今度こそ、対北朝鮮制裁を成功させよう

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.410 8 November 2017
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

戦後70年が過ぎたが、小中規模の戦争、紛争は絶えず、地上から爆煙が消えた日はない。今も、MENA(中東、北アフリカ)地域を中心に戦火が燃えている。東アジアでは60年近く戦闘行為が途絶えているが、最近、キナ臭さが漂い始めた。

異臭の発生源は言うまでもなく、弾道ミサイルや核実験を繰り返し、国際社会に挑発を続けている北朝鮮だ。9月11日の国連安保理の新たな制裁決議採択後も、水爆実験強行を仄めかすなど話し合いに応じる気配はない。

北朝鮮がこうした蛮行を続ければ、オバマ政権が「レッド・ライン」と呼んだ一線を越え、アメリカが軍事行動に移るシナリオも否定できない。トランプ政権がどの位相を「レッド・ライン」と想定しているのか、明らかでないが、ラインすれすれの状態であることは間違いない。

武力を行使する紛争解決のパターンは、軍事的に圧倒的有利な状況のうちに相手を叩く「予防戦争」から始まる。北朝鮮の核兵器、ミサイル保持が明らかになっている現在、「予防戦争」はすでに機を逸しており、今は「威嚇」〜「示威行動」の段階に入っている。米韓の合同軍事演習、超音速戦略爆撃機B-1、ステレス戦闘機F35AやF35Bの極東配備、原子力空母3隻の朝鮮半島近海展開などは、強力な「示威行動」だ。

一般に「示威行動」の段階までは「平時」とされるが、これを越えると局地的な戦争(小戦争)〜全面戦争(大戦争)となって「戦時」となる。朝鮮半島は今、極めて「戦時」に近い「平時」の状況にあると言って良い。主要国の首脳で戦争の引き金を引きたいと思っている人は、もちろんいない。可能な限りの手段を使って平和裏に解決を図る努力が重ねられる。ツールとしては「威嚇」、「示威行動」以外にも、「諜報活動」、「サイバー攻撃」、「国際世論の包囲網の形成」などがある。

こうした諸々のツールの一つが「経済制裁」だ。国連憲章では、第6章の「平和的解決」が成果を得なかった場合、第7章で「平和に対する脅威が発生した際の強制行動」が規定され、第一段階として「経済制裁」がある。「経済制裁」が機能しなかった場合は、国連軍派遣も視野に入れる第二段階「海上封鎖」、さらに第三段階「武力行使」が容認されており、国連憲章上も「経済制裁」は、「戦時」突入を避ける最後の手段だ。

ところで、北朝鮮への制裁は効果のあるものになるのだろうか。これまで9回もの国連安保理決議に従わず、国際社会に逆らってきた北朝鮮を話し合いのテーブルに着かせるには、制裁を実効あるものにするしかない。

今回の決議は、北朝鮮に対する石油精製品、原油の輸出量を制限、主要輸出品である繊維製品を禁輸品にした。また、年間約10万人、約5億ドル外貨を稼ぐ労働者の国外派遣も、契約期間終了後の契約延長を禁止した。

これを受けてアメリカは10月1日から石油輸出制限を開始、中国も同調している模様だ。フィリピンも北朝鮮との貿易停止を発表した。一方、欧州連合(EU)は、北朝鮮労働者の新規雇用を停止、アラブ首長国連邦(UAE)も北朝鮮労働者へのビザ発給を停止、ベトナムも北朝鮮人の滞在ビザ延長を拒否している。今回の制裁には、先進国だけでなく多くの途上国も協調しており、国際社会の北朝鮮包囲網はこれまでになく固い。最後の鍵を握るのは、中、露の本気度だろう。

対象国に与えるダメージが見え難く、効果に時間が掛かるうえ、抜け道も多い「経済制裁」の実効性に首を傾げる人も多い。過去に経済制裁が成功したとされるのは、国連が1962年から1991年まで南アフリカに対して課した制裁だが、アパルトヘイト廃止まで30年もかかっている。1962年からアメリカがキューバに対して続けている経済制裁も、キューバ社会を変えるまでには至ってない。日本も、核実験を強行したインド、パキスタンやクーデターが起きたミャンマー、ハイチに政府開発援助(ODA)を停止する「経済制裁」を実施した過去がある。ODAの停止はそれぞれの国の自省剤となったものの、大局を覆すまでには至らなかった。

それでも、私は「戦時」を避ける最終手段としての「経済制裁」の効用を信じている。少し古いが、2013年12月の米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」に、「経済制裁」を評価する記事が掲載されていた。この記事は、米主導の対イラン「経済制裁」が、イランを交渉のテーブルに着かせ、核合意に繋がったとし、「周到に準備された経済制裁は効果を発揮する」と分析している。また「経済がグローバル化した現在、制裁対象国を国際金融システムから締め出すことで、効き目は大きくなる」という。

北朝鮮経済も、現実は予想以上に国際化が進んでいる。国際社会が一致団結して北朝鮮に制裁を加えれば、孤立した北朝鮮経済の歯車は狂い、交渉の席に着かざるを得ない状況なることも十分に期待出来る。

10月30日、訪日したフィリピンのドゥテルテ大統領と会談した安倍首相は、インフラ整備などに対する5年1兆円規模の経済支援と共に、北朝鮮に対する圧力強化に向けての連携を約束した。過去の事例を見ても、中露と共に北朝鮮制裁の抜け道となりやすいアジア、アフリカ諸国と、ODAなどを活用した連携強化は重要だ。

一方、11月5日、来日したトランプ大統領は、安倍首相との会談で北朝鮮問題に対するいっそうの協力を確認した。今度こそ、制裁を実効あるものにしないと、アジアばかりか世界の平和と安全は保障できないものになる。日米以外の国の首脳にも、緊張感をもって北朝鮮に対応するよう望みたい。