グローバル人財育成−地方都市から世界へはばたけ!

【写真】富山隆志(とみやま たかし)先生宮崎県立延岡工業高等学校 校長 
富山隆志(とみやま たかし)先生

夢と希望与える教育を

2011年度教師海外研修アドバンスコースでルワンダを訪れた時の様子

シンポジウム会場にて(右端が富山校長)

「夢と希望を与える教育を行い、それが高い志を育み、使命感を持つことになります。そして覚悟を決め、
それが行動力につながってどんなことにも耐える力になります。できるだけ早い時期に海外を経験させた方がいいでしょう。人のために尽くすような教育、文部科学省が進めるESD教育(持続可能な開発のための教育)がこれから求められる課題」後述するグローバル人材育成シンポジウムでの宮崎県立延岡工業高等学校の富山隆志(とみやま たかし)校長の発言のひとこま…。

JICA九州は、九州各県の教育関係者を対象に、毎年夏休み期間中約10日間、教師海外研修を実施しています。JICA事業が行われている開発途上国にて国際協力の現場を視察し、日本ではあまり知られていない開発途上国に対する理解を向上させ、帰国後に教育現場でこの体験の生徒を中心に還元してもらうことを目的としたものです。

富山校長は、2011年JICA九州の教師海外研修プログラムでルワンダとシンガポールを訪問しました。
「ルワンダでは民族対立で70万人が殺害されました。内戦が終わり、カガメ大統領の下で、敵同士だった親の子や孫が一緒に教育を受けています。心の爪痕は深いですね。情報通信技術を活用して国興しはできないか、そのために教育の果たす役割、民族和解を進める教育をJICAに提案することが主な目的でした。」

延岡で初のシンポジウム

先生が取り組んでいるホタル再生事業でのホタルの様子

「やっちみらんけグローバル・身近なところのグローバル~地方都市から世界へはばたく人材育成を考える」が5月25日、延岡市カルチャープラザのべおかで開催されました。
JICA九州主催。市民、教育関係者、企業関係者など約400人が参加し、講演やパネルディスカッションをとおしてグローバルに活躍できる人材を地方都市から生み出すことの大切さや、地域の活性化につなげるかについて考える機会となりました。

今回の人材育成シンポジウムは、教師海外研修に参加した富山校長が、シンガポールで行われている国際人養成事業に衝撃を受けたことがきっかけとなって開催が決まりました。

プログラムは2部構成で、前半では旭化成株式会社・取締役・水永正憲(みずなが まさのり)氏、JICA青年海外協力隊事務局長・武下悌治(たけした ていじ)氏が講演。後半は、「地方都市においてグローバル人材育成にいかに取り組むか」をテーマにしたパネルディスカッション。1986年から2年間助産師としてモルディブに派遣された協力隊OGで、現在宮崎大学医学部看護学科で講師を務める永瀬つや子(ながせ つやこ)さん、中国大連に進出している清本鐵工株式会社の清本邦夫(きよもと くにお)専務取締役、そしてシンポジウム提案者の富山隆志校長の3人が登壇しました。
宮崎・延岡という地方でグローバル化をどう進めるか、明るい未来の展望について、富山隆志校長は、「孤立した県北地域がこれから生き残っていくには、変化が必要、そしてその変化に対応していくことが大事」だと話されています。

ホタルに興味を持ち、美しいホタルの写真を撮り続けている富山校長。「美しい水と環境を守りながら変化を敏感に受け止めることを子供達に伝えたい。延岡には多くの教育支援を受ける環境が整っている。結果的にふるさとを思う子供達が育ち、地域を好きになるのだと思う。」と話し、「故郷に感謝し大事に思う若者が途上国で役立ち活躍する人材になる」と語られていました。

モノづくりへの思い

モノづくりの街延岡で育った富山校長のモノづくりへの思いとは…?
「地方都市である延岡は豊かな自然環境を守っています。脈々と地域が一体となって人材育成を図り世界最先端のモノづくりを行っています。これはとても魅力的なグローバルモデル。この魅力に気付いて世界に発信すれば、もっと人的交流が生まれ県北地区の産業が育ち、地域全体が成長するのではないでしょうか。
今までの日本は、先輩方が世界中で競争できるモノづくりの技を磨き、人的ネットワークを構築して豊かになってきました。しかし今、日本は少なからず内向き志向が増えてきており、彼らに太刀打ちできません。このままではいけないと直感的に感じました。この危機感を共有してもらいたいのです。」

世界が身近に感じるタイトル「やっちみらんけグローバル」

タイトルとなった「やっちみらんけグローバル」は5種類あった候補の中から延岡工業高校の生徒達が選んだそうです。「生徒の心にふるさとを思う気持ちが強いことを改めて感じ、嬉しくなりました。県北地域は環境形成志向。人に優しく、生物に優しい持続可能な社会づくりができる人がいて技術があります。グローバルモデルになる機運の醸成を図ることを強調したいです。」

民間連携ボランティアについて

JICAが創設した「民関連携ボランティア制度」。社員が企業に在籍したまま、企業のニーズに合った国でボランティア活動ができます。中小企業は社員が協力隊に参加している間、人件費補填制度を利用できますし、数名でも可能です。
この制度について富山校長は、「派遣された社員は途上国を支援しながらグローバルな視点を学び、同時に現地の文化、商習慣やニーズを調査して帰国後に海外進出の足掛かりにすることができます。数名だと組織的に事業展開ができます。画期的です。これからは大企業だけではなく、大企業を支える視野の広い地域の基礎基盤技術を持った中小企業がグローバルな人材を育成していくことが地域産業の成長は雇用を守り、人材流出を防ぎ、少子高齢化の歯止めになり大事だと思います。そのためにこの制度を勧めたいと思っています。」と語られていました。

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富山校長は全てを全力で取り組む大変熱心な先生。
ご自身も出発点は趣味と好奇心、とおっしゃる通りで、大変広い視野、先見の目で挑戦し続け、多くの教育者、企業関係者に刺激を与えている先生です。
生徒からも大変人気があり、校長室には生徒さん達からの作品が飾られています。
そんな富山校長のような熱心な先生方が、今後のグローバル人材育成事業のキーパーソンになっていくことを期待したいと思います。そうした先生方の意思を引き継いだ生徒たちが将来、地方都市から世界へはばたく人材として増えていくことで、ますます地方が元気になることでしょう。