月刊!プロジェクトマネージャーの1日 第38回

草の根技術協力事業の現場では、プロジェクト・マネージャーという、言わばリーダーのような人が指揮をとり活動をしています。プロジェクト・マネージャーの方々が、一日何をして過ごしたかを通じて、プロジェクトにかける想いを語ります。

そして、今年5月28日から30日まで横浜で開催される「アフリカ開発会議(TICAD IV)」にちなみ、前々回から3回にわたってアフリカ各国で活躍するプロジェクト・マネージャーが登場します。

アフリカ特集最終回の今回は、ケニアにて、日本独自の上総掘りの技術を活かした安全な水の確保に取り組む、特定非営利法人インターナショナル・ウォーター・プロジェクトの大野比佐代さんに筆を執っていただきました。

〜これまでに紹介されたアフリカでの活動〜

第38回:「ケニアにて、日本独自の上総掘りの技術を活かし、地域住民の安全な水へのアクセスを。(IWP 大野比佐代さん)」

  • プロジェクト・マネージャー:大野 比佐代さん
  • 団体名:特定非営利活動法人 インターナショナル・ウォーター・プロジェクト(IWP)
  • 事業名:ジュキニ地域における上総掘り技術指導者の育成と安全な水の確保(草の根協力支援型)

はじめまして! 私は、ケニアで活動している、大野比佐代です。

活動地であるケニア南部ロイトキトック県ジュキニ地域には、絶対的な水不足、野生動物による水場の危険性、土地の裸地化など多様な水に係る問題があります。これらの問題を解消するために、日本独自の上総掘りという井戸掘削技術の指導者を育成し、地域住民へ技術を移転しています。この他にも動物用溜池建設、オリジナル環境紙芝居、植樹を通して総合的な水環境の改善を実施しています。

【写真】

上総掘り井戸掘削現場全景。

それでは早速、私のある1日をご紹介いたしましょう。

【私のある1日】

前回の草の根技術協力事業(2005年1月〜9月)で上総掘り技術を習得した現地住民(マサイ族)を技術指導者に育てることが今事業の主目的です。昨年の事業開始時からスタッフの技術力は着実に向上しています。なんと言っても全員の仕事に対する意識・責任感が著しく向上しました。そんなスタッフと私のある1日をご紹介します。

今日は、井戸の掘削現場に向かってから、掘削要請がある地域の調査と政府のコミュニティ開発担当者との打ち合わせを予定しています。

AM6:10

起床。まずは部屋の窓から今日のキリマンジャロ山をチェック。僅かに雪を残したキボ峰が見える。温度も水量も調節不可能な簡易シャワーを浴びる。時々水や熱湯になるので要注意だ。メールをチェック後、日本人スタッフ2名と一緒に朝食をとり、お弁当を作って準備OK。

AM8:00

出発前の車の点検は欠かせない。ジュキニには鋭い棘のあるアカシアが多く、毎日のようにパンクする。今日は二手に分かれて行動するので2台で出勤。一台は今事業用にとケニア政府から運転手付で貸与されているピックアップだ。事務所のあるロイトキトックで現場の昼食用食材を買い込み、日本人スタッフ1名と活動現場のジュキニへ先発してもらう。

AM8:15

政府のコミュニティ開発担当者ブリ氏に、事業の進捗状況を報告し打合せ。ブリ氏はロイトキトック出身のマサイ族で、ロイトキトック県はもとより隣のカジアド県でも政府関係者や住民から絶大な信頼を得ている。

現在も大統領選挙後の暴動の影響で物資の調達に大きな遅れが出ている。発注してあるポリ塩化ビニル製パイプが今日入荷予定なので、念のためハードウェア店へ確認に行く。やっと首都ナイロビからロイトキトックに向けて出たトラックが途中で故障したとのこと。修理に更に4-5日かかるらしい。どう文句を言っても待つしかない。ポレポレ(ゆっくりあせらず)。

AM9:40

【写真】

掘削開始前にコミュニティ全員と参加にあたっての注意事項、約束事の確認等のミーティングをする。左からコミュニティ開発担当のブリ氏、私、現地調整員のニコラス、コミュニティのリーダー。

ロイトキトックからジュキニまでは約50km。車で45分だ。道路が補修されたので、ダートとはいえ前事業時と比較すると通勤時間は半分になった。

やっと現場に到着したが、見渡すとコミュニティの参加者がいつもより少ない。毎日最低10名の参加が約束されていたが今日は8名である。コミュニティのリーダーに聞くと昨日から行方不明になっている山羊を探しに行っているとのこと。干ばつで餓死する家畜もいるなか、男性達は家畜の世話を家族や友人に任せて井戸掘削に参加している。仕方がない。昼前に2名の住民が来た。どうやら山羊が見つかったらしい。こちらもひと安心。

硬いと予想した地層も思ったよりは順調に掘削が進んでいる。

PM1:00

【写真】

現場でママ達と記念撮影。左から私、昼食担当のIWPスタッフ:ソモイナ、掘削用水汲みでプロジェクトに参加しているコミュニティのママ達。

昼食。井戸掘りは重労働なのでIWPスタッフと参加住民には現場で昼食を支給している。今日はライス&ビーンズ。皆の大好物だ。前事業では住民に食材を提供してもらったが、干ばつの今期は住民負担が大き過ぎるので当会が負担している。日本人スタッフは持参の手作り弁当を頬張る。

PM2:00

午後の作業開始。スタッフと住民のチームワークも良く掘削が順調に進んでいるので、井戸掘削の陳情があったサイトの調査に行く。車で川を渡り、急斜面と崖淵を通り過ぎてようやく到着。しかし、報告よりも実際の居住者数が少ない上、まだコミュニティとして形成されていないようだ。1km程先には前事業で掘削した井戸があるので、掘削サイトとしては今回は見送ることにした。

【写真】

掘削作業は2人一組で行う。指導のためIWPスタッフとコミュニティがコンビを組む。

【写真】

コミュニティの女性は掘削用の水汲みで参加する。掘削に使用する水の量は状況によって異なるが、毎日4本のドラム缶に水を溜めておくことがコミュニティとの約束である。

PM3:30

調査を終え掘削現場に戻る。少しずつだが掘削できているので、スタッフや住民もテンションを保って元気だ。これが、一生懸命掘っても1日十数センチという時は、気力がついていかない。特に初めて上総掘りを経験する住民は落ち込む一方となる。そういう時は翌日の参加状況にも係わるので、こちらが盛上げるしかない。あの手この手で皆を励ます。

PM5:20

本日も怪我もなく無事作業終了。今日の掘削は0.97m。累計深度18.67m。目標の帯水層は20m付近なのであともう一頑張りだ。スタッフに明日の掘削の指示をし、コミュニティのリーダーには参加予定者と掘削用の水確保の確認をして解散。6:00に再びブリ氏との打合せがあるため急いでロイトキトックに戻る。

PM6:00

アクションプラン作り。ブリ氏と日本人スタッフ全員で事業終了後のコミュニティによる資金確保について打合せる。事業実施中から並行して持続性について検討をする必要がある。今日は政府を始め資金提供をする組織をピックアップしてその可能性を検討した。

PM7:30

打合せ終了。いつもは自炊だが、今日は遅くなったので町の食堂で夕食をすませる。

PM9:00

メールをチェックしたいが、まだインターネットに繋がる時間ではない。残務処理をする。

PM12:00

メールチェック終了。就寝。

帯水層に近付いているので、現場の皆は「明日で掘削完了だ!」と張切っている。明日も安全第一で作業を進めよう。

【ちょっといい話〜天下一品のチームワーク〜】

掘削現場では日本語、英語、スワヒリ語、マサイ語と4つの言語が飛び交っています。というと何が問題かと思われるかも知れませんが、例えば、ギリアマ族スタッフがスワヒリ語で注意をすると、マサイ族スタッフが日本語で「はい。」と答えます。私たちは調整員のニコラスを“おにいちゃん”と呼んでいますが、スタッフや住民の間でも「おにいちゃん。」「はーい。」という会話がしばしば聞かれます。

上総掘りは一人ではできません。ひとつの作業を数人で行うことが多くあります。そうした時は意思の疎通、チームワークがポイントとなります。言語に拘らず、その時々で皆上手に使い分けています。日常のこうしたやり取りと思いやりが参加住民も含めた現場のチームワークを生むのだと思います。内外から上総掘り現場を視察に来られた方は、皆一様にチームワークの良さ、現場の雰囲気の良さに驚いています。彼らのチームワークは天下一品。私たちIWPの自慢のスタッフです。

【インターナショナル・ウォーター・プロジェクト(IWP)とは?】

1995年に設立された国際協力団体です。「飢えている人に魚を与えるのではなく、魚の獲り方を教えよ。」という諺がIWPの活動理念です。“いのちの水”に困っている人々に上総掘りという日本独自の適正技術を指導しながら、水を中心とした持続可能な地域開発を実施しています。

【次号のお知らせ】

次号(第39号)は、フィリピンで地域の保健事業と生活向上事業を支援する、特定非営利活動法人アジア日本相互交流センター(ICAN)の森崎さんの1日をご紹介します。6月15日に掲載予定です。お楽しみに!