月刊!プロジェクトマネージャーの1日 第10回

草の根技術協力事業の現場では、プロジェクト・マネージャーという、言わばリーダーのような人が指揮をとり活動をしています。プロジェクト・マネージャーの方々が、一日何をして過ごしたかを通じて、プロジェクトにかける想いを語ります。

今回は、インドで女性の自立のために支援活動をしている、特定非営利活動法人 ソムニードの原 康子さんに筆を執っていただきました。

第10回:「インドのオバチャンたちの自立を目指して奮闘中!(ソムニード 原さん)」

  • プロジェクト・マネージャー:原 康子さん
  • 団体名:特定非営利活動法人 ソムニード
  • 事業名:都市近郊農村部の女性自助グループと都市スラムの女性自助グループの連携による新たな産直運動構築と自立のための共有財産創出(草の根パートナー型)

はじめまして、オバチャンの、オバチャンによる、オバチャンのための自立支援プロジェクトを担当しておりますオバチャン・プロジェクト・マネージャーの原康子です。インドのアーンドラ・プラデッシュ州ビシャカパトナムというベンガル湾を望む港町のスラムで、3年間の予定で実施しているこの事業は、いよいよ2005年12月に折り返し点にさしかかります。

ビシャカパトナム市内スラムのSHG(Self Help Group:女性自助グループ)メンバーと私

ビシャカパトナム市内スラムのSHG(Self Help Group:女性自助グループ)メンバーと私(中央)

それでは早速、私のある1日をご紹介いたしましょう。

【私のある1日】

今日の目標(午前9時現在)は、とてもささやかな次の3つ。その1:市内のスラムでのSHGミーティングに参加する、その2:数週間前からスタッフに頼まれている書類をすばやく片付ける、その3:午後5時半に帰宅する。果たして、今日はいくつの目標を達成できるか?!

AM 9:00

朝のスタッフ・ミーティング。
ミーティング終了後すぐ、停電。しばらくスタッフの孫自慢、病気の話、家族への不満、上司(私も含む)への不満、同僚への不満、最近のヒット映画のことなど、一通り聞く。この事業の担当スタッフは、合計14名。ソムニードと「マヒラ・アクション」という団体のスタッフから成るこのチームは、家族のように仲が良く、よく喧嘩もする。

AM 10:30

電気が復旧し、天井の扇風機が回り出した途端、大急ぎで仕事にとりかかるスタッフ。プロジェクト事務所運用ガイドラインについて議論するスタッフ、会計書類を整理するスタッフ、SHGミーティングの記録を英語と現地の言葉で作成するスタッフ、などなど目が回るよう。

PM 2:30

私:「あーっ、今日は3時から郊外のスラムでミーティングだった!早く行かなくちゃ!」
スタッフ:「朝、言ったじゃないですか。ミーティングは明日に延期すると、SHGのメンバーから電話があったでしょ。今日の午後は、スラムへは行きませんよ。」
同事業開始当時は、どのSHGもミーティングにドタキャンは当然であったが、今はどのグループも必ず電話をかけてきて、日程変更を伝えるようになった。
スタッフ:「ところで、明日までにこの書類見てくださいね。」
私:「ノープロブレム」
私は自分の机に戻って、書類を見る代わりに「プロジェクト・マネージャーの1日」を書き始める。
スタッフ:「もう書類見てくれました?」
私:「イヤー結構、時間かかるねえ、この書類。あっそろそろ5時半じゃない!?」

PM 5:30

スタッフ一同、事務所終了時刻になったというのに、誰も帰り支度をする様子なし。

PM 5:35

SHGのオバチャンから電話。
オバチャン:「プロジェクト事務所の文房具の見積が出来たので、今から見てください。」
私:「えっまだお金使ってないの?!もう3日前に見積書OKって言って、会計スタッフから現金受け取ったでしょ?」
オバチャン:「そうなんだけどさ、文房具だって、まとめて買うと4,000ルピー(約10,000円)以上するのよ!ちょっと不安だったから、あれからもう一軒文房具店に行って、見積書をとってきたの。でもその店もやっぱり同じくらいの値段だったわ。
どーしよう、高いわー。」
オバチャンたちが日常扱う金額は200ルピー(約500円)前後。
私:「だからって消しゴム1個、鉛筆1本って、その都度買ってちゃ、ダメ。VVK(※)は事務所を持った組織なのよ。文房具もまとめ買いして、ちゃんと毎月在庫管理してゆくのよ!」
オバチャン:「うーん、じゃあ思い切って、今日こそは買ってくるわ。
お金を使うわよっ!」
私:「早く買ってーっ!」
(※)VVKとは、7つのSHGによる連合体「ビシャカ・ワニタ・クランティ」のこと。将来建設予定の「生産・物流センター」への運営・管理を可能にするため、プロジェクト事務所の運営(備品の購入も含む)も研修の一つ。

PM 6:30

事務所終了時刻もほとんど気にしないスタッフと、事務所終了時刻そして、土日を無視して、月に何度もミーティングを開き、事務所に足を運ぶ、やる気いっぱいのオバチャンたちに囲まれたプロジェクト・マネージャーの1日はまだ終わらない。

次回は「プロジェクト・マネージャーの休日」というテーマで、白い砂浜を見下ろすバルコニーで、冷えたビールを飲みながら、優雅に原稿を書きたい。
あっ今度は、別のSHGからオバチャンたちが事務所にやって来た!

【嬉しいこの瞬間】

金銭出納簿を学ぶVVK(SHG連合体)のメンバー

金銭出納簿を学ぶVVK(SHG連合体)のメンバー

「自立」の対極が「依存」とすれば、事業開始直後、地元のNGOスタッフや政府の役人からの「施し」を受けるのが当然、「アタシたち貧しいんだから、助けてもらって当然」というスラムのオバチャンたちはまさに援助「依存」状態でした。未だかつてオバチャンたちが経験したことのないパートナー選抜“SHGの帳簿も自分たちでつけようともしないやる気のないSHGとは一緒にプロジェクトはしない”をくぐり抜けた7つのSHGのオバチャンたち。2005年3月のある研修中、あるオバチャンがつぶやいた言葉が忘れられません。「アタシ、“エンパワーメント”って何度も聞いていたけど、これ(金銭出納簿や仕訳帳の付け方という新しい技術の習得)がエンパワーメントじゃないかと思うの。」彼女こそ、私たちスタッフをエンパワーしてくれました。今、オバチャンたちは、“アタシたちのVVK”、“アタシたちの生産・物流センター”をどうやって運営してゆくかで頭がいっぱいです。この事業を通じて初めて、援助に依存するだけの「受益者」から主体的な事業の「実施者」となってゆくオバチャンたち。スラムの過酷な環境に暮らすオバチャンたちが尊厳を持って、自立して事業を実施してゆくのは、事業終了後のオバチャンにかかっています。

【ソムニードが目指す“コミュニティ開発”】

岐阜県高山市に事務局本部を持つ特定非営利活動法人ソムニードは、1993年に設立されました。現在では、インド、ビシャカパトナムとネパールのカトマンズに事務所を持ち、日本国内での事業も併せ、“コミュニティ開発”に携わっています。農業、保健、インフラ整備、経済、環境などセクターには分けられない“コミュニティ”。ソムニードは、コミュニティの現実に基づいて、「あなたたちの」ではなく、「私たちの」共通の課題の解決に向けて、活動しています。

私たちのホームページでは、活動についての報告を行っています。興味を持っていただけた方は、ホームページを是非ご覧ください。

【次号のお知らせ】

次号(第11号)は、ヨルダンで地球緑化と住民生活向上の両立のために活動をしている、社団法人 日本国際民間協力会(NICCO)の津田 加奈子さんの1日をご紹介します。2月15日に掲載予定です。お楽しみに!