【TICAD7に向けて~私とアフリカ~:Vol.8】45,000校までに広がった「みんなの学校」プロジェクト「住民も先生も一緒につくる学校をアフリカ中に広げていきたい」: 中澤順子JICA専門家

2019年7月3日

「教育は、国や地域の発展にきわめて重要な要素だと思っています」。こう言葉に力を込めるのは、長年にわたり西アフリカ諸国を中心に「みんなの学校」プロジェクトに携わってきた中澤順子JICA専門家です。

「みんなの学校」パイロット校で開催された住民総会において地域住民の人々に資金管理の透明性の重要さを説明する中澤順子専門家。(ガーナにて)

「みんなの学校」とは、JICAが2004年にスタートさせた教育支援プロジェクトで、国や地方自治体が主導する教育ではなく、保護者も含めた地域コミュニティの人々が積極的に子どもの教育支援に関わり、学校の校長や先生たちと協働で民主的かつ透明性のある学校運営を行なっていくものです。シリーズ「TICAD7に向けて~私とアフリカ~」の第8回は、中澤専門家に「みんなの学校」プロジェクトについて、思い出深いエピソードなどを聞きました。

アフリカとの出会いは子ども時代の疑問符から始まった

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現地で入手可能な土を用いて、教室建設用のブロックを作っているニジェールの母親たち。文字どおり、学校を作る作業を自分たちで計画し、学校活動計画を通じて実施しています。

「就学経験がなくても子どもの教育に関わりたい保護者はいますし、子どもがいなくても教育支援に関心がある人もいる。例えば自らの木工技術で教室の修繕をしたい人など、地域コミュニティにはさまざまな人がいます。そうした人たちが誰でも参加できて、いろいろな形で支援していけるのが、『みんなの学校』プロジェクトなんです」

こうプロジェクトの内容を補足してくれた中澤専門家。そもそも自身が途上国に興味を抱きはじめたきっかけもふり返ってくれました。

「幼少時代、実家近くで働いていたバングラデシュの人たちから聞いた『バングラデシュはきれいな国で、住んでいる人々も明るく温かい』という話と、ユニセフ親善大使のテレビ番組などを通じた『貧しい国で、かわいそうな人たちがたくさんいる』といったレポートのギャップに、子どもながら不思議に感じました。やがて、私の目は海外、特に開発途上国へと向くようになりました」

大学院で国際教育開発学などについて学んだ後、二十代後半にJICAの青年海外協力隊に参加。タンザニアで村落開発普及員として青少年・女性団体の活動支援に2年間従事したのが、アフリカとの本格的な出会いでした。

「いかに机上で学べないことが多いのかを痛感しました。開発普及員として教えるよりも、自分自身が学ぶ場面のほうが断然多かった。右も左もわからない私をときに温かく笑いながら、ときに的確に彼らは助言してくれました。そんなアフリカの人々の“懐の深さ”に魅かれ、もっと寄り添いつつ関わりたいと願うようになったのです」

その後、中澤専門家はジュニア専門員としてJICA本部で勤務した後、長期専門家として2006年ニジェールに赴任。「みんなの学校」づくりに本格的に取り組み始めます。

男女格差が比較的激しいニジェールでの約3年半にわたる活動で、とくに女子の就学率向上キャンペーンが印象深かったと言います。「大きく就学率が改善されたのですが、このとき最も貢献したのがコミュニティの母親同士の啓発でした。一般にイスラム色が強い国では家庭内における女性の発言力が弱いと言われます。けれどもそのエリアは男性が出稼ぎで家を留守にするケースが多く、結果、母親が子どもの教育に密接に関われたという事実が大きかった。イスラム文化といっても背景はさまざまで、啓発や支援にも“しなやかな視線”が求められるのだと思い知らされました」

ガーナで「みんなの学校」のさらなる可能性を見出した

「みんなの学校」パイロットプロジェクトで住民総会を開催。教員、保護者、地域住民が学校の課題について議論をしている風景。(ガーナにて)

中澤専門家はこうしたフランス語圏アフリカ地域における経験を生かし、2015年2月に赴任したガーナで、英語圏アフリカ地域初となる「みんなの学校」の導入に挑戦しました。ガーナ教育省と協力しながら2つの州の23のパイロット校から始め、最終的には50校まで広がりました。

「英語圏ならではの文化や制度があり、従来モデルは通用しないのではとの指摘もありました。しかし、できる限り子どもに学びの場を与えたいという大人たちの心情は普遍的で、かつ子どもたち自身の好奇心も国を問わず旺盛でしたから、潜在的なニーズがあると私も現場の同僚も確信していました」

とはいえ、一筋縄ではいきませんでした。そこで中澤専門家はガーナ教育省の担当行政官たちを連れて、先行例のあるセネガルなどに「みんなの学校」のスタディツアーに出かけ、学校運営の民主的選挙の有効性などを約2年、根気強く説き続けたと明かします。「最後は担当者たちが根負けして、パイロット開始が了承されました」

ただ、“中進国”とも呼ばれるガーナでさえ、都市部から離れた一部活動エリアは貧困度が高めで、大人たちの学習水準も他のエリアと比べて低かったそうです。

「あるとき学習経験が豊かではない寡黙な青年ファシリテーター(地域のボランティア学習支援員)が、補習授業を欠席する児童の家庭訪問まで行ない親身になって取り組んでいる事実を知りました。重要なのは支援員たち大人の教育レベル云々ではなく、『未来の人材育成に貢献したい!』という地域の当事者たちの気持ちなんだと、彼らの熱意に改めて気づかされた出来事でした。大いに反省し、おかげで次に生かせるようにもなりました」

こうして「みんなの学校」パイロットプロジェクトはガーナでも成果を上げることができ、アフリカ全体で2018年末までに、「みんなの学校」モデルが約45,000校に導入されました。

2019年2月にガーナを離任して日本に帰国した中澤専門家は、これからについて「私もまた何らかの形でアフリカの教育支援に携わりたいです。男女の隔たりなく、とりわけ理数系、いわゆる“リケジョ”のロールモデルを提示できるようにし、『算数や理科は男の子が強い』というイメージを払拭できたらとも思います。ひいては教育を通じてアフリカの女性たちの潜在能力を引き出せるような手助けができればと考えています」と語ります。そして、「みんなの学校」プロジェクトはまだまだ進化し、多彩な広がりを生むポテンシャルを秘めているはずですと目を輝かせます。

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「みんなの学校」パイロットプロジェクトでの、地域住民イニシアティブによる補習授業の様子。教材にはJICAが開発した算数ドリルが活用されています。(ガーナにて)

プロフィール
中澤順子(なかざわ じゅんこ)
JICA長期専門家としてアフリカで延べ14年近く教育支援を続ける。「教育」「ジェンダー」に関する活動が主なライフワーク。イギリスの大学院で「国際教育開発学・ジェンダー」修士課程修了。現在、アスカ・ワールド・コンサルタント(株)シニアコンサルタント。東京都出身。

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