JICA

「どこかで彼女とつながっているのだと信じて」
青年海外協力隊事務局 遠藤 亜純

きっかけをくれたカンボジアの女性とは連絡先を交換したわけでもありませんし、名前だって知りません。もう二度と会うことはないのかもしれない。けれど、いつかなんらかの形で彼女の力になりたいと願っています。そして、そういう想いを忘れないように、カンボジアの写真をスマートフォンの待ち受け画面にして、たびたび思い出せるようにしているんです(笑)。

大学二年生のときに二週間、医療系のNGOのインターン生としてカンボジアを訪れました。現地で循環診療の手伝いをしていると、カルテに空欄のある女性がいて。記入してもらえるようになんども声をかけたのですが、彼女はその度に首を横に振るだけです。どういうことなのか理解できずきょとんとしていたら、女性は、続けて目を覆うような仕草をみせました。
私はそこでようやく、彼女が文字を読めないんだということに思い至ったんです。現地の識字率の低さについて知識は持っていたのに、目の前にいる彼女の状況を想像さえしていなかった……今から振り返ると、そんな自分自身への驚きが、人生の転機になったような気がします。

NGOのインターン生として訪れたカンボジアで

もう少し遡ると、高校時代に読んだ新聞記事に大きな衝撃を受けたという記憶もあります。「戦争の恐怖」と題された写真(ピューリッツァー賞を受賞したベトナム戦争で逃げ惑う子どもたちを撮影した写真)の被写体の一人でもあった女性のインタビューです。本人の意思ではどうにもならない困難を背負わざるを得なかった人々の存在を、そのときはじめて実感しました。
そうした影響もあって、大学では国際政治学を学ぼうと決めたわけですが、勉強するにつれて、先進国の価値観を途上国の人々に押し付けることによって起こる弊害も学ぶことになります。私は、考えれば考えるほど、何が正しいのかがわからなくなってしまって……。インターンで医療系のNGOを選んだのも、医療ならばそうした葛藤が少ないだろうと思ったからです。求めている人に医療を提供することにたいして疑問を抱く人はいないでしょう。けれど、カンボジアで字の読めない女性と出会ったことで、多様な支援の必要性を改めて感じました。医療が受けられないのはお金がないからで、お金がないのは低賃金の仕事しかできないからで、低賃金の仕事しかできないのはスキルがないからで、スキルがないのは文字が読めないからで……といったように、一つの問題を辿っていくと必ず別の分野の問題にも突き当たることになるわけですから。

ただ、支援によってなにかを変えたときには、良い効果だけでなく悪い効果も生み出してしまうことも強く自覚しています。それでも良くなると信じて進むしかないとは思うのですが、正直言って、その部分のもやもやはいまでも晴れていません。答えの無い問題ですから、解決しようがないのかもしれません。けれど、そのもやもやを抱えながら考え続けているからこそ、押し付けではない支援が実現できるのではないかとも思うのです。

きっかけをくれたカンボジアの女性とは連絡先を交換したわけでもありませんし、名前だって知りません。もう二度と会うことはないのかもしれない。けれど、いつかなんらかの形で彼女の力になりたいと願っています。そして、そういう想いを忘れないように、カンボジアの写真をスマートフォンの待ち受け画面にして、たびたび思い出せるようにしているんです(笑)。現在はカンボジアを専門とする部署に所属しているわけではないのですが、さまざまな仕事を経験し、いろいろな分野や地域を見たあとだからこそ、カンボジアに寄与できることがきっとある。そういう気持ちを持ち続けながら目の前の業務に励みたいと考えています。どこかで彼女とつながっているのだと信じて。

「誰かを想う気持ち」は、時間も国境も越える。 なんとかしなきゃ!プロジェクトでは、連載企画として著名人とJICA職員それぞれが語る「誰かを想う気持ち」をご紹介しています。
J-WAVE 81.3FMの番組「JICA MUSIC ANTHOLOGY」(毎週金曜日21:00-21:10)と連動し、ゲストに音楽をとおして「誰かを想う気持ち」を語っていただいている記事はこちら↓

JICA MUSIC ANTHOLOGY

 毎週金曜日 21:00~21:10 www.j-wave.co.jp/original/avalon/

※生放送番組のため放送時間は前後いたします。※特番編成などで休止になる場合がございます。あらかじめご了承ください。


JICA職員のインタビュー一覧はこちら→http://nantokashinakya.jp/jicastaff/list.html