マラウイ点描「マラウイでの水力発電所建設事業を通じて見える展望と課題」

2020年8月31日

日本政府はマラウイで水力発電所の建設を支援しています。その取り組みの背景と狙い、そしてその先の課題からみえてくるマラウイの電力事情についてご紹介します。

マラウイの全国の電力設備の規模は国家エネルギー政策(2018年)によると361メガワット(MW)で、そのうち98%はマラウイ湖から流れ出る豊富な水を利用した水力発電が占めています。しかし最近、世界第9位の大きさを誇るマラウイ湖の水位が低下したことで、発電量が減少し停電が頻発したため、緊急にディーゼル火力発電設備が増設されました。そのため、現在は国全体で422MW程の規模となっています。しかし、これは日本の水力発電所で最大出力を誇る奥只見発電所(電源開発(株))の560MWよりも小さな規模です。マラウイでは現在でも約700MW以上の需要があるといわれていますが、それを満たせていない状況にあります。

こうした背景から日本政府はマラウイ政府の要請を受けて、南部のブランタイヤ県に位置するテザニ水力発電所の増設事業を無償資金協力により実施することとなりました。テザニ水力発電所は1972年に運転開始した古い発電所で、これまでに第二、第三発電所が増設されてきました。現在実施中の事業の目的は、稼働中の三基(全体約102MW)に加え、一基(約18MW)を増設(以下、テザニIV)するものです。これにより再生可能エネルギー(水力)の利用を促進するとともに、電力供給の安定性を向上させ、将来は、主な需要地である首都リロングウェ、商業都市ブランタイヤでの経済・産業活動に寄与することが期待されます。水はお金を生み出し、経済を活性化させます。

施主の発電公社(社名:EGENCO)は、最近の電力セクター改革により2018年に設立された公社で、テザニIVは社史に残る建設事業です。EGENCOのCEOウィリアム・リアブニャ氏は「初の大事業を日本が支援していることに感謝するとともに、国の電力状況改善のため更なる電源開発を進めたい」と意気込みを語っています。完工すると発電設備容量18MWが加わり、国全体で4.2%の設備の増加となります。これは、マラウイ最大級の病院でブランタイヤにあるクイーンエリザベス中央病院の消費電力の28倍を賄える規模です。

テザニIVにより、希望が生まれますがこれだけでマラウイの電力の課題がすべて解消されるわけではありません。国全体の電化率は2018年時点で14.6%程度とサブサハラアフリカ平均の45.4%と比較しても低いレベルにあり、約85%の人が電気へのアクセスがない生活を送っています。電気へのアクセスがある人々にとっても、乾季や渇水による水量の減少によって発電量が減った場合、代替の発電オプションが乏しいのが現状です。経済活性化、産業振興、医療機関の運営やライフラインの安定のため、自然条件で発電能力が左右されない手段の確保が喫緊の課題だといえます。

安価で安定した電力供給は、生産コストを引き下げ、投資につながる可能性があります。目下、COVID-19のパンデミックを受け、医療機関の機器の稼働のため、また、良好な衛生環境を支える安全な水供給のために安定した電力供給が求められます。さらに、ウィズ・コロナの世界でのニュー・ノーマルにおいて、リモートワークやリモート教育の普及が必要とされるなか、信頼性の高い通信を支える電力は国の発展を左右する基礎条件ともなり得ます。SDGゴール7のモダンエネルギーの供給確保と生活の質の向上のため、電化率の向上と電力の安定供給は重要課題のひとつです。

では、課題に対してどう取り組んでいくのか。国家エネルギー政策では電源開発にあたってはあらゆるエネルギーの有効利用を目指すとし、その中には水力、石炭、地熱、天然ガス、太陽光、風力、バイオマス等が含まれています。大規模な発電所の建設には長い時間がかかるので、最適な電源開発計画を検討したうえで、20年、30年先を見据えたエネルギーミックスの検討が望まれます。また、経済性も重要で、エネルギー資源が豊かではないマラウイでは、純国産エネルギーと輸入エネルギーの活用をよく吟味する必要があります。さらに、国際エネルギー機関(IEA)によると脱炭素の動きに伴って再生可能エネルギーのシェアの伸びが見込まれており、こうした世界的な潮流を踏まえることも求められます。加えて、ロス率が低く信頼性の高い送配電網の質の向上も重要です。種々の電力設備は、良好なメンテナンスによりライフサイクルでのコストを下げることができるので、効率的で健全な電力各社の経営も重要です。マラウイの電力セクターの状況が改善され、人々の社会経済活動の質が向上していくことを希望しつつ、多岐にわたる分野のエンジニアとともに、経済性高い電力設備開発に貢献する人材の活躍が期待されます。
(マラウイ事務所 和田泰一)

【画像】

水車設置予定場所

【画像】

発電所建設作業風景

【画像】

全景イメージ