長崎から世界に役立つ保健医療システムを

【写真】平岡久和さん長崎大学国際連携研究戦略本部熱帯医学・グローバルヘルス研究科
平岡久和さん

今回の『「人」明日へのストーリー』はJICAから長崎大学へ出向されている平岡久和さんのインタビュー記事です。
JICAの研修は、各国の研修員を受け入れ、日本での研修を実施するためにJICAの職員やスタッフの他にも、実際に研修を運営する研修委託機関、研修運営の責任者となるコースリーダー、研修に同行・通訳等を担当する研修監理員、そして見学先や、講師など、さまざまな方々のご協力のもとに成り立っています。
今回は、研修実施の要となるコースリーダーとして、保健医療分野の研修「感染症対策行政」や「アフリカ地域 地域保健の担当官のための保健行政(B)」に携わる長崎大学の平岡久和さんにお話をお伺いしました。平岡さんはJICAから長崎大学へ出向し、大学教員として学務を担うとともにJICA研修を支えてきました。もうすぐ長崎での任期を終えられるということで、ご担当された研修や長崎での思い出についてお聞きしました。

略歴
2000年にJICA入社。看護師、保健師の資格を活かし、主に保健医療分野の業務に携わる。人間開発部、JICA東京、フィリピンにあるWHO西太平洋地域事務局などの勤務を経て2015年から長崎大学へ出向。教員としての研究、指導だけでなく、大学における国際活動の推進や、JICA研修の実施を担当。

長崎大学へ行かれたきっかけを教えてください。

長崎大学への出向はJICAの人事異動です。9年ほど前に初代の方が出向されてから私で4代目です。特に長崎にこだわっていたわけではありませんが、なるべく様々な経験がしたいと思い、大学を含めて他の組織への出向の希望はいつも出していました。
学生時代も社会人になっても日本にいる場合はずっと東京にいたので、地方に長期で住むのは長崎が初めてです。長崎での生活は自由で楽しかったですよ。出向先の国際連携研究戦略本部では、国際化をどう進めるか、ODA事業だけではなく他の大学との連携やTICADに関わったり、大学院では援助について教えたりしています。実際に学生に講義を行う機会は多くないですが、論文指導に審査、教授会に出たりするなどの学務が半分で、JICAの研修コースを含めた国際事業の業務が半分ぐらいです。

長崎での研修を担当されていかがでしたか? 

JICA九州の案件担当の中野由美さんと。
研修員の選考に始まり、無事研修が終了するまで、案件担当とコースリーダーは2人3脚で研修を準備運営していきます。

アフリカ地域の地域保健の研修は、以前は全世界対象の地域保健研修を行っていたので、その流れをくんだ上で、アフリカのフランス語圏向けに同様の研修を行うことになりました。長崎県では、離島医療や遠隔地医療が進んでいて、私自身としてもそういったところを直接見られるし、開発途上国のアフリカの人たちが、そこを見て自分たちの状況と比べて、どのように自国では活かせるのかというところを議論されているのが面白いところだと思います。毎年、五島の離島の病院を見学していますが、研修員も環境としては首都などの医療施設が集まっているところから遠いところで、どうやって地域の人たちに健康のサービスを提供するかを課題としており、長崎県の取組みが参考になりますね。限られた資源を必要なところにいかに振り分けてサービスを提供していくかが考えられると思います。
感染症対策の研修は、長崎大学が1942年から熱帯医学研究所の前身となる組織ができているので、感染症の研究・対策で実績があり、研修を受け入れている経緯があります。県では地域での寄生虫を含めた感染症を克服した歴史もあり、この点でも長崎は研修を行う現場として非常に適しているところだと思います。この研修は、JICA東京で勤務していたとき、案件担当者としていて関わっており、それをコースリーダーとして実施する側の立場で携われたことは非常に面白かったですね。

逆に大変だったことはありますか? 

2015年の研修にて、研修員とともに結核検診車を視察。

コースリーダーは、研修がスタートしたら、基本的にずっと研修に同行しています。時間的拘束が長いので、そこが大変というところはあります。研修が始まる前もさまざまな外の機関の方々にもお世話になっているので、どういうふうに伝えて、調整していくか、向こうのご都合とかも確認しないといけないので、そこは結構大変だったりしますね。

研修を担当されて印象に残っていることはありますか? 

外部の講師によるワークショップでも研修員の行動に気を配り、意見を確認。

感染症対策へのエジプトからの研修参加者が、長崎大学の熱帯医学・グローバルヘルス研究科に留学してきました。それはJICAのABEイニシアティブ*1の枠組みで入ったので、長崎大学を研修で知ってもらって、さらなるステップアップというかたちで、日本を、そして留学先として長崎大学を選んできてくれたことはうれしいです。もう1人ガーナの方も、9月にJDSプログラム*2で来る予定です。短期の研修を通じて、つながりがつくれるのが面白いところですね。

長崎大学での勤務を振り返っていかがですか?

長崎大学はJICAの出向先の中では保健医療が活発なところなので、JICAの研修だけでなく、技術協力プロジェクトや、国際緊急援助隊感染症対策チームなどさまざまなかたちで関わりがあり、自分の専門性を活かしたところでいえば一番良かったです。
この研修に限らずコースリーダーは研修テーマの専門性をもっていないといけないと思いますが、なかなか大学が研修を受入れるとなると、そういった人材はいれども時間の確保が難しいところがあり、ちょっと悩ましいところですね。どうやったら、大学のノウハウも使いつつ、研修を実施する大変さを減らしていけるのかなと。そういった意味で、先ほどお話しした2人のように、研修を経て、大学に入ってもらえると、教育、事業、彼らが母国に戻った後に共同研究をやるなど可能性が広がります。事業と教育と研究が一体となりつながっていけば、大学としてもメリットがあって、フィールドとしても彼らの場所があって、いろいろつながりができるという風に考えられれば良くなっていくかなと思っています。

*1 ABEイニシアティブ:JICAが行っている「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ」による修士課程とインターンシッププログラム
*2 JDS(人材育成奨学計画):JICAが行っている無償資金協力による留学生受入プロジェクト

8/10に行われた保健医療分野の勉強会の様子。
参加者は熱心に聞き入っていました。

【編集後記】
高校生のころから感染症に興味があり、大学、JICAへの就職とずっと保健医療の分野に関わってきた平岡さん。インタビュー当日にJICA九州で行われた研修監理員向けの保健医療分野の勉強会でも講師を務められました。日本や世界の保健医療についてのわかりやすい説明は、九州だけでなく、TV会議での参加となったJICA東京やJICA関西、JICA中国でも大変好評だったそうです。日本の感染症の歴史からご自身の研究テーマであるラオスのメコン住血吸虫や日本海裂頭条虫など、マニアックな微生物や寄生虫についても熱くそして楽しく語られていて、感染症について新たな興味がわいたインタビューと講義となりました。新天地はまだ決まっていないそうですが、さらなるご活躍をお祈りしています。