2019年10月30日
ラオスで活躍中のJICA海外協力隊の有志が集まり、首都ビエンチャンの廃棄物処理を勉強するため、処分場見学を実施しました。JICAは無償資金協力で中継基地の整備を、技術協力で中継基地と最終処分場の運営管理の支援を行いました(注)。
2019年7月6日
KM16 廃棄物輸送中継基地(Waste Transfer Station、以下KM16)
KM32 廃棄物最終処分場(Final Disposal Site(Landfill)、以下KM32)
ラオスの首都ビエンチャンの人口は約80万人(2015年)で、毎日およそ350~650トンものごみが発生している。一人1日あたりに換算すると650グラムである。そのほとんどが埋め立て処分されているが、近年はペットボトルなどのプラスチック容器や製品、アルミ缶などの金属類と言った自然に分解されないごみが増え、問題になっている。
特にラオスでは、多くの人がペットボトルの水を買って消費している。そのため、廃棄されるペットボトルの量も多い。ペットボトルも含めたプラスチックごみの廃出量は全体の6.1%を占めている。
現在、首都ビエンチャンの廃棄物最終処分場はKM32のみである。市内の道路は道幅が狭く大型コンパクターでの収集ができないため、小型コンパクターを用いて収集を行っていた。そのため、KM32まで片道約1時間かけて運搬するという非効率な収集・輸送方法であった。
そこで、KM16に輸送中継基地を設置し、大型車両に積み替えてKM32へ運搬を行うことにより、収集効率の向上に取り組んだ。
本施設はビエンチャン市都市管理局(Vientiane City Office for Management and Service、以下VCOMS)により運営管理されている。
ごみ収集及び処分にかかる費用は各家庭が負担しており、1カ月の料金は25,000~40,000KIP(約300~500円。回収業者によって異なる)である。ごみ処理費用は全て、市民から集めた費用のみで賄われている。
首都ビエンチャンのごみ問題に対して、大阪市の地球環境センター(GEC)と、環境先進都市である京都市が共同して草の根技術協力事業として「ビエンチャン市における市民協働型廃棄物有効利用システム構築支援」を行った(注)。
2015年から2018年の3年間実施されたこの取り組みでは、首都ビエンチャン内で4つのモデル地区を定めて3種類の回収方法を試みた。1)行政による収集、2)拠点回収、3)コミュニティ回収の中で最も仕組みが簡単でコストの掛からない「コミュニティ回収(回収日にあわせて住民が施設に資源ごみを持ち寄る方法)」が採択され、曜日を決めて学校に資源ごみを集め、リサイクルセンターに売ることでコミュニティに収益が上がる仕組み作りに取り組んだ。さらに環境教育にも力を入れ、子供たちも含めて住民の人たちの意識改革も行った。
家庭から排出される一般廃棄物の収集率は、首都ビエンチャン中心地でも50%ほどに留まっており、残りは各家庭で野焼き又は投棄されているのが現状である。
KM32では手作業で資源ごみが取り除かれた後、埋め立てられている。ラオスでは食品ごみの割合が多い、雨期になるとごみが雨水を含むなどの理由から、焼却処分が難しく、現在ほとんどの一般廃棄物は埋め立て処理されている。コンポストで食品ごみを処理できるようになるのが理想である。
日本ではごみの種類に関わらず、事業活動で出たごみを産業廃棄物と呼ぶが、ラオスでは一般廃棄物と産業廃棄物の回収・処理は区別されていない。
例)床屋さんから出る髪の毛、食品加工工場の揚げ油、業務用の梱包資材など
医療廃棄物は環境省省令によると、有害廃棄物の1つとして分類されている。注射針や血のついたガーゼなどの感染性廃棄物が多く含まれるため、一般廃棄物と分けて回収され、KM32のピットや医療廃棄物用焼却炉にて処分される。
首都ビエンチャンでは、浄化槽汚泥を一般ごみと分けて回収しており、KM32にある浄化槽汚泥専用の区画に埋め立てられている。なお、キッチン排水等の汚水はそのまま水路に流されている。
ビエンチャン近郊の開発が進み、湿地帯の減少により自然浄化能力が低下してきているため、食物汚染や、人々の生活用水としての利用による人体への被害が懸念されている。
現在ラオスでは3R(Reduce Reuse Recycle)から4R(3R+Refuse)へのシフトが期待されており、竹や金属でできた再利用可能なストロー、バナナの葉を用いた野菜の簡易包装など、プラスチック製品を使わない取り組みが行われている場所も徐々に増えてきている。(外国人経営のカフェ、外国資本のスーパーマーケットなど)
施設名称 | 廃棄物輸送中継基地 KM16 Waste Transfer Station |
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所在地 | Nahai Village, Xaysettha District, Vientiane Capital |
竣工 | 2016年1月29日 |
施設規模 | 中継基地棟:2階建、延床面積1,113平方メートル |
関連施設 | トラックスケール管理棟、進入車路、トイレ棟、洗車場、駐車場、場内道路など |
収拾車両機材 | コンパクタートラック(20立方メートル 3台、10立方メートル 16台、6立方メートル 17台、6立方メートル(4WD) 4台) ダンプトラック(10立方メートル 2台) スキップローダー(5立方メートル 4台) 医療廃棄物用収集車(1台) |
JICAの協力事業の名称 | 無償資金協力「環境的に持続可能な都市における廃棄物管理改善計画」(注) |
KM16は首都ビエンチャン中心部から約30分程度の郊外に位置し、大型のコンパクタートラックなどの廃棄物運搬車両が配備されている。
首都ビエンチャンでVCOMSが実施する収集車両のほとんどが、JICAの無償資金協力により供与された。VCOMSによると約50名のドライバーが収集にあたっているが、前述の通り回収率は市内中心部でも50%に留まっており、地方は未だに野焼きによって処分されているのが現状である。
VCOMS及び民間業者から小型車両に乗せて運ばれてきた市内のごみは、トラックごと計量機に乗せられ、重さを記録されてから処理場内に降ろされる。
その後、空になった状態でもう一度車体を計量機に乗せて、その差分がごみの重量としてコンピューターで集計されている。住民から収集料金を回収した民間業者は、VCOMSに対してごみの量に応じた処理料金を支払う仕組みとなっている。
運ばれてきたごみは投入ホッパーに投入される。貯留ドラム(回転式ドラム)及び排出コンベアを使うことで、圧縮式の大型車両に効率よく積み込むことができる。
施設名称 | KM32廃棄物最終処分場(Final Disposal Site:Landfill) |
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所在地 | Naphasouk Village, Xaythani District, Vientiane Capital |
敷地面積 | 100ha |
計画埋立面積 | 46ha(うち埋立数量面積18ha,39%) |
計画埋立容量 | 約337万立方メートル(うち埋立終了は108万立方メートル,32%) |
埋立開始 | 2008年1月 |
埋立期間 | 21年(2029年埋立終了予定) |
埋立機材 | ブルドーザ(21t) 1台、ほか |
場内施設 | 管理棟、トラックスケール、搬入車路、医療用廃棄物用小型焼却炉、浄化槽汚泥処理施設、資源ごみリサイクルセンターなど |
首都ビエンチャンの一般廃棄物は、全てこのKM32で埋め立て処分されている。2019年現在、KM32の計画埋め立て容量の39%が使用済であり、2029年以降の埋立予定地は未定である。
埋立地が枯渇する前に新たな最終処分場を建設するか、処分場を少しでも長く使えるように廃棄物の資源化・減量化に努めることが必要である。
2017年の1年間のごみ搬入量は1日約312トン、年間約113,800トンである。ごみ搬入量は年率17%で急激に増加しており、10区画に分けられた埋立計画地(1辺200mの正方形)のうち4区画分までの埋め立てが終了している。
市内の病院やクリニック等から排出される感染性医療廃棄物(HCW=Health Care Waste)は2種類に分けることができる。病院で無菌化されたものは専用の袋に入れた状態で回収してそのまま埋め立てられ、それ以外の感染性廃棄物は、焼却炉で無菌化処理したあと埋め立てられている。
医療廃棄物は専用の焼却炉で焼却処理されており、KM32では、1基が既に稼働中、もう1基は現在建築中である。
1基目の焼却炉のキャパシティは60kg×1日2~3回で、クリニックが年々増え続けているビエンチャン特別市には処理能力が追い付いておらず、JICAの活動で2基目を設置することとなった。1基目は廃炉にせず、ごみの量に合わせて今後も稼働される予定である。
参考:
加山興業株式会社(愛知県)がJICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業を活用し、医療廃棄物処分用の焼却炉に関し、既存のものより大きな新焼却炉を設置中。
(普及・実証・ビジネス化事業「ビエンチャン市における医療廃棄物を含む有害廃棄物処理・管理改善に向けた普及・実証事業」(2018.12~2020.08))(注)
首都ビエンチャンでは下水道が普及していないため、トイレ排水は浄化槽で対応している。VCOMSのバキュームカーで汚泥を引き抜き、ここにある浄化槽汚泥処理施設で埋め立て処理を行っている。
市内で回収された資源ごみや、処分場で回収された資源ごみを、資源ごみリサイクルセンターで分類、裁断、洗浄した後、リサイクル業者に出荷している。
<ペットボトル>キャップとラベルを分離してシュレッダーで粉砕し、フレーク状にしてから水で洗浄。
<プラスチック類>場内にある圧縮機で長方体のベールと呼ばれる塊の状態にして売却。白色ボトル、有色プラ、平織りプラ袋、白色プラ袋、有色プラ袋などに分別され、有色プラスチックは更に色ごとに細かく分類される。
<金属類>鉄、銅、アルミなどに分別。
<紙類>段ボール、オフィス用紙などに分別。
KM32で分別回収される資源ごみの取扱品目は10品目を超え、ベトナム、タイ、中国などの近隣国に売却されている。
ほとんどの資源ごみが分別されることなくKM32に集まるため、食品ごみ等で汚れてしまうことが多く、そうした資源ごみは資源としての価値が下がるため、近隣国に買いたたかれているのが現状である。
大口の買い手である中国が、リサイクル化されたペットボトルの輸入禁止を検討しているため、資源ごみの出口戦略を検討する必要がある。ラオス国内で加工、付加価値化し、先進国へ輸出できるようになるのが理想である。
KM32には、Waste Pickerと呼ばれる人々がいる。集積されたごみの中から資源ごみを拾い集めて中間処理し、リサイクル業者に売ることで生計を立てている。大人から子どもまで年齢は幅広く、出来高制の仕事であるため、長時間作業する人たちの中には公務員より高い収入を得ている人もいる。
ペットボトルの仕分け作業は10袋で10万KIPほどであり、1日あたり1人6袋ほどの資源ごみを回収することができる。
首都ビエンチャンで排出される廃棄物の内訳は以下の通りである。
※家庭ごみは有機物類に含まれる。
一般ごみは、10区画に分けられたグリッドに順番に投入され、その上から土砂をかぶせて圧縮することで空気を抜き、自然発火リスクを抑えている。しかし、雨期になると各グリッドへの搬入車路がぬかるみ十分な整備が行えていない。2018年3月には自然発火により処分場で広範囲にわたる火災が発生した。
ごみの圧縮には大量の土砂を必要とするが、首都ビエンチャンは周辺に山が少なく、土砂の確保が難しい。(ラオス北部のルアンパバーン県の埋立地は、周辺を山に囲まれているため、土砂を確保しやすい。)
回収されたごみは水分を含んでいるため、浸透水が発生する。数年前までは浸透水はそのまま隣の田んぼに流れていたが、現在は集水池(Septic Tank Treatment Oxidation Pond)で自然浄化し、無害化することでKM32周辺の環境汚染を防いでいる。
JICAの技術協力、「JICA-ASEAN連携ラオスパイロットプロジェクト 環境管理コンポーネント」(注)により、以下の状況が改善された。
参考:
現在、ビエンチャン特別市、ルアンパバーン県、ボリカムサイ県など、首都及び地方都市で埋立処分場や焼却炉などが作られているが、ごみ処理機能を持たない地方都市にはごみ山ができ、回収もされない山間部ではダイオキシンが発生するプラスチックごみもまとめて焼却処分されているというのが現状である。そのような場所は常に環境汚染や自然発火による森林火災などの危険に晒されているが、それらにはごみ処理に関しての法・規制整備が追い付いていないことも原因の一つであるといえる。
ごみ焼却の際にエネルギーに変換する工場(バイオマス発電)を整備する計画があるが、予算不足のため導入が難しい。また、導入できたとしても、設備を運用/維持管理するための資機材の調達がラオス国内では難しく、また、設備の維持管理に必要な技術を持っているラオス人が少ないことが課題となっている。
環境問題、ごみの分別、3R及び4Rなどへの関心が薄い、又は知らないことから、環境に対する取り組みが個人レベルで行われることが少ない。行政が処理能力の拡大を図ると共に、生分解性を持たないごみのポイ捨てや有害物質を発生するごみの焼却を行わないよう、国民レベルでの意識変革が必要である。
以上
※本報告書はJICA海外協力隊有志によるもので、JICAの公式見解を示すものではありません。
(注)首都ビエンチャンの廃棄物管理に係るJICA事業