トピックス(2021)

海外にルーツを持つ児童・生徒の教育を考えるフォーラム

2021年8月27日

【18日のパネリストの皆様(左上:神田すみれ氏 左下:淵上隆博氏 右上:永坂美香氏 右下:吉實フィリッペよしお氏)】

【19日のパネリストの皆様(左上:神田すみれ氏 左下:鈴木貴之氏 右上:川上貴美恵氏 右下:村山グスタボ秀夫氏)】

8月18日(水曜)と19日(木曜)の2日間、海外にルーツを持つ子どもたちの教育において、長年真摯に関わっている方々をお迎えし、児童・生徒の教育について考えるフォーラムをオンラインで開催しました。

参加者は2日間で延べ240名を超え、イベント中はチャットを通じてパネリストへの質問が活発に行われました。参加者の中には子どもの頃に日系ブラジル人として来日するなど、同じような境遇で日本の教育を受けた経験のある方も複数名いらっしゃり、パネリストからの質問解答だけでなく、参加者からの経験談を共有いただく事で、さらに参加者の共感や学びが深まっていく様子が印象的でした。

【パネリスト】
神田すみれ氏(愛知県立大学多文化共生研究所 客員共同研究員)
淵上隆博氏(知立市教育委員会)
永坂美香氏(知立市教員/JICA海外協力隊経験者)
吉實フィリッペよしお氏(JICA日系社会研修員)
鈴木貴之氏(西尾市教育委員会)
川上貴美恵氏(多文化ルームKIBOU/JICA海外協力隊経験者)
村山グスタボ秀夫氏(Man to Man株式会社)

海外にルーツを持つ児童・生徒の教育の現状と課題についてお話しいただきました!

冒頭では神田すみれ氏による基調講演として「東海4県における海外にルーツを持つ児童・生徒の教育の現状と課題」についてのお話がありました。

一口に「海外にルーツを持つ児童・生徒」と言っても、それぞれの来日背景は異なり、直面する課題も多様化しています。子ども達1人1人の持つ在留資格は、進路選択において重要な要素であるため、彼らのキャリア形成を考える上で個々の状況や本人や家族の意向など十分に把握する必要があります。

実際に、神田氏が行った彼らへのインタビューは、自らの体験を彼らの言葉で聞くことができる貴重な機会となりました。また、「ヤングケアラー」や「ダブルリミテッド」「シングルリミテッド」など、彼らが直面し得る課題の解説を通して、彼らが置かれている環境への理解がより深まる内容でした。

また、全校生徒の4割が海外にルーツを持つという学校のケースでは、授業の難易度を下げるのではなく、説明に絵や写真を活用して伝え方を工夫する重要性が語られ、日本語教育や知識教育に偏りすぎることなく、子どもが持つ能力を最大限伸ばす多文化対応の教育の重要性を伝えていただきました。

地域事例報告から実際の現場をイメージしました!

地域事例報告として、18日には知立市教育委員会の淵上隆博氏と、JICA海外協力隊経験者であり知立市教員の永坂美香氏から、19日には西尾市教育委員会の鈴木貴之氏と、JICA海外協力隊経験者であり多文化ルームKIBOUの川上貴美恵氏からお話しいただきました。

【18日】
愛知県知立市は人口における外国人の占める割合が大きく、担当教員だけでなく全ての教員が学習支援に関わっている知立南中学校や、在籍生徒数の7割(令和3年5月1日時点)ほどの生徒が日本語指導を必要としている知立東小学校があります。知立東小学校を含め知立市全体については淵上隆博氏より、知立南中学校の取り組みについては永坂美香氏よりご説明いただきました。

知立市では、日本の公立学校への通学経験がなく、生活に必要な日本語の習得ができていない児童生徒を対象に、知立市早期適応教室を設置しています。ここではひらがな、カタカナ、漢字習得だけでなく、文法や語彙のほか基本的な四則計算の指導、その他生活適応指導なども行っています。知立東小学校では、全教職員で学習指導を行っており、国語科の授業においては日本語支援の有無に関わらず、各学年生徒を習熟度別に編成し、難易度別の授業を行っているそうです。

また、パナマでのJICA海外協力隊の活動を通して、外国籍の児童生徒や保護者の力になりたいと愛知県の教員になった永坂氏からは、知立南中学校での指導について説明していただきました。知立南中学校では多くの人が指導に関わる事ができるよう、それぞれの負担を少しでも軽くする工夫として、指導進捗が確認できる共有資料(K2カード、SUNDA表)を作ったり、どの時間にどの教員がどの生徒を担当しているのか明確になった時間割を作ったりしたそうです。

日本人の先生だけでなく、日本語指導助手として日系ブラジル人の方も長年関わっており、また現場の先生だけでなく校長・教頭・教務の3役が「生徒への指導はみんなで取り組むべきもの」という雰囲気を作ってくれていることも皆が協力していく上では非常に大きいと話されていました。

実際の現場で使用しているバリエーションに富んだ教材を紹介していただき、非常にきめ細やかな指導をされていることが伺える内容でした。

【19日】
愛知県西尾市は、「日本に生まれ育った子どもたちが、国籍に関係なく自由に夢を描くことができるような環境づくりのために何が必要か」を出発点にはじまった多文化共生教育において、就学前児童・小学生・中学生・それ以上の全ての市民に対応する「プレスクール」「早期適応教室」「多文化ルームKIBOU」の3つの取り組みについて、鈴木貴之氏からご説明いただきました。
市内での多文化共生教育の立ちあげ当初の背景や取り組みに始まり、行政としての体制構築、また年を追うごとにステップアップする事業化の様子が、市を取り巻く状況と共に、定着までのご苦労と継続できた要因を加えてご説明くださり、深い理解に結び付きました。

続いて、川上貴美恵氏からは、所属する社会福祉法人せんねん村が西尾市からの委託により運営している「多文化共生ルームKIBOU」について、説明いただきました。

5歳から18歳までの幅広い年齢の子どもたちとその保護者を対象として、多言語による就学説明会や不就学調査、定時制高校見学会などを行うほか、日本語学習のためのクラスを開設したり、日本の小中学校内で頻繁に扱われる用語を多言語に翻訳した「がっこうのことば」を配布したりしているそうです。また、最近ではコロナ禍における緊急支援として、オンラインクラスの実施や就学案内の動画の公開も行なっていると紹介していただきました。
KIBOUでは幅広い年齢の子どもや保護者を対象にしている事から、切れ目ない支援が可能となりまた、行政ではなく社会福祉法人という立場から「学校」「教育」以外の分野へのサポートができる強みがあるところが印象的でした。

日本で教育を受けた経験から考えること!

後半は、日系ブラジル人による経験談で、「日本で教育を受けた経験から考える事」として、18日はJICA日系社会研修員で現在ブラジル在住の吉實フィリッペよしお氏から、19日はMan to Man株式会社の村山グスタボ秀夫氏からお話しいただきました。

【18日】
吉實氏は日本の学校と日本にあるブラジル人学校、ブラジル帰国後の現地学校と合計3つの環境を経験しました。入学当初は日本語が全く話せない状態でしたが、学校の先生のサポートにより日本語を習得し、ブラジルへの帰国前には父の勧めにより日本にあるブラジル人学校へ通うことができ、それまで家族としか話す機会がなかったために不十分だった母国語のポルトガル語も無事に習得することができたそうです。

その一方で、ブラジルでは日本人と呼ばれ、日本ではブラジル人と呼ばれることに触れ、若いうちには自身のアイデンティティについてずいぶん悩んだというお話もしていただきました。チャット欄には同じ経験をしたという参加者のコメントがいくつか投稿され、参加者同士の交流が生まれました。

【19日】
村山グスタボ秀夫氏は6歳で来日し、以降日本に在住しています。

村山氏は小学校卒業時点では、同級生と日本語で問題なくコミュニケーションが取れていましたが、進学した中学校で日本語能力検定試験の対策としての日本語教室が設置されていた環境もあり、中学校卒業までに日本語能力検定試験1級を取得することが出来ました。

日本語ができないから特別クラスで補習するということではなく、日本語能力検定試験対策という前向きな目標が設けられていたことが良かったとお話されていました。

卒業後の進路について、進学か就職かで非常に悩まれたそうですが、母親の理解や学校の先生によるサポートもあり、高校に進学することができ、それが現在のキャリアにもつながっているとのことでした。

国籍や地位ではなく、必要としている人に手を差し伸べることを大切にしながらも、自分でどうにかする力を身に付けることも大事だと話す村山氏の言葉には、自信と温かさがありました。

JICA海外協力隊経験者による国内地域活動について報告しました!

ブラジル学校での日本語教育に関わるJICA海外協力隊経験者の活動について、JICA中部市民参加協力課の神谷が報告しました。
この「SONHOプロジェクト」は豊田市にあるブラジル学校「エスコーラ・ネクター」から相談を受け、始まった活動です。

「SONHO(ソーニョ)」はポルトガル語で「夢」という意味で、ブラジルにルーツを持つ生徒の可能性を広げるための日本語教育が継続的に行えるよう、授業実施や今後の参考になる教案、教材の作成などを行っています。
今回の報告を通じて、多くの人にブラジル学校への関心を持ってもらえたらと思います。

質疑応答でたくさんの質問をいただきました!

すべてのプログラムが終了し、いよいよ質疑応答の時間となりました。
両日ともにzoomのQ&A機能がフル活用されました。「互いの文化を大切にできるクラスづくりや社会の実現のためにみんなでできること、必要なことにはどのようなことがありますか?」や発表者のコメントから「支援のしすぎについてどのように考えますか」などたくさんの質問をいただきました。

パネリストによる回答が終了し、イベントは盛況のうちに幕を閉じました。