シンポジウム「子どもたちに『学び』をもたらす教育支援:エビデンスベースの試行と改善からスケールアップへ」

2018年6月20日

背景・概要

近年、開発協力の世界では、インパクト評価により事業の効果を科学的に検証し、そのエビデンスを活用して政策を立案する取り組みが進んでいます。この潮流を研究面で牽引しているのが、マサチューセッツ工科大学に拠点を置く「アブドゥル・ラティーフ・ジャミール貧困アクションラボ(J-PAL)」です。J-PALは、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)という手法を用いて最先端のインパクト評価を行う研究者のネットワーク機関であり、その研究成果は各国の開発政策に重要な影響を与えています。

JICAもエビデンスの創出・発信・活用に取り組んでおり、2018年6月20日(水)、JICA市ヶ谷ビルにて公開シンポジウム「子どもたちに『学び』をもたらす教育支援:エビデンスベースの試行と改善からスケールアップへ」を開催しました(後援:外務省)。当日は民間企業、コンサルタント、大学、NPOなどから計150名が参加しました。本シンポジウムでは、開発経済学の最前線で活躍するスタンフォード大学のパスカリン・デュパス准教授、インド最大規模のNGO「プラサム教育財団」CEOのルクミニ・バネルジ氏、J-PALのジョン・フロレッタ政策・コミュニケーション課長とともに、エビデンス創出のための研究と実践を題材に議論を行いました。

開会、来賓挨拶

冒頭の開会挨拶にて、JICAの鈴木規子理事は、研究と実践それぞれで活躍するJ-PALとプラサムとJICAがともに議論する本シンポジウムの意義を強調、また外務省の牛尾滋審議官は、エビデンスを活用した質の高い教育支援に対する高い期待を表明しました。

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JICA鈴木規子理事

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外務省牛尾滋審議官

第一部「研究:政策形成のためのエビデンス創出」

今回のシンポジウムは、第一部「政策形成のためのエビデンス創出」と、第二部「事業設計や実施におけるエビデンス活用」の2部構成にて実施しました。

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J-PALジョン・フロレッタ政策・コミュニケーション課長

第一部では、まずJ-PALのフロレッタ課長が登壇し、プログラムのインパクトを正確に評価する研究の重要性を強調。子どもの学びの改善のためには、教科書やパソコンなどインプットを増やすだけでなく、学びのレベルやプロセスに合った教育が効果的であるなど、RCTを用いた様々な研究によりわかってきたことを説明しました。また、政策決定におけるエビデンスの活用を促進するために、エビデンスの要約・統合、政策決定者・実務家との長期的な連携、エビデンスを活用するための技術支援などJ-PALの取り組みを紹介しました。

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スタンフォード大学パスカリン・デュパス准教授

続いて、政策形成のための研究の実例として、デュパス准教授が、ガーナにおける後期中等教育(高校)の無償化政策に関する研究報告を行いました。この研究は、経済的な理由により高校に入学できなかった生徒のうち、くじで選ばれた生徒に奨学金の権利を与え、選ばれた生徒と選ばれなかった生徒のアウトカムを比較し、奨学金の効果を分析するものです。その結果、奨学金の権利を得た生徒は、高校の入学・修了率が向上しただけでなく、特に女性にとって健康・出産・仕事など高校卒業後の生活も向上したことが明らかになりました。卒業生の追跡調査は継続中で、今後はより長期的な効果の検証が行われるとのことです。

第二部「実践:事業設計・実施におけるエビデンス活用」

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JICA小塚英治人間開発部基礎教育グループ課長

研究により生み出された数々の有効なエビデンスを教育開発にどう活用するべきか。第二部で登壇した小塚英治JICA人間開発部基礎教育グループ課長は、エビデンス創出のためのコストを過少評価しないこと、エビデンスに対する実務家の意識を高めること、各国の文脈を十分に理解して事業設計をすることが重要と指摘しました。また、西アフリカ「みんなの学校プロジェクト」のインパクト評価から、子どもの学びの現状をコミュニティと共有・啓発する介入の費用対効果が高いことなど、実践の参考になる重要な知見も得られていると報告。今後のJICAの取り組みとして、J-PALやプラサムなどの団体と積極的に連携しつつ、エビデンスの創出・共有・活用のサイクルを強化していくことの重要性を強調しました。

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プラサム教育財団 ルクミニ・バネルジCEO

最後に登壇したバネルジ氏は、すべての子どもたちの学びのために、実務家が心得るべき点として「課題の可視化と共有」を指摘しました。プラサムは、早くからJ-PALの研究者と連携して質の高いインパクト評価を実施し、プログラムの改善に取り組んできました。子どものクラスを年齢ではなく習熟度別に分け、各クラスのレベルに合った教育プログラム(Teaching at the Right Level:TARL)を実施するとともに、インドの子どもの学びの状況を年次教育報告(Annual Status of Education Report:ASER)の形で発表しています。バネルジ氏は、学びから取り残された子どもたちを救済する手段としてのTARLについて、「実施しやすく、見えやすく、かつ理解しやすいアセスメントの手段と結果は、適正な実践には不可欠な要素」と強調し、発表を締めくくりました。

今回シンポジウムの結語として、森下拓道JICA人間開発部基礎教育グループ長は「JICAにおいては、科学的かつ長期的なエビデンスの収集と分析は始まったばかり。エビデンスベースの事業実践を進める上で実務と研究の融合をさらに進める必要がある」とのコメントを残しました。

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JICA森下拓道人間開発部基礎教育グループ長

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当日、雨にもかかわらず満席となった会場

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主催団体および関係者一同 集合写真