九州エコ通信2016年5月号

JICA九州で実施している青年海外協力隊の環境教育隊員への技術補完研修

NPO法人 里山を考える会
向井 侯太

JICAでは、青年海外協力隊に合格した派遣前の隊員に対し、通常の研修とは別に技術補完研修として、職種別に様々な研修を行っております。ここ、JICA九州がある北九州市では、2012年度から環境教育の協力隊員に対して5日間の技術補完研修を行っております。その研修を受託いただいているNPO法人里山を考える会の向井氏に今回話を伺いました。

研修の概要(プログラム)について

この研修は、技術補完研修の中で「環境改善手法研修」として位置付けられています。手法の事例、その手法を機能させる仕組みづくり、住民の参加など環境改善に向けた経緯にある様々な要素を考えます。タカクラ式生ごみのコンポスト化技術、北九州市の近代工業都市としての歴史と環境未来都市を目指す取り組み、北九州の企業が実施する内外の廃棄物プロジェクト事例、市民参加に関するワークショップ、マネジメント講義、環境教育プログラム体験、水俣市と北九州市比較ディスカッションで構成されています。それぞれの講義・実習の間には、グループディスカッション・発表を設け、そこで得た知識をまとめ、伝える訓練をします。
2012年度の第一回研修から合計で18回実施、233名の隊員候補生が参加、51ヵ国へ派遣されています。

上記プログラム作成上の狙い

この研修は、参加者にとって青年海外協力隊活動のスタートです。参加者は、任地も様々、取り組む課題も様々ですから、講義や実習の内容を知識として学ぶことはもちろんですが、そこから自分たちの状況に合わせて「考える力」を養うことを意識する時期です。
また、環境隊員としての考え方を明確にしていく作業を始める時期でもあります。青年海外協力隊は、苦労します。苦労することはわかっているので、その準備として、環境教育とは何か?、何をする人か?、なぜ日本から環境教育隊員を送るのか?など基礎的な考え方を、それぞれの中でハッキリさせてから任地に向かってもらいたいと考えています。
北九州市にとっても、その目指すところを同じくする企画です。近代国業都市として発展した街は、かつて深刻な汚染問題を抱えました。それらを改善し、さらに環境未来都市に向けた取り組みを進める街は、環境国際協力や環境人材育成にも力を入れています。この研修には、街の環境への取り組みの現場にいた方々を講師に招き、お話をうかがいます。そして、街の歴史を題材とし、また、街の企業の皆様の活動を視察して話し合いを行います。北九州の街そのものを環境教育の教材として活用するものです。この研修は、街の歴史や未来に向けた取り組みを教育の分野でも価値あるものとして世界に広げていく企画です。

研修を受けられた隊員さんへのメッセージ(思い)

参加者の皆様には、目的を達成してほしいと思います。教育分野は、結果がわかりづらく、また、評価しづらい分野です。色々とわかりづらい分野ですが、わかりづらいからといって考えなくていいわけではありません。わかりづらいことは、自分で学び、考え、判断するしかありません。任地の皆様のお役に立つために、自分で判断して決めた目的の達成に集中する準備をしてもらいたいと思います。目的達成に集中することは、参加された皆様にとって青年海外協力隊活動を良いキャリアとして活かしていくことの第一歩だと思います。

実際に受講された隊員さんからのコメント

スリランカ/環境教育
私は、熊本生まれの熊本育ちですが、同じ九州にある北九州市がかつて公害に苦しみ、その克服に挑戦した歴史をもつこと、さらに環境未来都市として前進を続けていることを技術補完研修を受けるまで知りませんでした。北九州市が今だけでなく、歴史も未来も大事にしようとする思いが日常の景色にも反映されているように感じました。
この研修で、環境教育隊員として派遣されるのだという意識が一気に高まった記憶があります。任地での活動中に立ちはだかる問題は、無関係に点在しているように見えます。ですが、どこかに解決に向かう接点があるはずだと考えながら活動していました。それができたのは「諦めるな」ではなく「諦めさえしなければいい」、そのことを改めて伝えていただいた研修があったからこそだと思います。

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(株)JPECの高倉氏からコンポストを学ぶ青年海外協力隊派遣予定

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楽しい(株)松尾専務取締役から説明を受ける青年海外協力隊派遣予定者