マラウイ点描「マラウイの水事情と無収水対策」

2020年12月24日

日本政府はマラウイで無収水対策の支援を行っています。その取り組みの背景と狙い、そしてその先の課題から見えてくるマラウイの水事情についてご紹介します。

まず初めに「無収水」という言葉について、馴染みがない方が多いと思いますので説明をします。「無収水」とは、排水管の施工不良に起因する漏水や水道メーターの誤読等により料金収入に結びつかない水量を指します。この割合が小さいほど、無収水率が優れた水道経営状態であるといえます。日本の水道事業体では、無収水率が10%以下の水道事業体も存在しますが、多くの途上国では無収水率は30%~40%と高く、生産した水に対して十分な料金収入が得られていません。そのため、無収水率の削減は水道事業体の経営における重要なテーマとなっています。例えば、1個100円のリンゴに置き換えて考えてみると、無収水率が0%である場合は、100個のリンゴを売った場合の収益は100×100で10,000円となります。しかし無収水率が30%の場合、料金収入に結びつかないリンゴが30個あり収益は100×(100-30)で7,000円となることから、経済的損失の大きさが理解できると思います。

マラウイの首都リロングウェ市は人口増加率が3.8%(2018年Census)であり、マラウイの中でも高い人口増加率を示しています。そのため、人口増加に伴う水需要の増加が著しい地域です。リロングウェ市の水需要(123,211立方メートル/日:2015年)はリロングウェ水公社(Lilongwe Water Board、以下LWB)の生産水量(92,411立方メートル/日:2015年)を大きく上回っています。加えて、無収水量が生産水量の38.9%(2020年3月時点)を占めていることから、水需要はひっ迫しています。LWBでは既存の水源水量を効率的に活用するため無収水量の削減を重視しており、「LWB Strategic Plan 2015-2020」の中で2020年までに無収水率を28%に削減する目標を掲げています。

このような背景からマラウイ政府より日本政府に対し要請が出され、政府開発援助の実施機関であるJICAがLWBに対する無収水対策支援を技術協力プロジェクトにより実施することとなりました。技術協力プロジェクトは2019年6月に開始し、4年間継続する予定です。プロジェクト活動を通じて、無収水削減計画の作成や研修を支援することで、LWB職員の能力強化を目指しています。本プロジェクトには、横浜市水道局から出向中の専門家や、マラウイの別の水案件に従事した経験のある専門家、また他国の水案件に従事した経験豊かな専門家がタッグを組み、チームマラウイとしてプロジェクトを支えています。

プロジェクト専門家は、計画づくり一つをとっても、日本または他国での経験を生かした丁寧な対話を心掛けています。現在、プロジェクトでは2020年から2025年までの無収水削減計画の策定を行っています。計画策定において最も大切なことは、実現可能性がある計画を作ることです。そのため、無収水計画策定の際には、目標に向かってどのようなプロセスが必要なのかブレークダウンをし、その実現可能性を客観的な視点に基づいて検証することが必要です。その際、横浜市で行っている計画策定の方法を紹介することで、LWBの視野を広げるような工夫をしています。もちろん100%日本の方法に倣う必要はなく、日本の経験から引用できる部分をマラウイの計画づくりに導入することで、LWB関係者が使いやすい計画になるように意識をしています。

JICAはプロジェクト活動を通じて、マラウイ国内の水道公社間(注)のつながりも大事にしています。プロジェクト活動を通じてセミナーやワークショップを実施する際には、LWBのみならず他の水道公社の方も学べるように、広く声掛けをしています。実際のセミナーではLWBに追いつこうと、他の水道事業体から積極的な質問が飛び交います。将来的には、プロジェクトを通じて学んだ知見をLWBが他の水道事業体に共有することも期待されます。

マラウイの急激な人口増加に伴う水需要の問題に対して、日本政府は無収水対策という観点で支援を行っていますが、同時に水資源開発も重要です。実際にLWBは他ドナーからの支援も得ながら水資源開発を行っており、無収水対策と水資源開発という双方向からの水需要問題に取り組んでいます。大規模な水資源開発には長い時間がかかりますので、20年、30年先の人口増加を見据えた最適な水開発計画を検討することが望まれます。長期的な水資源開発を行いながら現在の資源を有効活用する無収水対策は、水資源開発の予算が限られているマラウイにとって重要です。無収水対策を通じて水不足の改善が図られ、マラウイの基礎的社会サービスが向上するよう、JICAとしても協力を継続していく所存です。

(注)マラウイではLWB含む、5つの水道公社が存在します

(マラウイ事務所 滿永有美)

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顧客メーターなどの精度検定機器のデモンストレーション現場

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プロジェクト活動を通じたワークショップの様子