JICA研修員(「南米地域生産性向上実践技術」コース)
ロベルス・ダリオ・アルダス・ヌニェスさん
今回は、JICA九州で実施している研修コースにエクアドルから参加しているロベルス・ダリオ・アルダス・ヌニェスさん(30歳)に研修のこと、日本のこと、帰国後のことを語っていただきました。
Q まずは、どんな研修に参加しているのか教えて下さい。
A 南米を対象とした生産性向上のためのマネージメントを学んでいます。理論と実践(演習)面の組み合わせが大変よくできています。特に、講師陣が理論だけの専門家ではなく、産業界、実業界で実際に教科書に書かれている手法を実践してこられた方で、かつ人生経験も豊かな方である点が魅力です。
研修を受ける側も少数精鋭で、グループに分かれて、皆熱心に演習に取り組んでいます。ある企業に行き、短時間で改善提案を行うという演習は大変勉強になりました。自国では、分析に時間をかけすぎるきらいがあるからです。
研修ではスペイン語が用いられており、英語を使うよりも効果的です。一般的に、母語でない言語を用いると失われるものが多くなります。英語で行ったとしたら、中身の深い理解に至るのは困難でしょう。*1
Q 母国ではどんな仕事をしているのですか?
A アンバト市(首都キトから南に110キロメートル、人口30万のエクアドル第4の町)にあるプロドゥテクスティ(Produtexti)という国内の中低所得者層向けに下着を縫製している企業で、生産管理や生産現場での業務を担当しています。当社も含め、家族経営の企業が多い地域で、また、起業家が多いことでも知られています。そのため、失業率が高く、国外への出稼ぎが多いエクアドルの中でも、そのどちらもが低いのが当地域の特徴です。
Q 日本に研修に来ることになったきっかけは?
A アンバト市のあるトゥングラワ県において、研修コースの案内が各企業にあり、自社ではオーナーの推薦で自分が候補者となりました。信頼できる社員とみなされて感銘すると同時に、責任の重さも感じました。この機会を無駄にしないよう決意しました。*2
Q 研修を離れて、日本一般の印象についてはどうですか。
A アメリカとエクアドル周辺の中南米諸国はかなり訪れた経験がありますが、西半球を出るのは今回が初めてです。来日時、経由した某国の空港では、質問しても通りいっぺんの対応で人間味があまり感じられませんでしたが、成田空港での対応は親身で、外国にいることを忘れさせてくれるほどでした。日本は交通手段が高度に発達し複雑であるにも拘らず、今まで迷ったことがありません。英語で質問すると、たとえわからなくても、できる限り助けようとしてくれます。
来日前のイメージでは、日本人は形式的で社交的でないというイメージでしたが、来てみて、フォーマルではあるけれども、明るく陽気な人たちだとわかりました。法や規則を遵守すること、他人に対する敬意の念等から、市民の文化度の高さが窺えます。自然環境を守る努力、自然に対する思いやりの心は、他国では日本ほど高くないと思います。森が多く残っていて、管理が行き届いています。高い文明の利点を活かしながらも、美しい自然と共存しているといえます。
また、高齢者が元気で活動していること、高齢者に敬意を払っていることも感じます。研修コースの講師も、第一線を退かれた後も、精力的に活動されている方々です。
マイナス面としては、西洋化の程度が行き過ぎているのではと感じられることです。自分と同世代の若者は飲んで騒ぐのが好きで、伝統を失ってしまって日本人らしくなく、年配の世代と対照的な気がします。一方ラテンアメリカでは、世代が変わっても、行動様式、価値観はあまり変わらないと思っています。
今、研修と日本を知るという両面でとても充実した生活を送っています。
Q 残念ながら、日本では、エクアドルは南米の中でもあまり知られているとは言えません。日本の一般市民へエクアドルを紹介して下さい。
A 国土は小さいですが、地政学的に重要な位置を占めています。エクアドルの港からペルーを経由し、ブラジルへ通じる道路を建設する構想があります。もし実現すれば、アジアの物資を南米全体へ輸出する際の大動脈になるのではと思っています。
観光資源が豊富で、海、山、森等多彩な景観が見所です。ガラパゴス島も有名です。
食料自給率が高く、バナナの輸出は世界一です。カカオは質の高さでは世界一といわれ、スイスのチョコレート業者に重宝されています。エビ、マグロ等の海産物、そして石油も輸出されています。
1999年から通貨が米ドルとなったことにより、経済の安定化が得られ、輸出が奨励されました。
Q 休日には各地を旅行しているそうですが。
A 長崎では、訪れたがっていた母国の家族や友人の名前を書いて写真を撮って送ったら、すごく喜ばれました。奈良では公園を歩いていたら鹿が寄って来て手を撫でられました。とても日本的精神を感じさせる瞬間でした。
Q 帰国後の活動予定、そして将来の夢を教えて下さい。
A まずは、研修で作成するアクションプラン(行動計画)*3を実行に移していくことが責務です。
10年後には故郷アンバト市の市長になる計画を持っています。エクアドルには、変革のためには、自分が政策形成に関わらないといけないと考えるからで、学生時代からの夢です。世界に開かれた町にするとともに、市民の考え方も変えていきたいです。選挙活動資金もないし政党にも属していないので、自分の政策を理解してもらうしかないと思っています。市長になったら、若い世代の育成の面でJICAの協力をお願いするつもりです。かつての研修員からの要請だから当然協力してくれますよね(笑)。
Q 日本そしてJICAへのメッセージをいただけますか。
A 日本の優れた習慣、価値観を年輩の世代から若い世代に伝えてほしいと思います。着物姿の人は地方ではまだ見られますが、東京ではほとんど見かけません。
日本自身の問題もあるでしょうが、これからも途上国への協力は続けてほしいです。日本の知識、経験は活かすことができます。JICAの人を育てるという協力方法は正しいと思います。研修員受入制度は、途上国が問題解決をする種を植え付けることになります。日本は、天然資源もない中で共通の目標を持って努力して豊かな国を造りました。母国は、個人主義的傾向が強く、国民の合意形成を行うことが難しい土地柄ですが、チームワークが生まれれば、いろいろと広げていけるので、まずは自社内での取り組みを始めたいと思っています。
*1 異なる地域からの研修員が同じグループで研修を受ける場合は英語を媒介とする場合が多いですが、例えば多くの中南米諸国では十分な英語力を有する人材が必ずしも多くないため、スペイン語を媒介として使用し、研修の理解度を高めるようにしています。
*2 ダリオさんが参加している課題別研修と呼ばれるタイプの研修では、研修コース毎に決められた割当国に対しJICAから募集要項を送付し、相手国政府が推薦した候補者の書類をJICAに提出します。JICAでは研修実施機関と相談し、適格者の受入を決定します。
*3 課題別研修の多くでは、研修員は、研修で得た知識、技能等を帰国後どう活かす(普及、改革等々)かを、講師の指導を受けつつ行動計画にまとめることになっています。
(話を終えて)
大変真摯でかつ哲学的な面も併せ持つダリオさんでした。日本全般について、それから研修内容についても、リップサービスはあるにせよ、好意的な印象を持ってくれているようで、研修マネジメントを担当する身としてひとまずはほっとしました。(もちろん、その多くは、研修講師を始めとする実際に彼らの身近にいてJICA事業を支えていただいている方たちのご尽力の賜物ですが。)自国、故郷の将来について、これだけ語れるビジョンを持っている点は我々の学ぶべきところではないでしょうか。
このホームページを見て、直に彼らと話してみたいと思った方は、是非一度JICA九州へ足を運んでみて下さい。彼らも日本の市民の皆さんとの交流を待っています。
JICA九州 研修業務課 太田雅章
JICA九州内での研修のひとコマ
研修コースの仲間とともに演習に参加中