大洋州の島国キリバスがフィラリア制圧宣言: 「顧みられない熱帯病」対策に官民連携で支援

2020年1月22日

大洋州に浮かぶ島国キリバスで感染症への対策が進んでいます。昨年10月7日、WHO(世界保健機関)からキリバスのリンパ系フィラリア症制圧が宣言されました。このフィラリアとは、寄生虫を原因とする病気で、蚊によって人に感染します。感染するとリンパ管に入り込み、脚や生殖器が腫れて痛みを伴うことがある恐ろしい感染症です。狂犬病やデング熱などとともに、WHOの定めた20の「顧みられない熱帯病(NTDs)」の一つに指定されており、熱帯・亜熱帯の49ヵ国で約9億人(注)が治療と予防のための集団薬剤投与を受ける必要があるとされています。

JICAは、フィラリア制圧に向け、キリバスをはじめ大洋州14ヵ国を対象にボランティア派遣による患者ケアの指導、集団薬剤投与の薬と血液検査キットの提供などの支援をしてきました。現在、集団薬剤投与の薬はエーザイ株式会社が無償提供を行いつつ、JICAがコミュニティでの集団薬剤投与の実施支援を行うなど、官民連携した支援を行っています。

フィラリアを発症した人は脚が腫れるなど周囲の偏見や日常動作の難しさなどから労働も困難となり、経済的に苦しくなることも多くありました。地域住民への集団薬剤投与により感染の危険性を低下できる病気でありながら、患者の大半が貧困層であるため、これまで対応が遅れていました。

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地域住民への集団薬剤投与の様子(パプアニューギニア)

(注)WHO

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「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases )」 とは、WHOが定める20の疾患群。貧困による劣悪な衛生環境などの要因により感染が拡大され、そのことがまた労働力や生産性の低下を招き、貧困から脱出できない原因にもなっています。開発途上国や新興国では、NTDsの蔓延が経済成長の妨げともなっており、国が抱える重大な課題の一つともいえます

30年以上にわたる大洋州でのフィラリア制圧に向けた長期支援 

地域での集団薬剤投与に向け、薬剤を運ぶ配薬チームのメンバーら(パプアニューギニア)

WHOは、1999年から「大洋州リンパ系フィラリア症対策(PacELF)」を開始し、地域からの疾病制圧に向けた取り組みを行っています。JICAはその支援事業を展開するだけでなく、それ以前の1989年から継続的に保健医療分野のボランティアを大洋州各国に派遣。予防の啓発活動や、集団薬剤投与の実施と薬剤管理、集団薬剤投与のデータ報告などを実施してきました。

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学校で実施された集団薬剤投与(パプアニューギニア)

またJICAは2000年から、キリバスをはじめ大洋州14カ国に対し、薬剤(DEC)や血液検査キット(ICT/FTS)の供給を開始。2017年までに、薬剤(DEC)は3億4615万錠、血液検査キットのうちICT(2015年度まで)は63万5750個、FTS(2016年度)は19,050個を供給しています。

長期にわたるこれらの支援が功を奏し、大洋州14ヵ国のうちの8ヵ国(クック諸島、ニウエ、バヌアツ、マーシャル諸島、トンガ、パラオ、ナウル、ソロモン諸島)が、キリバスに先行してフィラリアの制圧を達成しました。

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赤印:現在「大洋州広域フィラリア対策プロジェクト」を実施中/実施予定の国
青印:リンパ系フィラリアの制圧を達成した国

民間製薬会社からのサポート   

フィラリア制圧に向けた支援において大きな助けとなっているのが、民間の製薬会社エーザイの取り組みです。

エーザイの内藤晴夫CEOと WHO のマーガレット・チャン事務局長による共同声明文調印式(2010年11月)

エーザイがNTDsの制圧に取り組んだのは、2010年、WHOとリンパ系フィラリア症治療薬の無償提供に関する共同声明文に調印したことが始まりです。その後、2012年1月に発表された「ロンドン宣言」によりその取り組みは本格化します。

「ロンドン宣言」は、WHOや米国・英国政府、NTDsの蔓延国政府などともに国際官民パートナーシップを構築し、2020年までにNTDs10疾患の制圧に向けて共闘していくという共同声明で、エーザイは世界製薬大手13社の一員として参加しました。NTDs制圧に向けWHOとパートナーシップを組み、薬剤無償提供する日本の製薬会社はエーザイが初めてです。2013年以降、エーザイは、対象国に対し薬剤(DEC)を無償で提供しています。

エーザイの担当者は「リンパ系フィラリア症治療薬の一つであり、世界的な供給不足にあった高品質の「ジエチルカルバマジン(DEC)錠」を自社のインド・バイザッグ工場で製造しWHOに無償で提供しています。これまでに蔓延国28カ国へ19.4億錠(2019年12月現在)を供給してきました。エーザイは、開発途上国や新興国における医薬品アクセス向上ならびにグローバルヘルスへの貢献を、これらの国々の経済発展につながる長期投資と位置づけています。DEC錠の無償提供のほか、JICA、蔓延国政府、国際機関や非営利民間団体などとのパートナーシップを活用し、疾患に苦しんでいる世界の患者様とそのご家族のベネフィット向上に引き続き貢献してまいります」と協力の継続を述べます。

今後も継続されるフィラリア対策  

集団薬剤投与に関するトレーニングを受けた保健局の職員ら。左から2番目が關原誠専門家(パプアニューギニア)

JICAは、2018年から「大洋州広域フィラリア対策プロジェクト」を推進し、まだフィラリアの制圧を達成していない6ヵ国(開始当初未達成だったキリバス、サモア、ツバル、フィジー、ミクロネシア、パプアニューギニア)を対象に専門家を派遣しています。

集団薬剤投与実施に向けた広報活動の一環としてラジオ番組に出演した關原誠専門家(パプアニューギニア)

關原誠(せきはら まこと))専門家は「集団薬剤の投与において、十分に高いカバレッジを達成するためには、実施対象地域のあらゆる団体・機関(行政、自治体、病院、学校、教会、警察、民間企業、メディア等)との協力体制が非常に重要です。各機関のやる気を促し、フィールドで共に汗をかきながら、失敗と成功体験を共有することで、互いに信頼を積み重ねてきました。フィラリア対策に関わる各国関係者は、フィラリア制圧達成に向け、熱意と信念を持って事業に取り組んでいます。その想いに応えられるよう精一杯尽力することが、JICA専門家としての存在意義であり、私自身にとって大きなやりがいとなっています」と語ります。

JICAは大洋州諸国におけるフィラリア制圧計画に向けた支援の中で重要な役割を果たしており、WHO/PacELF事務局、および供与対象国から高い評価を得ています。これらの活動は、地域の人々の生活向上に貢献する重要活動と位置づけ、JICAは今後も協力を継続していきます。