株式会社 新菱 リサイクル・ファイン事業部門 新規事業推進部
金子 愛里(かねこ あいり)さん
今回の『「人」明日へのストーリー』は、青年海外協力隊への参加がきっかけとなり、現在、北九州市で働いている金子さんです。金子さんは、青年海外協力隊として派遣されている間に北九州市との出会いがあり、それが縁で現在は北九州市にて働いていらっしゃいます。現在もJICA九州の草の根事業に関わっていただくなど、青年海外協力隊で得た経験を幅広く活用いただいています。その様子について、お伺いしました。
お酒の美味しい新潟県です。
以前、サモア共和国での一か月の短期青年海外協力隊に参加したことがありました。当時は日本と全く異なる文化に驚くばかりで、何もできなかったという悔しさが残りましたが、大自然サモアでの体験をきっかけに自然を守る仕事がしたいと思いました。その後、日本で何の不自由もなく自然体験活動などをして充実はしていたのですが、この地球のどこかで全く違う暮らしをする人々や、消えていく自然のために何か役に立てたらと思っていました。
インドネシアのロンボク島へ環境教育隊員として派遣されました。小中学校・高校や村落でのリユース・リデュース・リサイクル(3R)の推進、生ごみコンポスト化活動を通して住民の意識啓発とゴミの減量に取り組みました。といっても赴任当初はかたことのインドネシア語しか話せない上に、現地の状況もわからず、派遣先の同僚や学校の先生たちに笑われながら助けられるばかりでした。
ある時、無邪気にリサイクル活動に取り組む高校3年生の生徒たちを見ながら、担任の先生が「来年には、ここにいる生徒たちの8割がすでに生活のために働かなきゃならない。でもロンボクで働く先を見つけられるのはほんの一握りよ」と教えてくれました。今は環境のためにと高い意識を持っている生徒たちでさえ、経済的に生活のプラスにならなければどんなに良い活動も続けていけないのだと気づかされました。
また、ある学校で生ごみを何とかしたいというので、協力隊の派遣前研修で学んだ高倉式コンポストを作ってみました。すると他にも教えて欲しいという学校や村が続出して驚きました。多くの途上国と同じくロンボクで出るごみの半分以上は生ごみです。これをコンポスト化すればかなりのゴミが減らせます。またロンボク島は農業で暮らす人が多いため、出来上がったコンポストを畑で使うことができます。私が研修で学んだこれらのことを、現地の人々はすでに実感として切実に知っているのでした。
知っているのになぜできないのか、理由はたくさんありました。今日食べるご飯代を稼ぐことに精いっぱいで時間がない、やり方がわからない、お金がない、周りのやる気がない、そういった悩みを分かち合いながら「じゃあどうしたら良いのか」を一緒に考える仲間が少しずつ増えていきました。教わるばかりでしたが、私にとって得るものの多い2年間でした。
北九州市の環境姉妹都市であるインドネシア・スラバヤ市は、高倉式コンポストによりゴミ減量に成功して緑豊かな街になったことで、ごみ処理に困っているインドネシアじゅうの他都市から注目を浴びていました。同じようにロンボク島は小さな島であるためゴミの行き場がなく、年々増え続ける山積みのゴミへの対策を必要としていました。それを知った北九州市環境局の職員さんがロンボク島へいらっしゃって、「第2のスラバヤを目指そう!」とJICA草の根技術協力事業を提案してくださいました。ただ環境都市として知られるだけでなく、その技術をこんな僻地にまで伝えようという熱意を感じました。
北九州市に本社を置く?新菱が、3Rを基盤に環境に配慮した事業を展開しており、今後インドネシアで事業展開を考えていると聞きました。協力隊の2年間は知らない土地での試行錯誤の連続で、やり遂げたというよりは、やっとこれから何か出来るかもしれないというところで帰国の時期が来てしまいました。新菱の持つ化学技術はインドネシアで必ず必要なものですし、またこれまで2年間現地で学ばせてもらったことを生かしながらインドネシアへ恩返しできる良い機会だと思い、入社試験を受けて入社させて頂きました。
新菱は北九州市と連携してJICA草の根事業「インドネシア・メダン市における廃棄物管理効率化事業」を行っています。入社後、私は新菱から派遣という形で北九州市でも働かせてもらっており、このメダン事業において現地との調整や、現地での生ごみコンポストを通したゴミ減量に携わっています。また、私の派遣先であったロンボク島での(前述の)JICA草の根事業においても同様に、現地業務に関わらせてもらっています。帰国後もこうやってインドネシアの環境改善に取り組むことができるのは、協力隊時代に一緒に汗を流してたくさんのことを経験させてくれた現地の人々のおかげだと感謝しています。
インドネシアからのご縁で北九州に住むことになったので、今後も日本・北九州の側からインドネシアの環境改善に貢献していけたらと思います。また、北九州を好きになるインドネシア人がもっと増えてくれたら嬉しいです。