2014年6月号

インドネシア・スラバヤ市での安全でおいしい飲料水供給支援、スタート

公益財団法人地球環境戦略研究機関 北九州アーバンセンター 研究員
香川 治美(かがわ はるみ)

平成26年5月、草の根技術協力事業(地域経済活性化特別枠)「インドネシア・スラバヤ市民のための安全な飲料水供給と水質改善に関する調査」が始まりました。

私たちチームは、北九州市内で活動している浄水装置・水質分析・居住環境整備・国際環境協力の専門家集団です。スラバヤ市や地域水道公社の職員、現地の水質分析業者、テンギリス地区婦人会が経営する生協店舗の女性の皆さんたちと協力して、取り組んでいます。

早速5月18日から7日間、スラバヤ市で第一回派遣活動をしてまいりましたので、本プロジェクトについてご紹介します。

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スラバヤ市の位置

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スラバヤ市共同組合・中小企業局での第一回プロジェクト会議の様子

安全な飲料水とは?

人は1日に約2.5リットルの飲料水を必要としています。体内の水には、栄養素や酸素を体のすみずみまで運搬したり、老廃物を体外に排泄したり、汗として体温を下げたりする役割があります。2010年国連総会は、安全な水を利用する権利は基本的人権であると宣言しています。安全な飲料水とは、水質基準を満たしている水です。

日本では、水道法で51項目の水質基準が定められています。水道水の源は、ダム湖や川、地下水です。浄水場で処理と検査を受け、水道管を流れて、蛇口まで届けられます。

一方、汚染された水源水には、消毒用の塩素をたくさん使うため、水本来のおいしさが失われます。また非衛生的な設備や非科学的な処理・管理方法では、安全な水を末端の蛇口まで届けられません。

スラバヤ市の現状

スラバヤ市も、インドネシアの法律で35項目の水質基準が定められています。

ところがほとんどのスラバヤ市民は、水道水を直接飲まずに、水道水を煮沸したり、市販の飲料水を購入したりして生活しています。それは、上水管網の老朽化などによる水道水の質の悪化を知っているからです。

これまでの調査によると、乾季時の水道水から日本基準の3倍もの一般細菌が検出されました。

煮沸すれば一般細菌を除去できますが、一人分の水道水をプロパンガスで煮沸した場合、年間約16kgの二酸化炭素を排出します。その体積は、500ミリリットルペットボトル1万6千本分に相当します。

市販飲料水の一人分の購入費は年間で約55万インドネシアルピー、約5千円です。その負担は、一般的な年収の約2%に相当し、小さくありません。収入の少ない家庭ほどその負担は大きく、家計を圧迫します。

その上、煮沸や飲料水購入には手間がかかります。1日に10分の手間でも、合計すれば年間で2.5日分も時間をかけていることになります。蛇口をひねるだけであればそんなに手間はかかりません。

スラバヤ市では、安全な飲料水供給に対する関心やニーズが高まっており、今回の派遣期間中も、水の国際フォーラムが開催されていました。

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スラバヤ市内を流れる水源河川

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スラバヤ地域水道公社の浄水場

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一般的な家庭のキッチン

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現地で行われていた環境分野の展示会INDO WATER 2014 EXPO&FORUM

飲料水供給への取り組み

このように、安全な飲料水の供給は、家計や家事労働の面からも、地球環境保全の面からも、基本的人権の面からも、一刻も早く解決すべき優先課題です。しかし、水源水の水質改善や水道水供給システム整備の大掛かりな取組には、多額の資金、人手、時間が必要です。

そこで私たちプロジェクトチームは、短期解決策として、これから3年間でスラバヤ市民の皆さん自らが、安全で安価な飲料水を供給できるようになるように、小型の浄水試験装置を使って水道水を浄化する技術や水質の調査・管理にかかる支援を開始しました。現地の皆さんは、早く本技術による飲料水を飲みたい!と、おっしゃっています。

まずは、現地に設置する装置の製造水が、雨季も乾季もインドネシアの水質基準を満たすかどうかを確かめる必要があります。一日も早く、現地の皆さんたちに、日本の技術による安全な飲料水を、おいしく味わっていただきたいと思います。

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テンギリス地区婦人会経営生協店

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サリナ生協店のスタッフの皆さん