JICA

「熱い心と、冷たい頭を持て」
という言葉の意味を噛み締めています。
中東・欧州部 岡田 有加

問題が存在するという制約のなかで、いま、どういった支援ができるのか、のちに、どういった効果を発現させたいのかを考える必要も当然あるわけです。つまり、途上国が、現在抱えている課題と向き合いながら、そこで暮らす彼ら彼女らに寄り添っていくという。複雑な歴史が入り組んだパレスチナで出会った母子には、そういった視点を教わったような気がします。

JICAの研修で初めてパレスチナを訪れたとき、ガザの検問所で10歳位の男の子とその母親の姿を見かけました。ガザは、出域も入域も非常に厳しい地域です。検問所を通過する人々のほとんどが、国際機関や他ドナーの職員だったため、珍しいな、と思った私は、「どういう理由で、イスラエルに行くのですか?」と質問してみたんです。母親は、癌を罹っている息子さんの治療のために、特別な許可を得て、イスラエルの病院に定期的に通院しているのだと答えてくれました。ガザには、癌のような重い病気の治療に適した施設がなかったのです。

彼女のようにガザで暮らすパレスチナ人が出域するとき、パレスチナ側の検問所では、イスラエルのスパイになったりはしないだろうな? と、問われることもあるそうです。母子は、そうしたやりとりを強いられることに、げんなりした様子でした。しかも彼女たちは、パレスチナとイスラエルの関係が悪化したら、戻ってこられなくなるかもしれないというリスクまで背負っているわけです。私は、そうした現実を目の当たりにして、大きなショックを受けました。

難民キャンプの幼稚園で(パレスチナ)

もともと、私が、途上国支援や難民に関心を持つようになったのは、小学校の社会科の授業で、国連難民高等弁務官の緒方貞子さんについて教わったことがきっかけです。当時の私がイメージする「難民」と言えば、理不尽な理由で抑圧されている人々、というものでした。その頃、私は、親の仕事の都合で、大阪から引っ越しをして、兵庫県の豊岡市で暮らしはじめていたのですが、幼い自分は、大げさにも、慣れない環境による不自由さを、難民の境遇に重ねていたのかもしれません。つまり、方言・文化の違いや、慣習により端無くも確立されていた男女の役割分担によって、私自身も、抑圧されている存在だという感覚を持っていたんです。いまから考えれば、抱える困難のレベルが比較にならないほど違うのですが、小学生の私は、なにかつながりを感じて、将来、難民の方々のための力になりたいと考えるようになりました

国際協力という仕事をするにあたっては、すぐに直接的に解決することが難しい問題に直面するケースも多々あります。そうした状況において、問題の解決を諦めるという意味ではもちろんないのですが、問題が存在するという制約のなかで、いま、どういった支援ができるのか、のちに、どういった効果を発現させたいのかを考える必要も当然あるわけです。つまり、途上国が、現在抱えている課題と向き合いながら、そこで暮らす彼ら彼女らに寄り添っていくという。複雑な歴史が入り組んだパレスチナで出会った母子には、そういった視点を教わったような気がします。

そして、その二人の顔とともに、私がいつも心に刻んでいるのが、「熱い心と、冷たい頭を持て」という緒方貞子さんの言葉です。私はどちらかというと、想いが溢れるタイプなので(笑)、相手に共感してもらうことで、物事を進めようとしがちなのですが、成し遂げたいという強い想いとともに、いったん冷静になって、問題や関係者へのアプローチ方法を考え、工夫することも大切なんだな、と、いま改めてその言葉の意味を噛み締めています。

「誰かを想う気持ち」は、時間も国境も越える。 なんとかしなきゃ!プロジェクトでは、連載企画として著名人とJICA職員それぞれが語る「誰かを想う気持ち」をご紹介しています。
J-WAVE 81.3FMの番組「JICA MUSIC ANTHOLOGY」(毎週金曜日21:00-21:10)と連動し、ゲストに音楽をとおして「誰かを想う気持ち」を語っていただいている記事はこちら↓

JICA MUSIC ANTHOLOGY

 毎週金曜日 21:00~21:10 www.j-wave.co.jp/original/avalon/

※生放送番組のため放送時間は前後いたします。※特番編成などで休止になる場合がございます。あらかじめご了承ください。


JICA職員のインタビュー一覧はこちら→http://nantokashinakya.jp/jicastaff/list.html