SMASSE中央研修の実施を通して見えたマラウイの問題

2016年10月24日

中等理数科教育強化プロジェクト 高橋 哲哉 専門家(理数科教育)

2016年10月3日〜7日の5日間、ドマシ教育大学にて中等理数科教育強化プロジェクト(SMASSE)の中央教員研修が実施されました。この研修は全国からやってきた地方講師と呼ばれる教員に対して行われるもので、研修参加者は12月に各地で実施される予定の地方研修にて、今度は講師を務めます。SMASSEでは、このように2段階の「カスケード方式」と呼ばれるシステムで、最終的に全国のすべての中等理数科教員に研修内容を伝えるという方法をとっています。そして、日本人専門家としては、研修実施に際し、マラウイ教育省のオーナーシップおよび自助努力を尊重し、先方の自発的な活動を促すような働きかけを行っているため、様々な問題に直面することがあります。

例えば、研修の運営面では、研修実施に必要なお金が出される手続きに遅延が起こりました。結果、参加者への開催通知が実施の直前となってしまい、参加人数は例年よりもやや少ない約200人となりました。SMASSEでは、プロジェクト終了後の活動持続性を考慮し、教員研修はJICAの支援によらず、予算面を含めて現地教育省が自力で実施することになっています。従って、予算執行手続きの遅れは即、研修実施の延期を意味します。それでも専門家としては、先方政府の自立を助けるため、辛抱強く待ちつつ、技術支援を続けなければならないのです。

また、このような実施運営面とは別に、今回の物理科学セッション(単元:核物理学)を監督した教科教育専門家の観点からは、少し専門的になりますが、以下のような問題点を発見しました。

  • 参加者の間では、「γ線の放出で核子数には変化がないのに『γ崩壊』という言葉は適当か」「β粒子の記号を指して『β線』と呼ぶのは適当か」といったような概念や言葉に関する些末な議論が多く、しばしば研修の進行が中断されてしまいました。これは言葉の定義の問題なので、教科書を確認することで解決します。
  • 放射線の磁場中の曲がり方を既習事項であるフレミングの左手の法則により説明するところでは、生徒がその説明方法を学習するようなシラバスになっていないという問題が見つかりました。つまり、生徒にとっては、法則を実際の現象に適用するという科学的思考を養う機会を一つ失い、代わりに暗記事項が一つ増えるだけになっているのです。このように、既習理論と新知識との断絶があり系統性が失われているという、カリキュラムの問題もありました。
  • 核崩壊に関する現象(放射性崩壊、核分裂など)を説明するところでは、風船の破裂でシミュレーションし、「爆発」という言葉を用いており、「核崩壊」と「爆発」「破裂」の概念の混同が見られました。実際には、「爆発」は核崩壊そのものではなく、それによって引き起こされ得る(引き起こされない場合も多い)連鎖反応によって起こる現象です。

このように、一回の教員研修の中でも、この国の抱える理科教育の問題、運営面の問題など、様々な問題が浮き彫りになりましたが、一つ一つ地道に対処していく中で、参加者の教科知識のみならず、授業技術にも着実に研修の成果が出つつあります。それは参加者に対して研修前後に行う小テストの結果や、研修後の授業観察による評価でも確認されています。

SMASSEの専門家はこのような課題に日々取り組み、マラウイ教育の質向上を目指しています。

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生物セッションの様子(栄養素の検出)

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物理科学セッションの様子(磁場中の放射線の曲がり方をフレミングの左手の法則で説明する参加者)

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中央講師に指導する筆者(左)(磁場中の放射線の曲がり方について説明)