九州SDGs通信2019年3月号 長崎で「地域創生×SDGsセミナー」を開催!

2019年3月18日(月)

2月13日(水)、JICA九州はSDGsに関する地域向けのイベントを、北九州・熊本に続き長崎において、ジェトロ長崎およびジェトロ・アジア経済研究所共催の下、「地域創生×SDGsセミナー:地域の取組みが世界を変える-『産官学民』のSDGs取組事例を中心に-」と題して開催しました。

「SDGs未来都市」に選定された壱岐市からも講師を招き、島嶼地域ならではのSDGs達成に向けた取組の紹介もありました。

当日、「長崎ランタンフェスティバル」で賑わう中、会場となった長崎県美術館ホールには35名を超える方に参加いただきました。参加者とパネラーの間で熱のこもったやり取りが交わされ、まさに会場とステージが一体となったイベントの様子をご紹介します。

セミナー開催の趣旨

「持続可能な開発目標(SDGs)」は、2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の具体的な行動計画として示されました。SDGsでは、「誰一人取り残さない」を理念に掲げ、日本を含む全ての国が対象となっています。その達成には政府だけでなく、自治体の取組みや民間の技術・知見・資金の活用、そして市民の行動が不可欠です。日本政府は国内地域でのSDGsの取組みが地域創生を推進するものと捉え、自治体、民間企業、市民社会、大学・研究機関等の多様な関係者とのパートナーシップのもと、地域が抱える課題解決に取組んでいくことを力強くバックアップしています。

このようなSDGsに対する気運を捉え、今般、長崎市において、自治体(官)、民間企業(産)、市民(民)、大学・研究機関(学)等を対象にSDGsについて理解を深めるとともに、SDGsを好機としてどのような取り組みができるか、そのヒントを得ることを目的として、今回の「地域創生×SDGsセミナー」を企画しました。セミナーでは「産・官・学・民」それぞれの立場からSDGsの取組み事例を紹介するとともに、どのようにパートナーシップを組んで進めていけばよいか等について意見交換を行いました。

ジェトロにおけるSDGsの取り組み

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ジェトロ長崎松尾修二所長

まず、主催者挨拶に続き、ジェトロ長崎の松尾所長から、ジェトロにおけるSDGsの取り組みについて紹介されました。松尾所長からは、日本企業は欧米諸国に比べSDGsに対する意識が低く、経営戦略としての取組みが遅れているとの指摘があり、中小企業が抱える具体事例や情報の不足といった要因に対し、SDGsをビジネスチャンスと捉えるためのジェトロの支援メニューが紹介されました。

基調講演「SDGs時代における地方創生」

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ジェトロ・アジア経済研究所 佐藤寛上席主任調査研究員

次に、ジェトロ・アジア経済研究所の佐藤寛上席主任調査研究員から「SDGs時代における地方創生」と題し、「誰が主役なのだろうか」といった会場への問いかけテーマをもって基調講演を発表いただきました。SDGsが国連で合意された背景やその個々のゴールについての説明があり、その中で「SDG=(S)すっごく、(D)大胆な、ゆびきり(G)げんまん」と覚えてほしいといった紹介がありました。

また、1)政府、地方自治体、2)多国籍企業、3)投資家、4)社会的起業家、5)中小企業、6)市民社会、7)消費者、納税者、8)教育機関、研究機関(大学等)、それぞれにSDGs時代で期待される役割を持っており、8つのアクターのどれか一つが主役なのではなく、複数アクターの「組み合わせ」による「協働体」こそが主役であるとの説明がありました。

さらに、サプライチェーン・マネージメントについて、リスク回避の観点からも「社会的責任/倫理性」の視点を取り入れることは必然となると企業への理解を促すとともに、新たなビジネスチャンスに繋がる機会になっていることを具体的な企業の取組事例を紹介いただきました。

JICAにおけるSDGsの取組み

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JICA九州 山下英志主任調査役

次に、JICA九州市民参加協力課山下主任調査役から、「人間の安全保障」の実現を理念に掲げるJICAは、「人間の安全保障」とも親和性の高いSDGs達成に向け、国際社会をリードしていく立場にあるとした上で、JICAが取り組む全ての事業がSDGs達成に貢献する内容であると説明し、開発途上国政府に対するSDGs計画策定支援の取り組みや社会貢献債としてのJICA債等について紹介しました。

さらに、様々なパートナーの参画が必要であり、開発途上国の開発課題への取組みと日本の地域での課題解決の取組みは「世界共通言語」であるSDGsを介してみることで、課題の共通性・類似性の発見があると説明した上で、JICA九州の取組として、SDGsの理解向上とパートナーシップ強化のためのセミナー開催の実績や、JICAの長崎における連携事例を紹介しました。特に長崎大学との草の根技術協力としてケニアでの学童支援プロジェクト、長崎県の中小企業の海外展開支援事業における連携事例は、国際協力における大学や企業とJICAの連携のモデルケースとなっていると紹介。引き継続きJICA九州としてもSDGs達成に向け様々なパートナーと連携して取り組んでいきたいといった発言がありました。

パネルディスカッション「産官学民」の取り組み事例

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左から、協和機電工業(株)の坂井秀之会長、(株)ナカムラ消防化学の中頭徹男取締役、壱岐市企画振興部地域振興推進課の篠原一生係長、長崎大学グローバル連携機構 藤野忠敬助教、(特活)雪浦あんばんね 渡辺督郎理事長、(特活)環境カウンセリング協会長崎 宮原和明副理事

続いて、基調講演された佐藤氏がモデレーターとなり、「産」の対場から協和機電工業(株)代表取締役会長の坂井秀之氏、(株)ナカムラ消防化学取締役の中頭徹男氏、「官」の立場から壱岐市企画振興部地域振興推進課係長の篠原一生氏、「学」の立場から長崎大学グローバル連携機構教授の藤野忠敬氏、そして「民」の立場から(特活)雪浦あんばんね理事長の渡辺督郎氏、(特活)環境カウンセリング協会長崎副理事長の宮原和明氏、それぞれにパネリストとして登壇いただき、それぞれの立場からSDGsの取り組みについて発表と意見交換を行いました。

環境創造企業を目指して-協和機電工業株式会社の海外での取り組み-

まず、坂井会長からは、同社は人々の生活や産業に必要な「水」および「電気」という社会インフラの構築・整備を担う企業として、日本で長年培ってきた経験と技術を生かし、中国や東南アジア各国の持続的成長に貢献する「環境創造企業」を目指している企業であり、日本、中国、東南アジアの市場を結ぶサプライチェーン・マネジメントの構築の取り組みを紹介いただきました。

また、企業として社会貢献や責任といったスローガンだけでは、地方の中堅・中小企業がSDGsの達成に貢献しようとしても、マネーバランスを欠いては「持続性」を担保することが難しく、地方や後進国には資金が圧倒的に足りない。従って、収益を生み出す「ビジネスモデル」を作り出す必要がるとの提言がありました。

更に、インドネシア、ベトナムおよび中国での収益につながったビジネスモデルを紹介いただきました。

社会に貢献すること、地域に必要とされる企業を目指して -株式会社ナカムラ消防化学の海外での取り組み-

次に、中頭取締役からはタイ国チェンマイにおけるSDGsの取組みを紹介いただきました。

タイ国では焼畑農業に起因する森林火災によるヘイズ(煙害)の発生で環境と健康への問題が深刻化しており、国としても大きな社会問題と認識しています。こうした中、同社は独自に開発した可搬式の消防ポンプを導入するため、現在「JICA中小企業・SDGsビジネス支援事業」を活用して現地での調査を進め、今後のビジネス展開について紹介されました。

また、可搬式消防ポンプは農業にも活用することが出来、一つのビジネスがSDGsの17のゴールの内、幅広い関連性を持つことが出来ると説明いただきました。

更に、今後の展開として、長崎大学と連携し、国際防災イノベーション会議(仮称)の実施や、消防機材の現地製造、自衛消防システムの輸出など、SDGsを念頭に置いた事業の紹介がありました。

壱岐(粋)なSociety5.0-壱岐市SDGsモデル事業概要-

続いて、壱岐市企画振興部地域振興推進課係長と壱岐みらい創りサイト事務局長も兼務する篠原一生氏に壱岐市のSDGs事業について説明いただきました。壱岐市は平成30年6月、内閣府より「SDGs未来都市」に選定され、また、特に先導的な取組として「自治体SDGsモデル事業」として選定されています。

同市は、狩猟から始まり農耕、工業、情報社会を経て、次に新たな社会として、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会の実現を目指し、その将来像について説明いただきました。2030年のあるべき姿として、先端技術を積極的に取り入れ、少子高齢化等の社会的課題の解決と基幹産業である一次産業を中心とした経済発展を両立させ、一次産業におけるIoT及びAIの導入や国境の島としての特徴を生かし、多様性を取り入れた交流による強靭なまちづくりなど、具体的な5つの将来像の紹介がありました。

更にSDGsモデル事業である生産から販売まで、各工程でテクノロジーを組み込むことで、2030年にあるべき6次産業とした「industry4.0を駆使したスマート6次産業モデル構築事業」の紹介がありました。

No one will be left behind-長崎大学とSDGs-

続いて、長崎大学グローバル連携機構の藤野助教からは、長崎大学の理念に基づき、SDGsの“No one will be left behind”(誰一人取り残さない)に大学としての貢献について説明いただきました。

世界で取り残される人を生むリスクとしての戦乱・災害・疫病(感染症)・核兵器について、また日本で取り残される人を生むリスクとしての東京一極集中、高齢化社会が及ぼす島嶼地域への影響について説明いただき、長崎は島の数が日本一であることに触れ、同大学における取組の「島嶼SDGsプロジェクト」として開催されたシンポジウムの紹介と長崎の島の課題解決がイノベーションを生み出し、世界の未来の処方箋になると述べられました。

NPO法人 雪浦あんばんね 活動概要-SDGsの地域振興の側面から-

五人目は、NPO法人雪浦あんばんねの渡辺理事長に同法人の設立の経緯や現在の活動について発表いただきました。活動拠点となる雪浦は長崎県西海市の雪浦川を中心にした集落で、人口は1,200人。高齢化率は日本平均を大きく上回っており、過疎化、少子高齢化による将来の存亡が危惧されている状況である一方、海・山・川の豊かな自然とスローライフの魅力があることに触れ、こうした地方が抱える課題に対処するために法人を設立し、雪浦の地域資源を生かしながら、都市部との交流人口を増やし、移住促進と地域活性化につながることを目指した活動を行っていると説明いただきました。

これまでの取組として、雪浦のマップを片手に町歩きし、住民の温かいおもてなしが体感できる「雪浦ウィーク」は地域回遊型の町歩きイベントの先駆けとして20回目を迎え、商業主義的イベントではない地域交流型の新しいかたちになってきていることの紹介がありました。

また、レストラン&カフェと野菜などの物販と、フリースペースを兼ね備えた「ゆきや」、空き家を活用した「ゲストハウス森田屋」の他様々な活動を紹介いただき、その結果として、移住者及びUターンの増加、園児・児童の増加が起きていると説明いただきました。

持続可能な地域づくりを担う人材育成(次世代の担い手づくり) -長崎県内小・中学校におけるESD教育の実践事例-

最後に、NPO法人環境カウンセリング協会長崎の宮原副理事長から持続可能な社会づくりへの取組であるSDGsと、持続可能な開発のための教育であるESDとの共通項を説明いただき、ESDについての実践校づくりと地域プラットフォームづくりの取組みや小学校での事例と成果を紹介いただきました。

ESD普及のモデルとなる実践校づくりとして、対馬市、長崎市の小中学校を対象にESD教育についての教職員の理解のための研修会実施の取組により、ESDの理解浸透、地域に根差したプログラムの磨き上げや子供たちの具体的な変化の共有という成果を紹介いただきました。

また、学校と地域が連携したプラットフォームづくりの取組として、各市町の教育委員会や小中学校等の教育関係先を訪問して、ESD人材育成普及事業や実践プログラム・実践発表会事例の紹介および、県の環境教育関係事業の紹介を行ってきたことを紹介いただきました。

更に、対馬の優良農産物である「しいたけ」を題材にした小学校での実践事例についても紹介していただきました。

パネルディスカッション「自分ゴト」のSDGs、SDGsの繋がり、SDGsは世界共通言語

今回のパネルディスカッションでは、長崎県でSDGsに積極に取り組んでいる「産官学民」の各々の立場から、SDGs推進に取り組む意義やメリット、地域創生から見たSDGsの役割、また関係者の巻き込みや対外発信する上で「世界共通言語」また「世界のモノサシ」でもあるSDGsの使い勝手、最後にパートナーシップ構築に向けたそれぞれの考えや期待、未来への展望等について、活発な意見交換が行われました。

パネリストからは、SDGsの取り組みは海外の問題や地域の課題を「自分ゴト」として当事者意識を引き出しやすい、戦略の再整理に活用できるなど、多くの示唆に富む意見が述べられました。

会場の参加者からは、これまでSDGsの17のゴールの内、何から始めればよいか迷っていたが、17のゴールは入り口であり、実はすべてのゴールが直接・間接的に繋がっていることに気づかされたとの感想をいただきました。

「SDGs時代の地方創生、誰が主役なのだろうか?」

主役は全ての人であり、「自分ゴト」として取り組んでいくことが期待されています。また、SDGsは一部の人々が行えばいいのでなく、いかに多くの市民を巻き込んでいくかが重要です。今回のセミナーを通じ、様々なパートナーが多様な組み合わせで連携して「オール長崎」として取り組むことの大切さを共有できたと思います。

“地域が変われば日本が変わる、日本が変われば世界が変わる”をスローガンのもと、JICA九州としても引き続き地域のパートナーと連携してSDGs推進に取り組んでいきます。

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セミナー参加者でSDGs17の目標を掲げて記念撮影

パネリスト

【産】協和機電工業株式会社 代表取締役会長 坂井秀之氏

   株式会社ナカムラ消防化学 取締役 中頭徹男氏

【官】壱岐市企画振興部地域振興推進課 係長 篠原一生氏

【学】長崎大学グローバル連携機構助教 藤野忠敬氏

【民】特定非営利活動法人雪浦あんばんね 理事長 渡辺督郎氏

   特定非営利活動法人環境カウンセリング協会長崎 副理事 宮原和明氏

関連ファイル(公開可能資料のみ)