帰国研修員が再来日 ジェンダー推進の取組みや、本邦研修の成果を発表!

JICA九州では、(公財)アジア女性交流・研究フォーラムの協力のもと、「行政官のためのジェンダー主流化政策」という研修を毎年行っています。

この度、同財団主催の一般公開セミナー「いま、世界の女性たちは−世界の行政官を囲んで−」が開催され、パネリストとして帰国研修員3名が参加しました。各研修員からは、自国でのジェンダー主流化の状況、本邦研修で学んだ経験がどのように活用されているかなどが発表され、帰国後の経験を分かち合う貴重な機会となりました。

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Mr.The CHHUN Hak テ・チュム・ハック(カンボジア、2008年研修参加)

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カンボアジア女性省ジェンダー平等・経済開発局の副局長を務めるハックさん。国や地方政府レベルでの政策や改革プログラムにおいて、ジェンダー主流化および女性による政策決定を促進するため、女性省内の技術的調整を統括しています。

−発表紹介−

「カンボアジアのジェンダー主流化の状況と戦略」

カンボジアでは、過去20年間でジェンダー平等はめざましく進展した。

教育分野では、初等教育と前期中等教育におけるジェンダー平等は、十分に達成されている。2012年の初等教育における男女別入学率は、男子が96.9%、女子が97%であった。そして保健分野では、妊産婦死亡率の低下で大幅な進展を遂げた。2000年に10万件中437件であった妊産婦死亡率は、2014年には170件に減少。また女性の政治参加の面では、国民議会での女性議員の数が、1993年の6名から2013年には20名へと、20年間で3倍以上になった。2013年には副首相、閣僚、大臣、次官ポストにおける女性の数も増加。公官庁における女性の割合も、2007年の32%から2013年には37%に増加した。

一方で課題もある。教育分野では後期中等・高等教育で男女格差がまだ残っている事、妊産婦死亡率では地域平均と比較してまだ高い割合である事、女性の経済活動ではさまざまな制約(労働条件、資金や資源へのアクセス)が存在する事、などである。

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カンボジア政府は、ジェンダー主流化を強化するため、女性省から専門的支援を受けた男女共同参画活動グループを政府全省に設置している。また中央だけでなく地方レベルにおいても、女性および児童のための諮問委員会など、ジェンダー主流化に関する専門機関を設置している。しかしながら依然として、ジェンダーは女性省の管轄であるとの認識は強い。そのため今後は、女性省、カンボジア国家女性評議会、および関係省庁との連携を強化し、ともにジェンダー主流化を進めていくことが優先課題となっている。

私は2008年、女性省ジェンダー平等局地方行政課で、地方行政を管轄する上級責任者だった時にJICA研修に参加した。私が当時担当していたのは、政策決定における女性の参加促進であった。JICA研修では、国内25州から1州をプロジェクトサイトとして選び、州の女性副首長および郡の女性副首長を対象とした、法律、政策提言、経営管理、政策立案についての研修を実施するアクションプランをたてた。このアクションプランを帰国後実施し、その後同様の取組みが国内の全州で展開されることとなった。その後私は、2012年にジェンダー主流化および女性の経済エンパワメントを管轄する局の副局長に昇進した。2008年のJICA研修で得た知識によって、現在の職務を遂行する能力が支えられている、そう私は確信している。

(以上)

ハックさんのアクションプランは成功裏に終わり、同様の取組みが全国に拡大されたそうです。現在ハックさんは、ジェンダー平等・経済開発局副局長として多忙な日々を過ごされている様子。今年度の本邦研修にはハックさんの部下となる方が参加されましたので、カンボアジアのさらなるジェンダー主流化推進が期待されます!

Ms. ATULUK Francisca フランシスカ・アルツク(ガーナ、2014年研修参加)

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ガーナのジェンダー・児童および社会保護省の課長補佐であるフランカさん。ジェンダー平等や女性・子どもの権利促進のための政策の策定・実施に携わっています。

−発表紹介−

「アフリカの玄関口、ガーナの現状」

ガーナの人口は2500万人。地理的な要因から「アフリカの玄関口」と呼ばれている。

ガーナでは、1992年に制定された憲法で、基本的人権や自由とともに、女性の権利が謳われている。私の所属するジェンダー・児童および社会保護省では、男性と女性、子ども、弱者、障がい者をターゲットグループとし、その存続と発展にむけての取組みを行っている。貧困レベルや男女間の社会的不公正の解消、健康基準の改善にむけた戦略として、ジェンダー平等と女性のエンパワメントに取組んできた。

しかしながら現状としては、教育(少女、女性の教育)、女性の経済活動、女性と健康、政治的エンパワメントの各側面において、依然として男女間の不平等が生じている。例えば政治的エンパワメントにおいては、ガーナの議会議員275名の内、男性が245名、女性が30名となっている。我々の省内においても女性の割合は1割程度にとどまっている。

一方で、ジェンダー主流化にむけて進展した点もある。例えば伝統的なコミュニティの統治を見てみると、以前は男性が務めるチーフ(族長)の特権であった意思決定のプロセスに、クイーンマザーと呼ばれる女性リーダーが参加するようになったことである。そして2015年の8月には、内閣が国家ジェンダー政策を採択したほか、アファーマティブアクション法案(男女比率のバランスの悪さを是正する法律)についても間もなく制定される事となっている。

私は2014年の6月に北九州でのJICA研修に参加した。研修プログラムで得た知識により、ジェンダー主流化を進める上で、帰国後行ってきた活動のいつくかをここに紹介したい。

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  • 2014年10月〜12月にかけて実施された、首長および伝統省による「悪しき習慣を撲滅するためのデータ収集」プロジェクトにおいて、ジェンダー主流化を図る中心人物として携わる。首長および伝統省から選抜された12名のスタッフに対し、ジェンダー主流化に関する1日〜2日の研修プログラムを開催。
  • ジェンダー・児童および社会保護省の大臣および局長と対話を図り、JICA研修で得た知識を共有し、ジェンダー主流化の推進方法について協議した。
  • 本邦研修のアクションプランで掲げた「省内職員の能力強化」に関しては、まず新規スタッフのジェンダー主流化に関する理解度についての情報収集を行った。そして省内スタッフを対象に、2日間にわたるワークショップを実施(ジェンダーのコンセプト、ジェンダー主流化、ジェンダーに配慮したPCM手法)。また局長を対象とした、ジェンダー予算に関するワークショップを実施し、そのファシリテーターを務めた。

(以上)

フランカさんは、帰国後本邦研修で学んだ、ジェンダーに配慮したPCM(プロジェクトサイクルマネジンメント)手法を、自身が企画したワークショップで用い、実践されたそうです。そのワークショップの様子を、参加者からのアンケート結果や写真とともに、研修関係に報告してくれました。自ら掲げた目標を着実に実行していくフランカさんの姿に、日本側の我々がとても勇気づけられました!

Ms. CASTANEDA NERIO Ana Cristina アナ・クリスティーナ・カスタネダ・ネリオ(エルサルバドル、2015年研修参加)

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環境法を専門とする弁護士のバックグラウンドを持つアナさん。エルサルバドルの国家政策におけるジェンダー主流化の主導を担う、「女性の能力開発のためのエルサルバドル協会(ISDEMU)」に勤務し、環境政策を通じた女性開発などに従事しています。

−発表紹介−

「エルサルバドルのジェンダー主流化政策」

エルサルバドルは中央アメリカに位置する人口600万人程の国。世界遺産のホヤ・デ・セレンをはじめとするすばらしい自然と観光資源が存在している。

女性の能力開発のためのエルサルバドル協会は、女性の権利推進において主導的な役割として、1996年に設立された団体である。2012年からは国家政策におけるジェンダー主流化の主導的役割を担っている。

エルサルバドルには、ジェンダー平等を推進するいくつかの法的枠組みがある。1996年「家庭内暴力に対する法律」、2011年「女性に対するあらゆる暴力の撲滅にむけた特別かつ包括的な法律」、2012年の「平等の推進および女性差別撤廃に向けた法律」などがそれにあたる。また国家政策としては、「平等にむけた国家政策(2012年〜2017年)が制定されている。

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国家政策にもとづき、女性の能力開発のためのエルサルバドル協会では、次の4つのセクションにおいて業務を実施している。1. 機会均等(制度の調整、国家ジェンダー指標制度導入、国際条約推進、各種ガイドライン策定)、2. 市民の平等(女性の政治的活躍の場の創出)、3. 機会均等のための教育プログラム(行政官の能力開発、ジェンダー教育)4.暴力のない暮らし(女性に対する暴力防止、ケア、司法面の対応)。

現在私は、女性と環境に関する、翌年度の事業計画や企画書を作成しているが、JICA研修のアクションプラン作成で学んだPCMやPDMの方法がとても役立っている。また北九州では、様々な国からの参加者とともにジェンダー主流化について学ぶことができ、この経験が私自身の生活や職務をより豊かなものにしてくれた。ジェンダー平等や女性の権利は、世界的な問題であり、解決には時間と継続的な取組みが要されるものである。この社会をよりよくしていきたいという強い想いを持ちながら、今後も取組んでいきたい。

(以上)

アナさんは今年の7月に本邦研修から帰国したばかりです。研修で作成したアクションプランでは、女性に対する暴力の防止に着目し、特に路上でのセクシャルハラスメントをテーマとして取り上げました。アナさんの所属する女性の能力開発のためのエルサルバドル協会には、今後JICA専門家が派遣される予定となっています。今後の彼女のますますの活躍と、JICAとのコラボレーションを期待しています。