月刊!プロジェクトマネージャーの1日 第24回

草の根技術協力事業の現場では、プロジェクト・マネージャーという、言わばリーダーのような人が指揮をとり活動をしています。プロジェクト・マネージャーの方々が、一日何をして過ごしたかを通じて、プロジェクトにかける想いを語ります。

今回は、カンボジアにおいて、青少年育成の一翼を担う『体育教育』を充実させるため、体育科の指導書作成を支援している、特定非営利活動法人ハート・オブ・ゴールド(HG)の山口 拓さんに筆を執っていただきました。

第24回:「カンボジアで本格的な体育科授業の実現を目指して。(ハート・オブ・ゴールド 山口さん)」

  • プロジェクト・マネージャー:山口 拓さん
  • 団体名:特定非営利活動法人 ハート・オブ・ゴールド
  • 事業名:カンボジア小学校体育科指導書作成支援事業(草の根パートナー型)

はじめまして、私は、カンボジアで活動しているハート・オブ・ゴールド(以下HG)の山口 拓と申します。

約30年に及んだ内戦を経て開発期に移行し始めているカンボジア。しかし、『若年層の爆発的増加』、『貧富の差の拡大』、『社会規範の低下』、『教育の未整備』など、未来を担う青少年の健全育成は前途多難です。青少年育成の一翼を担う『体育教育』を充実させるため、JICAと日本のNGOである私たちが協力してこのプロジェクトを行っています。

既にプロジェクトが開始されて、1年が過ぎようとしています。プロジェクトには、JICA、HGの他、HGのパートナーとして筑波大学、岡山県大学国際交流推進機構、その他のHG専門家などが、アドバイザーとして控え、プロジェクト・マネージャーの調整の元で、それぞれの担当分野に関するサポートを行っています。

筑波大学からは、高橋 健夫 副学長を初め、岡出 美則助教授の全面的な技術的アドバイスを受けており、実際の作成や行政官トレーニングを実施。また、岡山県や岡山県大学国際交流推進機構は、4ヶ月間程度日本に派遣されるカンボジア人担当官のトレーニングをサポート。さらに、HGの体力測定の専門家として千葉氏の協力を仰ぎ、育成プロジェクトを実現しています。

本プロジェクトを担当している私は、教育省内の体育科指導書作成実行委員会(P.E. C-TM WG)と共に、指導要領や指導書内容の調整、実施スケジュールの管理、必要な情報の提供、ワークショップ運営管理などをこなす傍ら、上述のような様々なHGパートナーとの調整を行っています。

それでは早速、私の1日を紹介します。

【私のある1日】

今日は首都プノンペンで行う第2回体力測定研修会の初日。午後からは、既に行った体力測定の結果を返却し、その読み方を説明します。教育省本局の総局長も出席するので、正装で出発です。

AM7:00

目覚まし時計2つで目を覚まし、朝日、コーヒー、音楽、シャワーで五感を起こします。

AM7:30

身支度を整え、仕事場へ。カンボジアも日本と同様、朝の交通渋滞。毎週水曜と木曜は教育省での活動日ですが今日は、研修会初日なので、早めの出勤。

AM8:00

教育省 学校体育スポーツ局と教育調査局で構成されるワーキンググループのメンバーが教育省のワーキングスペースに集合。今日から3日間は、対象校の体育教師、対象州教育局の担当官を対象とした『体力測定』に関する第2回研修会。本日の研修会内容を専門家、ワーキンググループと最終確認し、会場へ出発。

AM8:15

【写真】

開会式の風景。左端が私。

研修会の会場であるオリンピック・スタジアム会議室に到着。研修会初日なので、最初に開会式が行われる。私もHGの代表として参加者に激励のスピーチ。カンボジアのテレビ局や新聞記者が勢ぞろい、教師達も興味津々の面持ちです。

AM8:30

【写真】

参加者に統計の講義をしている様子。この日ばかりは、先生達も生徒に逆戻り!

さて、講義開始。午前2講義、午後2講義で行われます。なお、このプロジェクトでは、主に地域の小学校教師を育成しています。JICAも同様に小学校や小学校教員養成校に青年海外協力隊を派遣していますが、本プロジェクトでは、隊員とカウンターパートにも参加していただいています。プロジェクト開始から1年。今では小学校教員に加え、数年後に予定している体力測定の全国展開を視野に入れて州教育局の職員も招き、講義や実技を行っています。

私は、指導者として招聘したHG専門家、そして、運営者として活動するワーキング・グループ・メンバーのサポート役として、電子機器の調整、時間配分、使用教材のチェックを行う傍ら、議事録を作成します。

AM11:30

今回、体力測定専門家として招き、小学校教師と州教育局の職員に指導して頂いているHG専門家の先生方と昼食。午後の準備があるので、大急ぎで昼食を済ませます。

PM1:00

【写真】

カンボジアでも入手可能な材料を基に、体力測定時に不可欠な体力測定器具の作成方法の研修。参加者達は、笑顔を交えて仲良く大奮闘で作成中!

午後の講義開始。講義の内容は、体力測定です。研修会に参加した先生達はそれぞれの学校に帰って学んだ知識を発揮し、実際の体力測定を行いますが、体力測定種目を行う技術のみならず、測定時に必要な機材の確保、作成、さらには、記入用紙への記入方法など、指導の内容は、多岐に渡っています。カンボジアでは、学校で身長、体重すら測られません。すなわち、体力の統計を作るのは、教育省にとっても、教員にとっても大変な作業なのです。

PM4:30

事務所に戻り、メールのチェック。HGアジア地域事務所の他事業担当者への対応をするなど、所長職の仕事をします。

PM6:00

スタッフ、専門家との夕食。前菜は、マンゴーサラダ、空心菜、海苔のスープに、揚げ春巻き、蛙のバジル和え、魚のアモック(カレー風味)をオーダー。クメール料理屋でたらふく食べた後、クメール・デザートに舌鼓。前回の体力測定レビュー、本日の講義内容、参加者の反応を再検討し、明日に備えます。

PM7:30

事務所に戻って、もう一仕事。ワーキング・グループの提出した翻訳資料を読み返し、指導要領専門家にメールで提出。数度のやり取りをした後、明日の仕事準備・確認をして本日の業務終了。

PM9:30

普段はシャワーで済ます毎日。でも、今日は一日の疲れを落とすため、久しぶりに風呂桶入浴。入浴後、ビール片手に音楽を聴いたり、NHKで経済最前線を見たり、リラックス。

PM11:00

【写真】

普段の活動は地味な作業の繰り返し。ワーキング・グループでは、検討に検討を重ね、完成に向けて歩み続けています。

明日も研修会が続くので今日は寝るとするか…

グラウンド整備や体育館増築、スポーツ器具の提供はあっても、体育分野の教育支援は珍しい。正直なところ、統計資料も然ることながら、全てにおいて一から準備しなければならないのは、大変。ただ、今日のワークショップ終了時に専門家を取り囲んでいたワーキング・グループ・メンバーの前向きな姿勢などを目にすると、出来る限りの資料を入手、翻訳し、共に知識、経験を蓄積することで、プロジェクト終了後にメンバーが事業を支えることのできるように最善を尽くしたいと思うのです。明日からも、一歩ずつ、一緒に歩んで行こうと思います。

【ちょっと小話 〜これまでのカンボジア体育事情〜】

戦後30年、これまで多くの国や組織が多国間、二国間、草の根援助組織を通じて、教育に関する大規模支援を展開してきました。

しかし、カンボジアでは、未だ人口の増加、経済的な問題などの諸事情から学生に対しての『学校』、『校舎』、『教室』、『教員』数が十分ではありません。

そのため、特に人口が集中している都心を初めとする地域では、未だ2-3部制が布かれ、知識を向上させる授業の実現に七転八倒するに留まっています。

カンボジアの指導要領総説を見てみると、今記したことが明白に掲げられています。『国語(クメール語)』、『算数』『理科』、『社会』と言った主要教科以外の授業科目では、唯一、体育が独立した授業として含まれるに留まっており、芸術や音楽などは社会科の一部に加えられているに過ぎません。

各地域での生活知識を向上させる『Local Life Skills Programs』が2005年から新しく加えられましたが、残念ながら、学校の持つもう一つの重要な側面、すなわち、情操教育の充実にまでは行き着いておらず、『生徒会』、『課外活動』などに至っては手を付けられない状況にあります。言葉を変えると、実社会に出る前段階において学校と言う小社会で学ぶべき、社会規範などを学ぶ場が限定的だと言わざるを得ないのです。

こうした状況を受けて教育省の担当局は、指導要領総説に盛り込まれており将来性のある体育科に着目し、指導要領を改訂するために、これまでにも多くの組織にこれらの支援を要請してきました。

一大事業となる為、これまで大規模組織へ支援依頼を続けてきましたが、二国間や国際機関等の支援機関では支援優先順位の低い体育科支援が実施されることはなく、彼らの希望が実現する事はありませんでした。こうした経緯の元で体育科教育支援が懸案の一部として教育省内に埋もれようとしていたのです。

しかし今回、教育省からの依頼を受けたHGが、JICAの草の根パートナー型事業に申請。申請が受理されたことで、教育開発事業の実績があるJICAと、体育・スポーツ・青少年育成事業の知見を持つHGとの協力で当事業支援が行われる事になったのです。

【ハート・オブ・ゴールドとは?】

1996年から開催している『アンコールワット国際ハーフマラソン』による義手・義足支援をきっかけに、現地のオリンピック委員会や教育省と共に、主にカンボジアでの活動を続けてきました。

また、各種競技や体育の指導を通じて指導者育成を行い、今では、カンボジアの小学校保健体育科指導書の作成支援をしています。

さらに、日本語教室を初めとする自立支援や国際交流、青少年活動を通じて、全ての人の心に『希望と勇気』を分かち合う種を撒いていきたいと考えています。

【次号のお知らせ】

次号(第25号)では、今回に続き特定非営利活動法人ハート・オブ・ゴールドの山口さんに登場していただき、『プロジェクトマネージャーの1週間』をご紹介します。4月15日に掲載予定です。お楽しみに!