独立行政法人 国際協力機構 九州国際センター 所長
井崎 宏 (イザキ ヒロシ)
今年4月にJICAカンボジア事務所よりJICA九州の所長に着任した井崎 宏 新所長のインタビュー記事をご紹介いたします。
子供の頃から「海外に行ってみたい!」という思いがありましてそこから始まっています。
私は佐賀県の出身で3人兄弟の末っ子なのですが、上2人がどちらも地元を離れて東京で生活していた事もあり、私も東京の大学に進学しました。
学生時代は特にアジアに興味があって、2週間くらい東南アジアを旅行したこともありました。
その頃から比べると東南アジアはこの20年、30年で大きく良い方向に向かっていると思います。
また、大学時代は「アジアの国々の現場で国際協力活動をしたり研究をしたりしたい」と思っていましたので民間企業への就職はあまり考えていませんでした。
大学の学部は法学部だったので国際法など、なんとなく「国際」に関係がある事を学んでいましたが、大学院では夢に立ち返り「アジアの地域研究」を学べる方向へ転向しました。
そしてずっと持ち続けていた「どこか海外で仕事をしてみたい」という夢を実現させるべく、JICAという組織で働くことになりました。
出張等で世界各国に行きましたが、印象に残っている国と言えば、やはり自分の赴任したミャンマー、ベトナム、カンボジアですね。
まず、ミャンマーですが1991年から3年7ヶ月赴任していました。
とにかく何も無い時代で、私は独り身でまだ気楽だったのですが、当時、赴任する人は家財道具をすべて日本から持っていかなければならず、例えばTVや洗濯機、冷蔵庫も持っていかなければいけない時代でした。
私はたまたま前任者から引き継いだので良かったのですが、とにかく「何もないような国に赴任をしたな」という思いはありましたね。
「住めば都」というところは確かにありましたが、当時のミャンマーはアウンサンスーチー女史が私の赴任する少し前に拘束されて軍事政権になっていました。確か夜の9時から朝の6時くらいまで夜間外出禁止令が発令されていました。
ですから夜の食事会なんかも早く切り上げなければいけないという時代でしたが、そういう中でも滞在している日本人同士の連帯感は強く、大使館や商社などの方々と、みんなで助け合いながら生活をしました。
その事が今、思うと非常に印象に残っています。
次にベトナムですが経済成長の真っただ中で、とにかく「忙しかった」という思いがあります。
その中で、特に思い出に残っているのは、ある青年海外協力隊員が重い病気になり日本へ緊急移送されたことです。
その隊員は「一緒にベトナムに赴任した同期の隊員が頑張っている間は自分も頑張る」と日本で治療に専念し、同期の協力隊員が帰国するまで頑張りましたが、その直後に亡くなってしまいました。その事は「協力隊員同士の絆」とともに協力の現場に対する情熱を強く感じさせられた出来事でした。
そしてカンボジアですが、今年の3月に現地から帰ってきたばかりなので一番、印象に残っている国です。
ちょうど経済が伸び盛りの時期に赴任したというのもありまして幸運だったし非常に印象的な国でした。
カンボジアはタイとベトナムのちょうど中間にあって人口も面積もそれほど大きくはないですから、なんとなく福岡と長崎にはさまれている私の出身地の佐賀と似ていると感じていました。
佐賀は福岡や長崎に比べると知名度は高くないと思いますが、カンボジアも同じで、タイのバンコクやベトナムのホーチミンあるいはハノイなどには皆さん行かれますが、カンボジアは観光地であるアンコールワット以外は首都であるプノンペンすら、訪問者は必ずしも多くはない感じでした。ただ、最近はかなり増えてきましたが。
そういったこともあって、親近感を持ってカンボジアの発展のお手伝いを考えられたというのはありますね。
以前はインドネシアやフィリピンなどの地域が成長する国々という感じで、後発としてASEANに加盟したカンボジア(Cambodia)・ラオス(Laos)・ミャンマー(Myanmar)・ベトナム(Vietnam)(通称CLMV)は加盟当初、先発ASEAN諸国から発展の手助けをしてもらうような位置づけだったですね。
それが現在のCLMVはどんどん活性化していて、特にベトナムはインドネシアやフィリピンに「追いつけ追い越せ」という状況になっていますので時代の流れを感じます。
ASEANの政策として「ASEANコネクティビティの強化」がよく言われていますが、陸のASEAN諸国のCLMVは国境を接し、道路で繋がっているというのが大きなメリットですね。東西経済回廊や南部経済回廊を一つの軸に開発を進めるという事は、国境を越えて地域全体の経済発展のポテンシャルの拡大につながると思います。ですから今後はそれぞれの国というよりはむしろ、クロスボーダー化が更に進み、インドシナ半島のCLMVにタイも加えたCLMVTが一つの固まりとして発展していくと思います。
所長着任のご挨拶に伺っているなかで「出身はどちらですか?」と聞かれたときに「佐賀県です」とお答えすると話しが弾んだり、「どちらに赴任していましたか?」と聞かれ「東南アジアです」というと非常に関心を持って頂いたりしております。
九州から近いということもあるとは思いますが、東南アジアに対する九州の皆様の関心の高さを感じました。
東南アジアにいた者としては皆様のご期待を裏切らないように、しっかりと事業展開していければいいなと思っています。
前任地のカンボジアにいた時もそうなのですが休みの日は、よく歩きます。
プノンペンの、気温が高い時でも2、3時間は歩いていましたので、こちらでも出来る限りも歩く様にしたいですね。
あと、実は温泉が好きなのですが、九州には沢山よい温泉があるので時間をみつけて、行きたいと思っています。
JICA九州は九州7県という非常に広い範囲をカバーしていますが、出来るだけ九州各地の皆様とコミュニケーションを図り、敷居の高いセンターではなくて、気軽にいろんな事をご相談頂いて、その中からいろいろなアイディアが出たり実際のアクションに結びついたりしていく様なことが出来ればと思っております。
また、JICA九州がある北九州の地域の皆様との関係も大切にしていきたいです。