2015年11月27日
国際協力機構(JICA)は、10月3日(土)、ネパール最高裁判所と「迅速かつ公平な紛争解決のための裁判所能力強化プロジェクト」との共同による「震災関連紛争経験共有セミナー」を開催した。ネパールと日本は、いずれも地震をはじめとする自然災害多発国である。災害に備えた法制度や、災害により人々の間に生じた紛争を迅速に解決する制度を作る必要があり、両国の経験から学び、今後の発展に活かすことを目指したものである。
インドによる国境封鎖の影響でガソリン不足の中での開催であったが、ギリシュ・チャンドラ・ラル最高裁判事をはじめとする最高裁判所関係者、10を超える高等・地方裁判所及び特別裁判所、法・司法・制憲議会・国会省、検事総長府、ネパール弁護士会、ネパール警察、ネパール保険委員会、関連ドナー等から70人を超える参加があった。
岡本弁護士
セミナーは、ビプル・ニュウパネ最高裁事務局長と清水ネパール事務所長の挨拶により始まった。まず、日本からのゲストスピーカである岡本正弁護士(中央大客員教授・慶應大講師)が、東日本大震災後に様々な形で現地での法律相談を行い、4万人を超える被災者のニーズを収集・分析して被災者支援に役立て、更に政策提言等を行った日本の弁護士会等の活動を紹介した。
左:ラウル判事
続いて、ネパール側から4月の大震災以降の状況が紹介された。ヘマンタ・ラウル判事(カトマンズ地方裁判所)は、震災後刑事事件が増加していること、また被災地の裁判所では訴訟書類が滅失した例や、当事者が裁判所に出頭できない問題が生じていること等、裁判所で起きている問題を紹介した。また、裁判所に持ち込まれている災害関連紛争には、現行法のもとで解決することができないものも多く含まれており、特別な法制度整備の必要性があると報告した。
左:ポカレル事務局長
スニル・ポカレル氏(ネパール弁護士会事務局長)からは、雇用や借金、保険、裁判手続きなど、様々な法律手続の場面に震災の影響が生じていることや、現行法では迅速に解決できない問題が報告された。ネパール弁護士会では甚大な被害が生じている地域についてはリーガル・エイドによる支援を行っているが、震災の前から貧困等の問題に苦しんでいた人々が震災により更に苦境に立たされており、人権ベースのアプローチが必要であるとの指摘もあった。
アチャーリア上席法務官
更に、バサンタ・アチャーリア氏(カトマンズ市役所上席法務官)は、震災により倒壊した、あるいは倒壊のおそれのある建物を巡って住民間に様々な問題が生じ、それが市役所に持ち込まれていることを紹介した。市役所では特別チームを作って問題解決に当たっているが、危険な建物を壊して欲しいという近隣住民と、修繕して使用したいという所有者の間の調整は簡単には進まず、持ち込まれた450件のうち150件が未解決ということだった。
その後会場全体での活発な質疑応答が行われ、参加者からは本セミナーの他、震災関連法整備及び復興法へのJICAの支援を期待する声が上がった。
ラル判事と岡本弁護士
セミナーは、ラル最高裁判事による閉会の辞をもって締め括られた。同判事は、挨拶の中で、震災による様々な困難に対し様々な機関と協力して取り組む決意や、法の下の平等を徹底して震災被害に苦しむ人々を支援していくことの重要性を訴えた。
JICAはネパールにおいて2009年より民法起草支援等の法整備支援を実施しており、2013年より「迅速かつ公平な紛争解決のための裁判所能力強化プロジェクト」において裁判の迅速化や、司法調停の効果的な利用促進に関する能力強化を支援している。
また、JICAは震災以降、学校や住宅、病院、給水施設、橋梁等の復旧・復興に関する支援を行ってきている。更に、耐震住宅・施設技術基準及びガイドラインの作成や復興方針へのインプット等を行う他、カトマンズ盆地における開発計画及びシンズパルチョーク及びゴルカ郡における復旧・復興計画の策定を行っている。