世界とつながるサッカーの力 後編

【写真】下田 功(しもだ いさお)さんギラヴァンツ北九州 ホームタウン推進本部 副本部長兼普及部長
下田 功(しもだ いさお)さん

今回の「人」明日へのストーリーは、前回に引き続き北九州市に本拠地を置くJ2サッカーチーム「ギラヴァンツ北九州」で働かれる下田さんです。
前回のコスタリカでの青年海外協力隊時代の話に続き完結編です。
再びコスタリカに戻った青年海外協力隊シニア隊員時代、世界を飛び回ったFIFAワールドカップの日本への招致活動への参加、そして帰国後のJリーグでのお仕事に迫ります。

前回は青年海外協力隊時代の話をお伺いしました。そのあと再び青年海外協力隊シニア隊員として活動されたとのことですが、再びコスタリカに戻られた経緯を教えていただけますか?

帰国後は日本で就職する予定でした。しかし、コスタリカの協力隊時代のカウンターパートからは早く戻ってこいと言われており、実際に私も戻りたい思いはありました。日本での就職先も決まり、入社1週間前になったある日、そのカウンターパートから手紙が来たんですよ。内容はコスタリカのナショナルトレーニングセンター設立プロジェクトへの参加依頼でした。
さっそくJICAの本部にその手紙を持っていたところ、青年海外協力隊シニア隊員であれば派遣が可能と聞き、1か月後にあった語学試験を受けました。結果はなんと、落ちてしまったんですよ。青年海外協力隊としてあんなにスペイン語を使っていたのに世の中は甘くないなあと思いました(笑)。
そこで仕方なく、一年間浪人しました。ちょうど同じ時期にJICAの研修監理員試験には合格していたので、そこで働きつつ、毎週スペイン語学校に通いました。
そして翌年ようやく語学試験に合格することができ、その後のシニア隊員としてコスタリカ国文化青年スポーツ省に再び派遣されることとなりました。派遣後は、主に同省のスポーツ局内でナショナルスポーツセンター設立事業に携わり、32歳まで現地で活動をしました。

再びコスタリカに戻られ、スポーツの発展の根幹にかかわるような事業に携わられていたのですね。日本に帰国後はどのような仕事をされたのですか?

3月に帰国を予定していたのですが、その年の1月に日本サッカー協会から突然電話がかかってきました。ワールドカップの日本招致活動に通訳として協力してほしいとのことでした。当時スペイン語ができ、コスタリカサッカー協会とも関係があるということが理由でした。ほかの仕事も決まっていたので初めは断ったのですが、迷った末に最終的には引き受けることとなりました。
そこからは日本サッカー協会の方について回り、カタール、ウルグアイ、エクアドル、ケイマン諸島などに派遣され通訳を行いました。当時の国際サッカー連盟(FIFA)の会長や有名な元サッカー選手の通訳をすることもありましたが、その時は立ち尽くしてしまうほど緊張しましたね。非常に刺激的で本当に楽しい仕事でした。ただ、体重は6キロほど痩せてしまいましたが(笑)。

人生何があるかわからないですね。これまで世界を舞台に働かれていましたが、日本社会に戻ってから仕事で大変なことはありましたか?

そうですね。ワールドカップの招致活動の後は、縁あってアビスパ福岡で仕事をさせていただきました。
当時33歳でしたが、それまで海外をメインに自分独自の方法で仕事をしていたので、日本での働き方は非常に戸惑いましたね。特に仕事での本音と建前の文化に順応するのは苦労しました。
ただその時に改めて感じたのは、本質は何かを考えることの重要性ですね。仕事をしているとつい形式にとらわれがちなところもあると思うのですが、コスタリカにいた時に「あなたは何をどう変えられるのか?あなたの働きによって何が生み出されるのか?」という本質的な問いを受けることも多かったです。そこでの経験は常に意識して仕事をするようにしていました。

現在働かれているギラヴァンツ北九州においてはどのような目標を持って仕事をされていますか?

現在はホームタウン推進部という部署に所属し、主に地域活動を行っています。今私が一番やらなくてはいけないと思っていることは、ギラヴァンツ北九州がなぜ北九州に存在しているのか、存在していることがどのような意味を持つのか、これを市民に伝えていくことだと思っています。
その答えの1つはスポーツを通じて人々を幸せにできるということだと考えています。これをいろんな方法で市民の方に伝えていきたいです。例えば、青少年育成の分野があります。私は創造的で逞しい子供が育成されることはとても重要だと思っています。
 その為にも、適切な年齢に適切な課題を与え成長していくことが大切です。そこにスポーツが果たす役割は大きいと思っています。その中でもサッカーから発信していくことは非常に有効です。例えば、Jリーグのクラブチームでは子供のころから二歳ごとに区切り、それぞれの段階で適切な課題設定を行い育成を行っています。子供のころの根幹から長期的視野で育成を行っているのです。
これらも含めて、スポーツを通じた人材育成を行い、人々を幸せにし、ギラヴァンツ北九州の存在意義を高めていきたいですね。
次に閉塞感の打破です。これもギラヴァンツ北九州として取組みたいですね。
単純な話ですが、体を動かすと体温があがります。そして体温が上がると心が開きやすくなります。ご高齢の方々を対象にスポーツ講座を行う機会も多いのですが、みなさん子供のように楽しんでくれます。そしてスポーツを終わった後は本当によくしゃべるようになります。これもスポーツの持つ力なのではないかと思っています。
また、サッカースタジアムにいろんな人が足を運び、そこで一体感を持って応援すると、子供も大人もみんなが同じ話題を持つことができ、様々なコミュニケーションが生まれますよね。
このように、ギラヴァンツ北九州として市民の方へできることは何かを常に考え突き詰めていきたいと思っています。

最後にJICA九州への期待はありますか?

そうですね。以前、緒方貞子さんのインタビュー記事を読み感銘を受けました。そこにはグローバリズムについて書かれていました。グローバリズムとは興味がある人が能動的に世界に出ていくというだけではなく、人やモノ、情報が世界中を行きかう現在では、興味がない人にも押し寄せてくるものという内容でした。
サッカーでは様々な国と接することが普通です。サッカーは国や人をつなぐ力を持っていると思います。私がコスタリカという国に溶け込む際にも、サッカーをやっているということが大いに助けになりました。
JICAには開発途上国からたくさんの研修員が来ていますよね。例えばギラヴァンツの試合前にJICAの研修員や北九州にいる留学生が集まって、地域の人たちと小さなワールドカップのようなものを実施できたらとても楽しそうですね。
いずれにせよ、JICAとはこれからも長く連携して発信していきたいと思っています。