儲かる農業を目指せ

2014年6月9日

田中雅彦(JICAミャンマー事務所長)

一般に国が発展すると経済に占める農業の割合が減少する傾向があり、事実、先進工業国でGDPに占める農業の割合が1〜3%を超えることは無い。この傾向があるからと言って必ずしも農民が貧しいということではないが、近年、成長著しい新興国においては、農民が経済発展から置き去りにされてきた例が多いと言わざるを得ない。ミャンマーはその例外になれるかどうか。

ミャンマーにおける農業の問題は大きく2点ある。第一は「土地なし農民」(営農権を持つ小作でもなく、日雇いの農業従事者)が、農民全体の50%以上を占めるという事実である。彼らの生活は極めて劣悪で、少しでも日給がよい仕事があれば、どこにでも出かけていく流動性が高い人々である。彼らが急激に都市部へ流入すれば、スラム等の様々な都市問題が発生する可能性が高い。第二の問題は、「農業は儲からない」と農民自身が考えていることである。このことが農業への投資を制限し、その発展を阻害してきた面がある。

「土地なし農民」に対する対策として土地改革(農地解放)は最も有効な方策であるが、その政治的、行政的、財政的な負担を考えるとミャンマーでは現実的とは思われない。逆に、ミャンマーが工業化へ向けて歩みだした現在、農業部門から工業部門への労働力の移動が必要となっている。「土地なし農民」の多くもこの産業構造の変化にうまく順応し、より良い仕事を得たいと考えるようになってきている。

ミャンマーの「土地なし農民」は、過去の稚拙な農業政策の結果である。軍事政権は、長年、農民にコメの栽培を強制し、それを供出米として安価な価格で買い取ってきた。このことが農民の生産意欲を減少させ、農村を疲弊させた。また家族の誰かが病気になると土地の権利を売って医療費に充てざるを得ない農民も多いという。医療保険制度等のセーフティーネットの整備が急務な故である。

ミャンマー農業が抱える問題を解決するために、灌漑施設の整備、作物多様化、優良品種の普及、農業機械化、農民金融整備等が、直近の課題であることは誰もが認めることであろう。しかし、ここで注意せねばならないことは、30〜40年先のこの国の経済(一人当たりGDPは現在の900ドルから1万ドルに上昇)を考えれば、農民の所得は2〜3倍ではなくて10倍に拡大しなければならないということである。

その観点に立てば、二つの方策が必要であろう。第一は、特に小農を対象とした農業の高価値化である。米主体から高い収益が期待される花、果物、茶等への転換を積極的に進めていく必要がある。少ない土地でも資本と技術を投入すれば高い収益を得られる農業を追求すべきである。もう一つはコメなどの穀物を対象とした機械化された大規模農業である。

このような新しい農業にチャレンジする必要があるが、農民にとっては最初のリスクが大きい割には、成功してもすぐに周囲に真似され、利益が少ないという問題がある。これは製造業の育成と共通する問題であって、農業にも政府による強力な「産業」育成政策が必要である。「土地なし農民」の中から企業家精神に富んだ農民を育成し、彼らを各種政策で支援できれば、農村に雇用を創出し、急激な都市化を防ぐことが可能になる。

大規模農業の拡充のためには、政府による各種インフラ整備と進出企業に対する各種優遇措置が必要であろう。近代的で輸出志向の農業を促進するためには、「農業版SEZ(経済特区)」を設定するのも一案であろう。

ミャンマーにとって農業の近代化は極めて重要である。ミャンマーの農業ポテンシャルが高く、同国の経済開発に農業を最大限活用するのはもちろんであるが、今後予想される都市問題を緩和させ、豊かな生活環境を創出する可能性があるからである。筆者は前回のコラムでミャンマーの開発にとって製造業の育成が鍵であると主張したが、農業は右を補完するもう一つの鍵である。この試みに成功できれば、ミャンマーは、日本、韓国、台湾以上にバランスのとれた国になれるであろうし、その可能性は決して低くないと思う。

注:本寄稿は2014年6月のフジサンケイビジネスアイにも掲載された。