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【写真】消防司令長 尾花 博幸さん北九州市消防局総務部 訓練研修センター所長
消防司令長 尾花 博幸さん

今回の『「人」明日へのストーリー』は北九州市消防局 訓練研修センター所長の尾花 博幸さんのインタビュー記事です。
所長として研修に携わるにあたり、現在の熱い想いを語っていただきました。

尾花所長のご経歴
1977年:北九州市消防局に入局。
2000年〜2003年:予防部に在籍し危険物施設の許認可事務を担当した経験を生かし、
         JICA研修の「屋外タンク貯蔵所における火災防御」に関する講師を務める。
2005年〜2006年:JICA研修のコースリーダーを務める。
2016年:訓練研修センター所長として着任。

1988年より始まった消防研修も今年で29年目を迎えますが、海外から研修員を受け入れることになったきっかけについて教えてください。

【画像】JICA九州が北九州市に設立されることになり、消防庁とJICAより研修受け入れの打診があったのがきっかけです。消防関係では日本で初めての自治体単独での研修事業として、「消火技術研修」が開始されました。
ゼロからのスタートだったため、カリキュラムをどう組むか、講師は誰が担当するかなど、当時の研修担当者は大変苦労したと思います。
2014年より防災の要素が加わり、現在は「消防・防災研修」として実施していますが、これまでに79カ国247名の研修員を受け入れています。

北九州市消防局は全国の消防局のなかでどのような役割を担っていますか?

全国に約750ある消防本部の消防長で構成される全国消防長会において、北九州市消防局長が警防防災委員長を長年務めています。
この委員会は、警防技術や現場での安全性の向上と地震や風水害等の対応を目的としており、北九州市消防局は職員の安全管理対策や関連資機材を全国に広める役割を担っています。
また、火災現場で職員が怪我や殉職する等の事故が発生した場合に、今後の安全性を高める為の必要な措置を検討し、安全管理規定を作成して全国に周知するという活動も行っています。

コースリーダー時代の研修員との印象的なエピソードを教えてください。

元研修関係者がブルガリアの消防局を表敬訪問した際の記念写真

2005年実施の研修に、キリューさんというブルガリアの方が参加していましたが、彼は現在、消防局長に就任し北九州市で教わった消火技術や知識を自国で普及するため、指導者として活躍しています。
当時、大相撲のブルガリア出身の琴欧洲関が大関になるかもしれないという時だったので、キリューさんは「相撲を観に行きたい!」と熱望していました。消防庁長官表敬で上京する機会がありましたので、一緒に両国国技館まで行き相撲観戦して喜んでいただいたことを覚えています。研修期間中もキリューさんや他研修員とJICA九州で一緒にテニスをしたり、夕食を共にしたのも良い思い出です。
3年前に関係者がキリューさんを訪問した際、私のことを覚えていたようで「ボスは元気にしていますか?」と尋ねられたと聞いて大変嬉しく思いました。このような研修員との繋がりを今後も大切にしていきたいと思っています。

コースリーダーとして大切にしていたものは何ですか?

福智山の救助現場にて

15年前、出張所長をしていた時、部下職員8名と福智山に林道調査に出向したときの出来事です。山頂付近で小学生が心肺停止状態で倒れている場面に直面しました。早速搬送しようと思い、北九州市に救急ヘリの要請をしましたが、点検中で飛べないとのことでした。居合わせた救急救命士に救命措置の指示をしたのと同時に最寄りの福岡市にヘリの要請を行いました。幸いにも小学生は無事に蘇生した後、病院へ搬送され1か月後には通常生活に戻ることができました。
後日、教育委員会より感謝状をいただき、小学校で「命の尊さ」についての授業も行いました。消防生活30年で初めての出来事でしたが、日々の訓練を積み重ねたことにより、冷静に対応することができました。
この経験を基に、研修員には不測の事態においても、落ち着いて判断することの大切さと、実務訓練を重ねることの必要性を伝えるようにしていました。
また、北九州市消防局では新人職員に対して1から10まで懇切丁寧に指導する一方で、「教わったことを自身で理解する努力をし、先輩の後姿を見て覚える」大切さも教えていることから、研修員にも日本で学んだことを自分で噛み砕いて理解する努力をするよう指導していました。

研修受け入れに関わられたことで北九州市消防局の職員の方に何らかの変化や影響がありましたか。

【画像】消防の世界は「火事・救急・救助」だけだと思われがちですが、北九州市消防局が国際協力を30年近く行っていることを知り、それがきっかけで北九州市消防局に入局した職員もいます。今年の研修担当者である大場主査もその一人ですが、職員がJICAの研修に携わることで視野が広がり、指導者としてスキルアップする姿を目の当たりにし、我々が長年取り組んできたことは間違っていなかったと実感しています。

研修の内容について今後取り入れたいことはありますか?

訓練センターに飾られている過去のJICA研修員の記念写真やお土産

10年ぶりに研修に携わりますが、当時と比べ随分、内容が変わっていました。
以前は研修員が週末に消防職員の家にホームスティをしていたのですが、お互いのコミュニケーションが深まり研修にも良い影響を与えていました。
このようなより効果的な研修にするためのプログラムは、今後の研修にも再度取り入れていきたいです。
また、日本では阪神淡路大震災の教訓を活かして「緊急消防援助隊」という制度が出来ましたが、先日発生した熊本地震の際も北九州市消防局は翌日には1次隊を派遣し5次隊まで計160名の職員を派遣しました。こういった日本独自の制度も研修員に伝えていきたいです。
我々にとって人命救助は最優先事項ですが、従事する職員の安全を守ることも重要ですので、災害発生時はまず職員の安全管理を考え行動することも学んで頂きたいです。

国際協力・技術協力を通じた活動の期待について教えてください。

JICAの研修に携わっておられる、左より大場主査、尾花所長、武田訓練研修係長

現在、北九州市の国際協力事業で有名なのは「水事業」ですが、消防分野の国際協力はそれ以前から始まっています。
市民の皆さんにも消防分野における国際協力の取り組みについてもっと知っていただくため、今後は帰国後の研修員の活動についても消防局からのサポートをより綿密に行い、技術面だけではなく消防車等の日本の優れた資機材も民間企業と連携して、世界各地に広める活動にも積極的に取り組んでいきたいと思っています。
コースリーダーとして研修を担当している時は、とにかく一生懸命研修をこなし、研修員に満足して帰って欲しいという思いが強かったのですが、今回所長という異なる立場で研修に再び携わることになり、各国の消防機関から「北九州市消防局から我が国の事後サポートに来て欲しい」と要請がくるような研修が提供できるよう取り組んでいきます。

【編集後記】
今回のインタビューは尾花所長が自らお纏め頂いた「消防分野のJICA研修変遷」を元に、約30年つづく研修の歴史の重みを知る時間となりました。
北九州市の消防技術が、今後も世界各地で役に立つことを切に願います。
尚、「消防・防災」コースは本年度は9月から約2か月間の予定で開催されますが、研修の集大成として習得した消火技術に関する実技を披露する「総合訓練展示」を11/24(木)に実施予定です。
改めてJICA九州のHPにて見学希望者を募集しますので、ぜひご参加下さい。