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サヘル地域での砂漠化対処および生計向上への農民技術の形成と普及

掲載日:2010年9月8日

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モスケで行なったワークショップの風景(2010年5月14日)

本事業は2010年4月からニジェール共和国でJICA草の根技術協力事業(注1)として始まりました。私たちの事業は、事業名そのままなのですが、農業技術をニジェールのサヘル地域で普及することを目標としています。この農業技術は「耕地内休閑システム」というもので、京都大学が開発、その後、国際農林水産業研究センター(JIRCAS)と国際半乾燥熱帯作物研究所(ICRISAT)ニアメ支所との共同研究プロジェクトにおいてその実証が行なわれてきたものです。近年、ニジェールでは、人の数が増え、面積当たりの作物生産量が減ってきており、ローテーションを組んで土地を休ませていた従来のやりかた(農業活動を行なわずに草が生えるままにさせ休閑地をもうける)が困難となってきています。結果としてますます土地が疲弊している中、「耕地内休閑システム」は、使用中の農地内で、作物を播種せず除草も行わずに放置して、草を生えさせる場所(植生バンド=休閑地バンド)をもうけ、その植生バンドを毎年ずらしていくことにより、結果として農地全体を休ませましょうという技術です。

(注1)JICA草の根技術協力事業は、日本のNGOや大学、地方自治体、公益法人の団体等が、これまでに培ってきた経験や技術を活かして企画した途上国への協力活動をJICAが支援し、共同で実施する事業。

5mに過ぎない幅を順番に1年ずつ休ませていくわけですが、乾季にもその植生バンドを維持することにより、乾季に吹いてくる風がもたらす土や有機物が植生バンドに溜まり、肥沃な農地であればそれほど顕著な効果がでないかもしれませんが、疲れた農地であればその区画で翌年栽培する作物の生育状態や生産量が良くなることが確認されています。また辺り一面農地ばかりの場所では、砂漠化の現象の1つである、植物の被覆が地上にないがために風が起こしてしまう侵食(風食)が進んでいますが、この「耕地内休閑システム」を利用する農家が増えれば増えるほど、土を植生バンドで留めることにより、風食(→砂漠化)を抑制することにも繋がります。

砂漠化について考える際に問題の要因となる風を、逆に利用して植生バンドに土や有機物を溜めることにより農業に活用、「生計」を向上させる(収量を増大させる)とともに、「砂漠化」進行を抑制することを目的として、この「耕地内休閑システム」の普及活動を行なっています。

事業名に「農業技術」でなく「農民技術」という単語を用いているのは、この技術を導入する際、あらたに労働力を増やしたり、投資したりする必要がほとんどなく(植生バンドのぶん、栽培面積は減り、乾季の間の草の管理維持が、牧畜も展開されている地域では困難であるという課題はありますが、基本としては「播種しない」、「除草しない」ため)、農家の負担が少ないからこそ継続して利用してもらえる「農民のための技術」となって欲しいという期待があるからです。また、「技術の普及」のみでなく「技術の形成」を目標としているのは、地域によって異なる環境、住民によって異なる習慣などの多様な背景があるニジェールのサヘル地域で、さらに実際のところ導入してみなければどんな点が重要となるかわからない状況もあり、単に普及するだけではなく、参加してくださる方々と、活動を通じて、より適した(場合によっては場所によって異なる)技術を形成していくことも目的にしているからです。

事業で普及する技術と、その技術が普及されることで期待できる効果の概略は上記の通りですが、加えてこの事業では普及過程(あるいは手法)にも重点を置いています。その理由には、これまで普及するための活動を行なっても広まらなかった、あるいは事業期間にのみ応用され、事業が終了すると用いられなくなった「技術」が、少なからず見られるからです。例えば、水食防止、または土地の固定のために並べられた石、その効果は住民も認めているのに、事業終了後にあらたな石が並べられている気配がない背景には(もちろん石を運んでくる作業が重労働だったり、お金が必要という負担の面も理由になるのでしょうが)、もしかすると普及過程に改善の余地があるのかもしれません。

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小学校で行なったワークショップの風景(2010年5月18日)

本事業では、あえてグループを形成する等の組織化を活動当初に行なわず、技術の紹介を対象となる村や地域で行ない、技術に関心をもって参加したい意思表示を示す人にのみ、その個々の農地で技術を導入していただいています。技術の効果が目に見えてあらわれるのは2年目以降(1年目は植生バンドをもうけるだけで、その年の生産量はバンドのために農地を割いてしまうために減ることはあっても増えることはないため)、効果があらわれだしたときに、周囲の人たちがどのように反応し技術に関心をもってくれるのか、そしてそこから本当の意味で普及活動が始まります。

実は、技術に関心をもって、事業初期より活動に関わってくれる人たち、1年目には効果が見えないにも関わらずそうした方々が出てくれるかどうかが少し不安でした。ところが、実際に始めてみると、思いのほか参加を希望する人たちが多かったことが嬉しい驚きでした。村によっては、こちらがサポートしきれないと思えたこともあって、人数制限をしたところもあるほどです。

現在、ティラベリ州の2カントン(注2)及びドッソ州の1カントンで活動を行っています。ティラベリ州では、カントンの長やコミューン(注3)役所で推薦してもらった各村で技術紹介を行ない、ドッソ州では、コミューン役所の教育分野担当者が、地域内の学校の先生や公務員(診療所の看護師等)の中で雨季に村に残り農業を行なう方々に声をかけてくださり、彼らに集まってもらって技術紹介を行ない、そのうえで参加者を募りました。幸い、この事業でパートナーとなってくれているニジェールNGOが教育関係の活動を行なっていることもあり、ティラベリ州でも、だいたいの村で先生とコンタクトし、小学校をお借りして技術紹介を行なうことができました(ドッソ州のカントンではコミューン役所の会議室を使用。またティラベリ州の一部の村ではモスケ(注4)や村長の自宅を使用)。各村で技術紹介を行なった地域と、先生等に集まってもらって技術紹介を行なった地域の違いは、コミューン役所やカントンの長にコンタクトした際の対応が違ったために発生したものです。そのため、参加者のほとんどが農家で1つの村に10人前後の参加者がいる村もある一方で、参加者が1人の先生だけという村もあります(そのため、その村出身でない先生が農地を借りることができずに、今年は活動のない村もいくつかあります)。

(注2)カントンはニジェールの伝統的行政区分であり、中には、コミューンの区分と重なる所もあります。
(注3)ニジェールでは、州の下が県、県の下がコミューンという行政区分になっています。
(注4)ニジェール国民の大多数はイスラーム教徒であり、モスケ(仏語。英語ではモスク)はその礼拝堂。

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植生バンドをもうける場所の農地内での指導(2010年6月7日)

初年度となる2010年は、事業開始が雨季直前の4月だったため、現在のところ30ヶ村ほどを対象としています。この雨季が終われば、他の地域にもコンタクトし、事業で予定している50ヶ村ほどを対象として、活動を2013年の3月までの3年間続けていく予定です。また現在、事業の外でのことになりますが、耕地内休閑システムの普及に関わってくださっている青年海外協力隊員の方もいます。

まだまだ活動を始めたばかりで、予定通りにいっていない点もあります。なにより私がまだ現地語も話せないために、現地のファシリテータとして事業に参加いただいている方に依るところが大きいですが、普及の対象技術の改良・工夫のみでなく、活動方法もどんどん工夫していきたいと思います。青年海外協力隊の皆さんや、ニジェールで他の事業に関わっている皆さんからお話をうかがい、より良い活動にしていきたいと考えています。

(財)地球・人間環境フォーラム
プロジェクトコーディネーター
瀬戸 進一