月刊!プロジェクトマネージャーの1日 第8回

草の根技術協力事業の現場では、プロジェクト・マネージャーという、言わばリーダーのような人が指揮をとり活動をしています。プロジェクト・マネージャーの方々が、一日何をして過ごしたかを通じて、プロジェクトにかける想いを語ります。

今回は、ブラジルで地域保健強化の活動している、HANDS(Health And Development Service)の定森 徹さんに筆を執っていただきました。

第8回:「コミュニティ保健ワーカーの育成のために、アマゾンを大移動!(HANDS 定森さん)」

  • プロジェクト・マネージャー:定森 徹さん
  • 団体名:特定非営利活動法人 HANDS(Health And Development Service)
  • 事業名:アマゾン地域保健強化プロジェクト(草の根パートナー型)

はじめまして!私は、ブラジルのアマゾンで活動している、定森 徹といいます。

我々は、ブラジルのアマゾン奥地、マニコレ市に住む人たちの健康状態を良くするために活動をしています。そこで我々が目をつけたのは、ブラジルにある「コミュニティ保健ワーカー(以下CHW)」という制度です。

彼らは地元の人たちで、コミュニティにおいて、戸別訪問や集会などを行なって保健に関する知識を伝えたり、慢性病患者や妊産婦さん、子供達などを訪ねて、健康状態のチェックをしたり相談に乗ったりします。

我々は、このCHW向けのトレーニング、CHWの戸別訪問に同行しての訪問方法指導、住民向け保健啓発教材作成配布などをすることで、彼らの能力向上を図っています。

CHWが地域の地図を作成しているところ。

CHWが地域の地図を作成しているところ。左上が私です。

それでは早速、私のある1日をご紹介いたしましょう。

【私のある1日】

今日の予定は主に2つ。1つは遠隔地スーパーバイズ出発。もう一つは来週月曜から始まるCHWトレーニングの準備です。

AM 7:00

九州とほぼ同じ広さです。

黒く塗った部分がマニコレ。九州とほぼ同じ広さです。

事務所でスタッフミーティングです。
今日からマニコレ河に2泊3日で船を出し、CHWの活動のスーパーバイズを行ないます。
ローカルスタッフは6名います。今日はそれに加え、一緒にスーパーバイズに行く市保健局のハイムンドさん、船の運転手さん2名、モーターボートの運転手さん1名に調理担当者1名と大所帯です。
「とにかく安全第一。無理をしないように」とミーティングを終えました。

AM 8:00

スーパーバイズの船が出発です。ローカルスタッフのMaria Franciscaさん、Pauloさん、保健局のRaimundoさん、運転手のHerminioさんとToroさん、調理担当はEdithさんです。マデイラ河のスーパーバイズは2週間近くかかるため大変ですが、マニコレ河は2泊3日なので荷物の積み込みなども簡単です。船長16メートルの船には200馬力ほどのディーゼルエンジンを搭載しています。

残ったスタッフはそれぞれの仕事を始めます。
今日は金曜日。来週の月曜日には月給を受け取りにくるCHWたちに対してトレーニングを行います。
ローカルスタッフDilsonさんは市街地のCHWのスーパーバイズで戸別訪問に同行するため自転車に乗って出発しました。

EmersonさんはCHWトレーニングに必要な物品の購入や整理で駆け回っています。
TekaさんとIlidioさんは州立大学のサテライトキャンパスに授業を受けに行きました(彼らは学生でもあるので、授業終了後の午後からまた働きます)。

僕は、まずはメールのチェックです。なにせ奥地ですのでインターネットもパラボラアンテナを使用した衛星経由です。メールチェックを終えると、教材の仕上げに入ります。今回はイラスト入りの住民向け保健教育教材をPhotoshopを使用して作成しています。イラストは保健局に勤める地元の青年に描いてもらいました。なかなかかわいいイラストです。トレーニングでは、この教材を使って、CHWが地元で住民を対象に保健教育をする練習をします。

やっと出来上がった!と思ってもう一度見直すと誤字がありました。うーん、なんで何回チェックしても誤字があるのか…。

AM 11:30

ようやく教材の最終版が出来上がりました。ロジ担当のEmersonさんにコピーしに行ってもらいます。コピーと製本でかなりの作業量ですが、それはコピー屋がやってくれます。
Dilsonさんが市街地CHWのスーパーバイズから戻り、チェックシートを僕の所に持ってきました。Dilsonさんと二人、チェックシートを見ながら、そのCHWの状況と今後どうするかを話し合います。今日のCHW、知識はまあまああるのですがなにしろアガリ性で、人前でうまく話せません。来週のトレーニングを待って、その後の変化を見守ろうと言うことになりました。

PM 12:30

ごちゃごちゃとした作業を終えて、昼食へ。近所の普通の民家の庭先で食堂をやっているところへ行きます。今日の食事はナマズのフライ。カリッとした衣と淡白な白身にライムをかけて食べると大変おいしいです。
食後はお昼寝です。なにしろ暑いですし、ちょっと前にデング熱にかかって体調をかなり崩したので休養をとらないと。昼寝も仕事のうち(?)です。

PM 2:00

事務所で仕事再開です。
スタッフみんな、月曜からのトレーニングの準備でおおわらわです。

PM 4:00

一緒に仕事をしている市保健局CHWコーディネーターのマルガリータさんも交えてミーティングです。マルガリータさんが、「今までのトレーニングでどの程度知識が身についているか、テストをしてみよう」と提案し、早速テスト問題を作り始めました。あまり難しいことを聞いてもなんですので、基本的なことを中心に、しかも分かりやすい文章で作ります。
市街地には准看護士の資格を持っているCHWも10名ほどいます。来週のトレーニングでは、小グループで保健指導練習をする際のグループリーダーを彼女達にやってもらいます。その彼女たちがやってきたので、どういう手順でやるのか、説明をします。
「あっ、だめだよ!テスト問題見ちゃ。」

PM 6:00

CHWが血圧測定のトレーニングをしているところ。

CHWが血圧測定のトレーニングをしているところ。

トレーニング準備完了です。
必要な機材、教材などを事務所のソファーの上にまとめておきます。
マニコレ河に行ったみんなは無事に元気にしているかな?6時には日が暮れて暗くなるので、それまでには船に戻って来るという決まりです。まあ、みんな慣れているから大丈夫でしょう。事務所を出る前に最後のメールチェックです。それではまた来週!

ばたばたと忙しい一日でしたが、市街地の準看資格を持つCHWが来週のトレーニングで協力してくれることも決まり一安心です。週末はゆっくり休んで月曜日から3日間続くトレーニングに備えます。

【活動地の状況と、私の目標】

「ねえねえ、トオル、すごいのよ。南部の乱開発!やり放題に木を切って、その後に火をかけて、その後を牧場にしてるのよ。」
マニコレ市南部の保健状況を視察に行った市保健局のマルガリータさんが市南部の乱開発について話してくれました。
マニコレ市は九州ほどの大きさのところに、約4万人が住んでいます。その多くは北部を流れているマデイラ河沿いに住んでいます。しかし、現在は南部の殆ど人が住んでいなかった地帯に道路が出来ています。そちらへ今、外部から人々が流れ込み、大変な乱開発が起きています。マラリアをはじめとするさまざまな熱帯病が猛威を振るっており、市・州・連邦などの政府権限も殆ど及んでいません。また、もともと森と河の恵みに頼って生きてきた定住者もいないため、新たに入植した人々は環境破壊などお構いなしに目先の利益を追っています。
普通に考えれば、人口と環境破壊は比例しそうですが、実は、人口空白地帯があるほど、大規模な環境破壊がおきやすいことが分かります。
それに対し、昔から「森と河の恵み」に頼って生きてきたマデイラ河沿いの人々は半自給自足的な生活を今でも続けており、乱開発には加担しません。そんなことをすれば自分たちの生活基盤を崩してしまうのを肌で感じているのでしょう。しかし、最近では遠隔地のコミュニティでも発電機を1日に数時間動かし、夜にはコミュニティに唯一あるパラボラアンテナ付テレビをみんなで見ていたりします。そんな中で、都市での生活に憧れ、また保健状況の劣悪さから都市を目指す人は絶えません。
そんな「森と河の恵みに頼って生きてきた人々」の健康状態を良くする事は、人々が森から出て行ってしまうことを予防し、ひいては、その「森を守る人々」が「環境破壊を防ぐ」ことにつながるのだと思います。
また、僕は長年、ブラジルの大都市の貧困地帯で働いてきました。都会に憧れ、都会に行けばいい給料をもらえる仕事に就け、いい生活が出来る。そう思って農村部から都市へ出てきて、失業・アルコール中毒・薬物中毒・犯罪などの現実に翻弄され打ちのめされている人たちを数多く見てきました。だからこそ、半自給自足的に、環境と調和しながら生きている人々が、少なくとも健康問題のせいで都市へ流れていくのを防げれば、とも思います。
それによって人々が幸せに暮らせ、また、アマゾンの世界的にも貴重な自然を守ることが出来ればと考えているのです。

【アマゾンの夕焼けを見て感じたこと】

ある日、夕日を見に川岸へ行きました。アマゾンの夕焼けは、それはそれは美しいのです。すると、川岸の沈んだカヌーを風呂桶のようにして水浴びをしている一家がいました。市街地では殆どの家に水道が来ているので、おそらくすごく貧しい一家なのだろう。そう思いました。 お父さん、お母さん、10歳くらいの子供と赤ちゃんが楽しそうに水浴びをしています。石鹸をつけて体を洗い、子供たちはうれしそうな声を上げながらお母さんに水をかけてもらっています。夕日の中、シルエットが浮かび上がり、それは本当に美しく、また幸せそうな光景でした。 「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。」ジョバンニが言いました。 「僕わからない。」カムパネルラがぼんやり言いました。 僕は宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の一節を思い出しながら、その夕日の中の美しい光景をぼんやり眺めていました。

【HANDSとは?】

HANDSは保健医療分野の専門的知識と技術に裏づけされた質の高い協力を提供することによって、平和で豊かな国際社会作りに貢献することを目指している特定非営利活動法人です。
私たちは、地域の人々が自立し、格差のない自分たちのための社会を自ら形成できるよう、ともに努力していきます。そして、世界の人々と手を取り合い、健康で豊かな地球市民社会の実現を目指します。
私たちのホームページでは、活動についての報告を行っています。興味を持っていただけた方は、ホームページを是非ご覧ください。

【次号のお知らせ】

次号(第9号)は、ベトナムで子どもたちの健やかな成長のために活動している、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの三木さんの1日をご紹介します。12月15日に掲載予定です。お楽しみに!