平成25年度帰国 青年海外協力隊 前田 那美子
氏名:前田 那美子
職種:卓球
派遣国:モロッコ
配属先:ブッチャラミン青年の家
派遣期間:平成23年6月〜平成25年6月(シリアに派遣された後、情勢不安定によりモロッコへ振替派遣となり、任期を延長)
略歴:那覇国際高等学校を卒業後、創価大学通信課程で学ぶ。勉学の傍ら、沖縄市立美東中学校で部活動の指導も行う。休学し、青年海外協力隊へ参加。
インタビュー
- 1. 任地の気候や食べ物、生活環境などを教えてください。
- モロッコは自然が豊かで海も山も砂漠もありますが、私の任地エルラシディアは内陸部の砂漠地帯にあり、見渡す限り茶色の街でした。季節の流れは日本と同じですが、年中乾燥しており、雨は冬から春にかけて少し降る程度です。それでも、山岳地帯から流れ着く雪解け水のおかげで、生活用水に困ることはあまりありません。
5月〜10月は気温40度から50度で日差しも強烈。一見厳しい気候のようですが、毎日が雲一つない青空で、私のとてもお気に入りの季節でした。
そんな砂漠の街では、毎週日曜日と木曜日に各地から新鮮な季節の野菜が豊富に入り、市場が賑わいます。
主な家庭料理はタジン鍋で作る野菜や肉の蒸し料理で、味付けは種々のスパイスと香草にオリーブオイルをたっぷり使ったまろやかなものが主流です。
- 2. 活動された内容を教えてください。
- モロッコには、青年・スポーツ省が青少年健全育成をめざし建てた「青年の家」が各都市にあります。私は、最貧県であるエルラシディアの「ブッチャラミン青年の家」に配属され、その利用者拡大のためスポーツ活動の実施を要請されました。
卓球のクラブ活動をやるつもりで赴任しましたが、そもそも県内での卓球競技が未発展である現状を知り、県内全域に卓球競技を普及させる活動を行いました。人集めから始めたところ、活動対象者は20歳前後の男子学生ということになりました。
具体的な活動として、配属先にて毎日卓球クラスを開催、県内各都市を巡回し公式ルール講習会、配属先に卓球チームを結成、県大会の企画運営などを行いました。
私が学生に指導を始めて1年半が経った頃、配属先の近くにある公立大学から声をかけてもらい、大学対抗試合に参戦、6名の学生が地域大会で好成績を残し、うち2名が全国大会ベスト8という信じられない快挙を成し遂げました。
これが学生たちの自信となり、私の任期が終え後任が入らない事になった今でも、学生が自分たちの手でエルラシディアの卓球活動を広げていこうと、団結して地道に頑張っています。
- 3. 活動にあたり障がいとなったことやそれを克服していった事例があればお教えください。また活動はどうでしたか?
- 人々のモラルのなさによくがっかりさせられました。教室に平気でごみを捨てたり、物を壊して知らんふりをしていたり。卓球台を壊され、2か月卓球ができなかった事もありました。これに対し、私の学生の対応にもイライラさせられました。教室が汚くても自分のせいじゃないと知らんふり、台が壊れても管理責任の擦り合いばかり。
そんな自分の学生の意識改革なら簡単でした。学生から私は、卓球の技術のおかげで絶対的な尊敬の念を持たれていたため、言うより行動で示すことができました。例えば、私一人で大掃除をしだしたり、ハンマーを持ち出して卓球台を直してみたり。それに驚いた学生は「先生はいいから僕たちがやるよ!」と道具を取り上げられ…と、コントのような事がよくありました。そうやって掃除を手伝ってもらった事があったので、「○○さん掃除をしてくれてありがとう!」とのポスターを教室に貼りました。
学生に喜んでもらいましたが、一番の狙いはこの教室を利用する卓球以外の子供たちです。掃除をした人の顔が見えるように、きれいに教室や備品を使ってくれるように。
この成果かどうかは不明ですが、ポスターを貼って以降は教室がひどく荒らされた事はありませんでしたし、ほかのクラスの子供たちが大掃除を手伝いに来てくれたこともありました。
- 4. 失敗談や楽しかったこと、困ったこと、大変だったことは?
- 任地で接する人々は皆イスラム教徒だったので、それなりに知識をつけ、イスラムの考え方に心を開いて接するように心がけました。その心がけの中で困ったこともあり、異文化で生活する面白さも感じました。
卓球の指導途中、お祈りの時間だから!と指導を中断されたこと。近所の子供に、イスラムへの改宗を本気で迫られたこと。女性一人で男性集団を指導する、任地では異常なチーム体制を、どれだけオープンにし、どれだけ地域の人々に理解させるか。日々苦心したことなど。
- 5. その他、何でも感じたことを書いてください。
- 学生、同僚、同じ配属先の隊員。毎日接するメンバーには本当に恵まれ、彼らの支えのおかげで良い活動をすることができました。卓球の活動だけで見ると、かなり厳しい条件でのスタートでしたが、人とのつながりを何よりも大切に、できることから地道に進めた結果、自分も周囲の人々も満足するような成果を出せました。様々な形で支え、応援してくださったすべての方々に感謝しています。
- 6. これから海外に出ようとしているウチナーンチュに一言。
- 文化や価値観が違っても、誠意はきっと周りの人々に伝わります。肩の力を抜いて、自分らしく人々と向き合うことが、一番大切なことだと思います。気張りすぎず、新しい友人に出会うつもりで、それぞれの使命ある場所へ元気に羽ばたいて行ってください。